161話:視察開始
島左近清興だ、一夜あけた後、本日よりロミオ・シュバルツ王太子殿下による視察が始まる。ワシはその道案内としてロミオ王太子殿下とルナ・キサラギ等と共に同行することになった。因みに王太子の側近であるピサロは謹慎中である
「それでは某がご案内仕ります。」
「うむ。」
まずは【サコン町】を回ることにした、民たちは王族の一行が現れた途端に平伏した。王族が来ることは事前に伝えておいたからな、警備隊に命じて不逞の輩を捕縛し、町は平穏そのものであった。町を見回った後、次に回ったのは【サコン塩湖】と田畑一帯である。ロミオ王太子殿下は塩湖に興味津々でワシに何度も質問をしてきた
「この湖から塩が作られるのか。」
「御意にございます。」
「私も湖塩を舐めた事があるが未だに信じられん。」
「世の中は広うございますからな。」
「うむ、良き勉強になったぞ。」
「ははっ、畏れ入りまする。」
田畑から穀物や果樹の他に、織物作りの材料に使う青芋や藪芋麻畑も見せた。ロミオ王太子は興味津々に再び質問をした
「この雑草から織物が生まれたのか。」
「御意にございます。」
「以前、大公殿下から見せてもらったが、あれほどの高価な布から生まれたとは到底思えぬ。」
「某も同様にございます。」
「絹は蚕、綿は綿花から作られているのは聞いたことはあるが、まさかこの雑草から産み出されるとはな。」
ロミオ一行が次に向かったのが【エメリカ山脈】である、そこで【サコン山塩】と産み出す塩泉を見せた。ロミオは【サコン山塩】も召し上がった事があり、ロミオ曰く「同じ塩でもこうも違いがあるのか」と感心しておられた。百聞は一見に如かず、実際にこの目でみた方が早いのである。次に琥珀の採掘地を回った、王太子一行が現れると鉱夫たちは平伏したが、「仕事を続けよ」と命じると作業を開始した。先程、掘り当てた琥珀を手にしたロミオはマジマジと見続けた
「うむ、これは美しい。献上品の琥珀はここから作られると思うと感慨深いな。」
「畏れ入りまする。」
次に【コマキ丘陵】へ向かった、すっかりシュバルツ王国内で有名な桜の名所として人々に知られるようになり、またユリヤ・シュバルツ大公殿下がお忍びで花見見物した事で国外でも知られるようになった。ロミオも一度は行ってみたらしく視察も兼ねて訪れたのである。【四季桜】は現在でも咲いており、ロミオは【四季桜】を見ながら歩いていた
「殿下、御足元にお気を付けくださりませ。」
「ああ、それにしても綺麗な桜だ、大公殿下も気に入るわけだ。サコン準男爵、これほどの桜を作るにも金がかかったであろう。」
「御意にございます。」
「うむ、桜は何本植えたのだ?」
「【四季桜】計400本にございます、【四季桜】の苗木は1本で銀貨3枚【3000エン(日本円で3000円)】、400本ともなると【120万エン(日本円で120万円)】かかりましてございます。」
「ほお~、【四季桜】1本にそれほどするのか。」
「それだけではなく公園の整備等も含めましてかなりの額となりましてございます。」
「であろうな。」
桜見物を済ませた王太子一行はその足で【ガルバ町】へと向かった。ワシにとって原点といえる町である。既に町長のゴルベリー・クラスト等が出迎えをしていた。王太子一行が現れると、一斉に平伏した
「皆の者、大儀である。」
「「「「「ははっ!」」」」」
王太子一行は【ガルバ町】に入り、街並みを拝見した。警備隊が民たちを王太子一行に近付かせないように神経をとがらせていた。旅人も王太子一行を一目見ようとこっそり伺っている。【お庭方】も動員しており、怪しい輩がいれば捕縛しており、特に目立った動きはなく、順調に町を視察していた。少しばかり休憩を取った後、【カンバス地域】へ向かう事になった
「ここが【カンバス地域】にございます。」
「おお、牧場や村、町もあるな。それにあの丘は何を植えているのだ?」
「【カンバス盆地】にございますか、葡萄と林檎と梅を植樹しております。」
王太子一行と共に【サコン牧場】を見て回り、広大な敷地に馬が元気よく動き回る姿にロミオ王太子は興味深々だった
「準男爵、この牧場はどれくらいの広さがあるのだ?」
「御意、およそ9万坪(30ヘクタール)にございます。」
「うむ、全て見て回るのに時間がかかるな。」
「では村や町を見て回りましょう。」
王太子一行は【カンバス地域】の4つの村と【カンバス町】を視察した。【カンバス町】は最近できたばかりなので、町長はワシが兼任している。領民たちは王太子一行が現れると平伏した
「【カンバス町】はまだできたばかりのようだな。」
「はい、これから大きくなりまする。」
「次は【カンバス盆地】に行きたいが良いか?」
「畏まりました。」
王太子一行は【カンバス盆地】へ向かうと、そこは成長段階の葡萄と林檎と梅の木が辺り一面にそびえ立っていた
「準男爵、これらの木は収穫しているのか?」
「いいえ、まだ成長段階にございます。」
「もし出来上がったら、どうする気だ?」
「はっ、畏れながら申し上げます。これらも果物は全て果実酒やジュースに致します。」
「そうか、まだ先の話だな。」
「御意にございます。」
次に堤の見物である、王太子一行は巨大な堤をよじ登ると、そこには河川が流れていた
「準男爵、この堤はそなたらが作ったのか?」
「はい、この河川は雨が降れば暴れ川になりますので、莫大な金と人足を投入致しましてございます。」
「うむ、【治水ができてこそ名君である】と歴史書に書かれておった。先人たちの戒めは大切であるな。」
「左様にございます、暴れ川によって田畑は荒らされ、多くの民が犠牲に相成ります。今ある技術も先人たちの汗と涙の結晶、生きる知恵にございますれば、蔑ろにしてはならぬと某は思います。」
「うむ、勉強になったぞ。」
「では最後に元ソビエット子爵領へ参りましょう。」
「・・・・そうだな。」
ソビエット子爵領と聞いたロミオは眉をひそめた。ヤルク・ソビエット子爵の悪政によって領民は途端の苦しみを味わった事を聞いており、領民たちは王国を怨んでいるのではないかと心の中で思っていた
「殿下、もし御嫌であればここで辞めまするが?」
「いや、参ろう。」
ワシらはアーチ橋を渡り、元ソビエット子爵領へ向かった。村の方は徐々に活気を取り戻しており、【青芋織物】によって生活も安定していると聞く。事前に王太子が視察に来ると伝えると全員が緊張した面持ちで頷いた。そして今日、領民とロミオ王太子一行は対面したのである。村長と民たちは平伏しロミオ王太子らを出迎えた
「サコン準男爵、ここがそうか。」
「御意にございます。」
「そうか、随分と荒れておるな。」
「子爵の領地だったころよりはマシになり申した。」
「そうか、村長。」
「は、はい!」
王太子直々から声をかけられた村長は平伏しつつ返事をした。ロミオは村長と民たちに向けて・・・・
「そなたらには済まぬことをしたな。」
ロミオの口から謝罪の言葉が出た。ワシだけではなくルナや護衛、村長や民たちは驚きを隠せなかった。村長は緊張しつつも言葉を発した
「お、畏れ入ります!」
「うむ、大儀であった。」
「「「「「ははっ!」」」」」
こうして視察を終え、【サコン町】へ戻る道中、ロミオはワシに話しかけた
「準男爵、人選を間違えればああも寂れるのだな。」
「御意。」
「ここへ来て良かった、準男爵、礼を申すぞ。」
「勿体のうございます。」
ロミオ王太子にとっては大変な収穫となる視察はこうして無事に終了したのである。王太子一行は一泊した後、王都へ帰還し、此度の事を教訓に自分自身の国造りを考えるのであった




