159話:御視察
島左近清興だ、マシリト商会に嫌がらせを行った商人たちは牢に入れられ、商会は倒産及び破産し、家族は一家離散の上、借金返済のため鉱山送りや娼館に送られる始末となったのである。まあ、此度の事件を影で動かしたのはこのワシなのだが・・・・
「巻き込まれた家族は哀れだが、致し方なしだ。」
ワシの決めた御用商人に嫌がらせをした商人たちが逮捕されたのを機に、続々と新たな商人たちがワシの領地に移住した。マリシト商会は御用商人の地位を得て、八面六臂の活躍を見せているとのこと。ワシとしてはあの商人たちのようにならないよう祈るばかりだ。さてワシは今、元ソビエット子爵領に来ている、現地視察だ
「これは酷いな。」
「左様にございますな。」
サスケから報告は受けていたが、大半の領民は痩せ細っていた。ソビエット子爵家は断絶し、王国の直轄地になってからは生活は徐々に改善されていっているが課題が山積している。元子爵領を案内する村長は現在の生活を話した
「やっと食事にありつけますが、村を復興するにも金がありません。王国からは援助金が出ますが、食糧や日用品で無くなりますので、村の復興が遠退いてしまいます。ですが橋ができた事で準男爵様の領地に行き気ができるようになったので出稼ぎにいけるようになりました。」
ああ、だから自分の事のように喜んでいたのか、橋が出来上がった同時に【カンバス地域】に続々と元子爵領の領民たちが仕事を求めて移入してきたと知らせが入っていた
「そうか、なら新たに仕事を与えると言ったらどうする?」
ワシが新しい仕事を与えるとちらつかせると村長は食い付いた
「何の仕事でしょうか!」
「うむ、そなたらの土地にある雑草、あれは青芋と言うてな、織物の材料に使われるのだ。」
「えっ!あの雑草がですか!」
「あの雑草がだ。そなたらの働き次第で村の産業になる、どうだ引き受けてくれるか?」
「はい!村を救う事が出来るなら御引き受けいたします!」
村長の同意を得た事でワシは織物職人を派遣し、織物作りが始まった。領民たちは青芋を取り、織物職人の指導の下、まず茎の靭皮を麻繊維を取り出し、麻織物を作り始めた
「やり直しだ。」
「はい。」
「ちょっと解れてる。」
「はい。」
領民たちは慣れない手付きで織物作りを行い、失敗を重ねつつ、ようやく上布が完成した
「ようやく完成したぞ。」
織物職人からも許可を頂いた事で出来上がった青芋の上布がマシリト商会に運ばれ、売りに出されたのである。その上布は貴族の目に止まり、高額で売買された。その金は村に6割、マシリト商会に4割で分配されたのである
「おお、これほどの大金があれば村が復興できるぞ!」
村の復興を進めると共に田畑を耕し、山にも青芋の畑を開墾し栽培も開始したのである。その知らせを聞いた島左近はホッと溜め息をついた
「これで元手が取れたな。」
ワシとしても青芋による織物作りによって収益を得た事で橋作りの投資した金が戻った心地であった。もし国王がその事を知ったら、やらなきゃ良かったと後悔するであろうな。ワシとしては利益になる物を得ることができたから万々歳だが・・・・
「左近様。」
「ん、与一か。」
「はっ、シュバルツ王国の馬車がこちらに向かっているとの知らせが届きました。」
シュバルツ王国ということはルナか、今度は何の用だ。ワシは出迎える準備を進めると、外から馬の嘶きが聞こえた。ワシは偶然を装いつつ、玄関へ向かうと案の定、ルナ・キサラギの登場である
「これはこれはルナ殿、ようこそお越しくだされた。」
「サコン殿、突然お尋ねして申し訳ありません。」
「いいえ、ささ中へどうぞ。」
ルナを客間へ案内し、茶と茶菓子を振る舞った。ルナは茶菓子と茶をいただき、一息ついた後、用件を伝えた。用件というのはロミオ・シュバルツ王太子殿下の領内視察である。ワシとしては苦い思い出である、王太子側があまりに急な日程と準備不足のため、視察騒動が起き、王太子の座を一時的に剥奪されており、ワシの方も大量の費用を失ったが国王が費用を弁償しおまけに土地まで賜ったのでチャラにしている
「不躾ながらお尋ねいたすが、今回は大丈夫なのでござろうな?」
「はい、こちらもミスがないよう手配しておりますのでご安心を。」
「前回の視察騒動の二の舞は御免被りますので、念入りにお願いしたい。」
「はい。」
「それで御視察の日時はいつ頃に?」
「はい、〇月〇日に行います。」
〇月〇日、1か月後に行われるようだ、前と比べたら余裕を持って準備ができるので、こちらとしても安心である。ルナからは予め用意する献上品や宿等を事前に調べたいと申していたので急遽、ワシらは献上品と泊まる宿を調査する事にした。まず泊まる宿は、かつてユリヤ・シュバルツ大公殿下が一泊した最高級の宿を紹介するとルナからは問題なしと了承を得た。次に騎士たちが泊まる宿は前回使った宿を宿舎にすることで合意した。最後に献上品である、ワシはこの土地で作られた特産品の数々をルナの前に出すと、ルナからはロミオ王太子の好みから献上品が選別された
「サコン殿、ご協力いただきありがとうございました。」
「いいえ、ルナ殿のおかげにて献上品の用意もでき申した。」
「では〇月〇日にて御会いいたしましょう。」
「心得た。」
ルナは馬車に乗り、王都へ帰還した後、屋敷の者たちを呼び、〇月〇日に王太子の視察を行う事を伝えると皆は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた
「旦那様、今回は大丈夫なのでしょうか?」
「うむ、今回はルナ殿も同行するゆえ心配は無用であろう。」
「主様、また例の視察騒動は御免ですよ。」
「それについてはワシも御免被るわ。」
「ティア、貴方はどう思うの?」
ふとシグレは隣にいたティアに話しかけた。そう例の視察騒動についてである、やはり王宮に仕える侍女だったティアにワシらは一斉に目を向けた
「わ、私ですか!」
「貴方はかつて王宮勤めの侍女だったはず、視察騒動の事は知っているでしょう。」
「は、はい、ですが申し上げる事はできません、王太子殿下の悪口を申し上げるのは畏れ多い事にございます。」
ティアとしては自分の仕える家の悪口は言いたくないだろうし、監視役の立場であれば王宮の事は話したくないだろうしな
「よせ、自分の主君の息子の悪口は申したくはないであろう、その辺にせよ。」
「口が過ぎました、ごめんなさいねティア。」
「いいえ、私の方こそ、も、申し訳ありません。」
「まあ、それは置いといて予め迎える準備を進めておくぞ。領内総出で迎えるぞ。」
「「「「「はい!」」」」」
その頃、王宮の執務室では王太子ロミオは国王ロバート・シュバルツから口が酸っぱくするほどの忠告を受けていた。前回の視察騒動の二の舞は王国側としても避けたい所であろう
「良いか、前回の視察はあまりに準備不足で日程も間に合わなかった、今回はしくじるでないぞ。」
「は、はい父上。」
「本来であればお前を奴の領地に向かわせるのは反対であったが、これも王太子修行の一環としてお前を派遣することにした、しっかりと見聞を広めるのだぞ。」
「はい、父上!」
「ルナ、そなたは側近としてしかと支えるのだぞ。」
「はっ!お任せを。」
「分かったなら下がれ。」
「「ははっ!」」
王太子ロミオとルナ・キサラギは執務室を退出すると、そこにはユリヤ・シュバルツ大公殿下が待ち構えていた
「これは大公殿下!」
「ロミオ、くれぐれも言うておくが蛇に睨まれた蛙にだけはなるなよ。」
「え、それはどういう・・・・」
「今に分かる。」
1か月後の〇月〇日までの準備が進められ、ロミオは緊張した面持ちで島左近の領地へ向かうのであった




