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160話:王太子来訪

島左近清興だ、〇月〇日、今日は王太子ロミオ・シュバルツの視察日である。領内総出で出迎える準備を進め、止まる宿を清め、献上品の準備も済ませた。ワシは出迎える準備をすると、そこへ騎士団に囲まれた馬車が一台、こちらへ向かってきた。馬車はワシらの前で止まり馬車戸から王族の装束を纏ったロミオ・シュバルツ王太子が降りてきた。ワシらは跪き、王太子を迎えた


「そなたがサコン・シマ準男爵か?」


「ははっ。」


「面を上げよ。」


「はっ!」


ワシは許しを得て、面を上げるとそこには年若き若者の姿があった。向こうはワシの顔を見た途端、ロミオ王太子の顔が強張ったような気がする


「初めて御意を得まする、御前に侍りまするは、サコン・シマに御座います、王太子殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう、恐悦至極に存じ奉ります。」


「う、うむ、出迎え大儀であった。」


「ははっ!」


「では殿下、宿へ御案内いたします。」


ルナに連れられ、ロミオ王太子はそのまま宿へと向かった。ワシらはロミオ王太子が宿に入ったと同時に一旦、屋敷へ戻るとワシや与一以外の者たちは緊張から解放されたのか、ホッとしたようにその場で座り始め最初に発したのはウルザだった


「取り敢えず第一段階は済ませた!」


「ウルザ、まだ始まったばかりだぞ。」


「分かってるわよ、それでも緊張するわ!」


「ウルザ、緊張するのはそなただけではない、ワシも含めて粗相がないように気を配っておる。今しばらくの辛抱だ。」


「はい、主様。」


一方、宿に泊まったロミオはルナ以外の者を下がらせた後、ふと緊張が解けた瞬間にその場で座ろうとしたところ、ルナは側にあった椅子を持っていきロミオを座らせた


「殿下、ご苦労に存じます。如何にございましたか、サコン・シマ準男爵は?」


「・・・・怖かった。」


「怖い・・・・ですか。」


「ああ、何というか奴の発する雰囲気に私は鳥肌が立った、まるで喉元に剣を突きつけられたような心地だ。」


ロミオは島左近と目が合った瞬間、背筋が凍り、鳥肌が立つほどの恐怖心が芽生えた。同時にユリヤ大公殿下の言っていた事を思い出した


「大公殿下は言うておった、蛇に睨まれた蛙にはなるなと、今になってその意味がはっきりと理解した。」


「殿下、サコン・シマは並みの相手ではありません、平和を享受した我が国と違い、彼の者の国は戦争の真っただ中、その中で生き残った百戦錬磨の猛者、我等とは生きる世界が違います。」


「戦争に生き残った者はああいう雰囲気なのか。」


「それは分かりませぬが、サコン・シマが異常なのかもしれません。」


ルナの言い分にロミオは納得せざるをえなかった。ロミオはかつてジュリアス王国のスパイに囚われた異母兄であるロゼオ・シュバルツを救出した島左近に以前から興味を抱いていた。前回の視察で会おうと思ったがこちらのミスで王太子の座を一時的に剥奪され、シュンフェン王国の問題を解決させた事で王太子の座へ返り咲き、二度目の視察を行う事ができたのだが、実際に島左近に会うと恐怖心が体を支配した。その場は何とか誤魔化したが、いつまで保つことができるのか心配になってきた


「殿下、御自分でお決めになられた以上、必ずや成し遂げなければいけませぬ、陛下もそう願っております。」


「分かっておる、分かっておるがやはり怖い。」


「殿下、くれぐれも彼の者に悟られませぬようお願いいたします。」


夕餉の時間になり、ロミオには霜降り肉のステーキとサラダ、ライスとコンソメスープ等を提供した。勿論、厳重な監視下の下で毒を入れようとする者がいないか監視し、毒味を済ませたのである


「本日の夕餉にございます、どうぞ御召し上がりのほどを。」


「サコン準男爵、念のために毒味をしてくれるか?」


島左近に毒味をせよと命じたのはロミオの側近の騎士である。見た目は赤髪の短髪、切れ長の碧眼、10代後半の色白の美男子、名前はピサロ・シェーファである。それを聞いたルナは騎士を叱りつけた


「馬鹿者、サコン準男爵殿は国を救い、ロゼオ元王太子、ユリヤ大公殿下のお命を救った御方、その御方に対し何という物言いだ!」


「無礼は承知にございますが、万が一という事がございます。私は王太子殿下の御身を第一と考えております、どうか御容赦のほどを。」


「貴様!」


「構いませぬよルナ殿、某が毒味をすればそれで解決いたす。」


島左近はルナを宥め、料理の毒味をしようとする、しかしロミオは迷っていた。この場で毒味をすれば毒が入っていない事を証明できるが、島左近に恥をかかせるだけではなく、王太子としての器量が器量のなさ、度量の狭さが露呈してしまう、考えに考えた末、止めることにした


「待て!毒味をせずとも・・・・」


「ムシャムシャ、ん、何か仰いましたかな?」


止めようとしたが時既に遅く、毒味の真っ最中であった、ロミオは顔を真っ赤にさせ、ルナは頭を抱え、側近の騎士は何故止めるのか分からない表情をしていた


「毒味が済むまで御待ちを。」


「う、うむ。」


島左近は毒味を済ませ、安全である事をこの場にて証明したが、おかげでロミオは赤っ恥をかかされたのである


「た、大儀である、下がって良い。」


「ははっ!では此にて。」


島左近が下がったのを確認すると、ロミオは側近の騎士を叱りつけた


「ピサロ、よくも私に恥をかかせたな!」


「で、殿下。」


側近の騎士ピサロは何故、怒られたのか分からず混乱していた。すかさずロミオはまくしたてた


「サコン・シマは我が国を救った大恩人だ、その恩人に恥をかかせおって!」


「で、ですが。」


「言い訳など聞きたくもない!下がっておれ!」


「殿下、もうその辺で。」


怒りに震えるロミオをルナは何とか宥めた。ピサロはロミオの逆鱗に触れた事を自覚し、すぐに部屋を退出した。ピサロは同僚の騎士たちから「余計な事を。」「御咎めがあるな」「空気が読めない」と陰口を叩かれ、今にも自害したい思いでいっぱいだった


「(私は殿下のためを思ったことが逆に殿下に恥をかかせてしまった。)」


ピサロは自分のしたことを後悔し、宿を出た後、人気のない路地に行き、そこで自害しようとした


「父上、母上、先立つ不幸をお許しを。」


剣を抜き、首に当てようした瞬間、頭に痛みが走った


「うっ!」


剣を落とし、地面を見ると小石が散らばっていた


「何をしておる?」


ピサロは声のした方へ振り向くとそこには島左近が立っていた


「護衛の役目を放り投げて、自害しようとしたのか?」


「き、貴殿には関係ない事だ。」


「そうか、では勝手にせよ。まあ、ロミオ王太子殿下は更なる恥をかいても構わぬのであれば、自害でも何でもせよ。」


ピサロは耳を疑った、自分が自害することロミオで王太子殿下が恥をかくのか分からずにいたのである


「ど、どういうことだ!」


「家臣の落ち度は即ち主君の落ち度ということになる。そうなればロミオ王太子殿下は次期国王の座にあらずとして廃嫡になるであろうな。」


「う、嘘だ、そんなの・・・・」


「此度の御視察は予てから国王陛下、王太子殿下の御二方が御叡慮あそばされたもの、もし視察中にそなたが自害すれば王太子殿下は1度ならず2度に渡って国中に自分の器量のなさを露呈することになる。そうなれば流石の国王陛下と庇いきれまい。」


ピサロはハッと我に返った、今ここで自害すれば間違いなく王太子殿下の身に何かあったと調べられ、窮地に追い込むことになってしまう。今になって自分の愚かさに悔し涙が出てきた


「早く宿舎に戻られよ、貴殿にはまだやることがあるのだからな。」


ワシはそう言い残し、その場を去ると同時に、ピサロは剣を仕舞い宿舎へと戻るのであった






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