15話:女間者
島左近清興、現在我等はセシリア辺境伯令嬢と共にブリュッセル辺境伯領の辺境伯屋敷で接待を受けていた。食卓にはワシと与一、ブリュッセル辺境伯、ブリュッセル辺境伯夫人、セシリア・ブリュッセル、セシリアの弟であるオシリス・ブリュッセルらが座っていた。出された食事は牛の炙り肉【ステーキ】が主要で、前菜【オードブル】、肉や香味野菜等で煮込んだ汁物【コンソメスープ】等を食する事になった。この異世界に来て、突き匙【フォーク】や小刀【ナイフ】等といった食器を異世界の知識で知ることができたため、扱う事ができた。そこからはワシと与一の武辺話が始まり、ブリュッセル辺境伯は耳を傾けており、セシリアと弟であるオシリスはしきりと聞いてきた
「サコン殿は武勇だけではなく、智勇にも優れているのに、なぜ仕官されないのだ?」
「私自身、鳥と同じで一か所の枝に留まりませぬゆえ、仕官は某にとって窮屈でござる。」
「珍しいですわね。大抵の人は栄耀栄華を求めて仕官をする人がいるのに・・・・」
「人それぞれですな。」
「それがサコン殿の生き方なのであろう。」
「畏れ入ります。」
「うむ、智勇に優れたサコン殿に是非、聞きたいことがあるがよろしいか?」
「何でございましょうか?」
ブリュッセル辺境伯は真剣な表情でワシを見つめていた。言っておくが別にやましいとかではない。恐らくセシリア嬢の事だろうとワシは予感がした。案の定、セシリアの婚約破棄話である。するとセシリアの表情が曇り始めた。ロゼオ王太子から婚約破棄を告げられたのだろう
「セシリアの事だ。サコン殿から見て、此度の婚約破棄はどう思うか。」
「畏れながら某はあくまで一武人にございます。政にも疎く、それに今回の件には関わっておりませんのでお答えのしようが・・・・」
「サコン殿、私が聞きたいのは、もしサコン殿であれば、これからの事をどう予想する?そなたは各地を旅し、様々な情報を知っておろう。」
「ですが・・・・」
「それにセシリアはそなたらの前で婚約破棄の話を聞いてしまったのだ、これが国家機密と言ってもいいくらいだ、知ったからには、分かっておろう。」
おいおい、そんな大事な事はワシらに聞くな、それに脅すな。それはお主等の問題であって、ワシらは関係ないだろうと思いつつ、運悪く婚約破棄の話を聞いてしまったのも事実だ。ワシは観念して、これからの予想を答えることにした
「では謹んでご返答申し上げます。恐らく王太子殿下は廃嫡となるでしょう。国王陛下不在の時にこのような愚挙を行われたのですから。今回の婚約についても王家から勅命によるもの。ましてやセシリア嬢は妃教育に邁進する一方、畏れながら王太子殿下は他の女子と現を抜かしており、不躾ながら非は王国側にございます。それに王太子殿下に近づいたカリンという娘、婚約者がいる相手に己が色香で惑わせ、セシリア嬢に濡れ衣を着せた罪は万死に値します。ましてや相手は次期国王と目された王太子殿下、もはや今回の件で家臣・国民らは王太子殿下への失望が著しく、もはや廃嫡するほか道はございません。」
ワシの返答にブリュッセル辺境伯は頷いた。近くにいたブリュッセル辺境伯夫人、セシリア、オシリスらの表情は一段と固くなった
「やはり廃嫡だろうな。今にして思えばあの婚約はロゼオ殿下の我儘から始まったものだ。亡き王妃様もセシリアの事を気に入っておられたからな。きっとあの世で嘆いておろう。」
「いずれ王国側から使者が到着すると思われます。いずれにしてもセシリア嬢に関わりますゆえ、しっかりと吟味の上で臨むべきかと・・・・」
「うむ、サコン殿に聞いてよかった。礼を言おう。」
「畏れ入ります。」
「ただし今回の事は他言無用に願いたい。」
「承知いたしました。」
食事を終えてからワシらは風呂に入り、長年の旅の労を癒した。風呂に入りながらワシと与一は先程の婚約破棄話をしていた。勿論、読唇術で・・・・
「(左近様、どこの世界でも愚か者がおりますな。)」
「(ああ、政略結婚は互いの家の利益のため、政治的な駆け引きや政治的な利用を主たる目的としている。ましてや王族から申し込まれた婚約だ。どのような理由であれ、王族側が勝手に破ることは許されぬ)。」
「(ですが太閤殿下(豊臣秀吉)は徳川内府(徳川家康)に実の妹である旭姫を嫁がせました。元の夫である副田甚兵衛殿と離縁までさせて・・・・)」
「(あれはやむを得ぬ事情だった。小牧長久手の戦いで太閤殿下が破れて以降、徳川に色々と気を使っていたらな。)」
「(徳川内府は置いといて、今回の件、セシリア嬢は如何されるのでしょう?王太子が勝手に領地で蟄居を命じたそうですが・・・・)」
「(セシリア嬢は蟄居は解かれるだろう。そして王都へ帰還を命じられる。何事もなければな)」
「(左様ですな。)」
ワシらは風呂から上がった後、ベッドで就寝し朝を迎えた。着替えを済ませた後、扉がコンコンと音がなった。ワシらが入室の許可をすると入ってきたのはメイドのマリアだった
「どうぞ。」
「失礼します。サコン様、ヨイチ様。おはようございます、朝食の準備ができましたのでご案内に上がりました。」
「それは忝い。」
ワシらはマリアの案内で食事の間へと向かった。そこにはブリュッセル辺境伯が先に座っていた
「おはようございます、ブリュッセル辺境伯様。」
「おはようございます。」
「おはよう、昨日はよく眠れたかな?」
「はい、誠に。」
「まだ妻も子供たちも来ていない。来るまで話でもしないか?」
「ははっ!御相伴仕ります。」
辺境伯夫人、セシリア、オシリスが来るまで、世間話などをして時間を潰していたころ、後から辺境伯夫人、セシリア、オシリスがやってきた
「おはようございます、旦那様、サコン殿、ヨイチ殿。」
「うむ、おはよう。」
「「おはようございます、御廉中様。」」
「おはようございます、遅れてしまい申し訳ありません。」
「おはようございます、遅れてしまいました。」
夫人はしっかり挨拶をし、セシリアとオシリスは挨拶と謝罪をした後、朝餉を取った。朝餉を取っている途中、メイドのマリアが慌てた様子で入ってきた
「旦那様、王宮より使者が到着いたしました!」
「そうか!すぐに客間を用意し、朝食を与えよ。」
どうやら王宮よりの使者が到着したようだ。ワシと与一は朝餉を取った後、部屋へ戻り、装備の確認をしていると、再びコンコンと音が鳴った
「どうぞ。」
「失礼します。」
入ってきたのはメイドのマリアだった
「サコン様、ヨイチ様、旦那様が御呼びにございます。」
「左様か、今すぐに参る。」
ワシらはマリアに案内され、辺境伯の部屋に向かった。辺境伯の部屋に到着し、先にマリアが部屋へ入った後、入室の許可が降りて、ワシらは部屋に入るのであった
「御召しにより参上いたしました。」
「呼び立てて済まなんだ。まぁ、掛け給え。」
「では御無礼仕ります。」
ワシと与一はブリュッセル辺境伯の許しを得て席に座った
「うむ、話と言うのは王宮より使者が到着し、此度の王太子殿下の件で謝罪と蟄居を取り消しの王命が下った。」
「それはよう御座いました。不躾ながら王太子とカリンと申す娘の処遇は如何に?」
「うむ、ロゼオ王太子殿下は正式に廃嫡となり、第2王子が新たに王太子となる事と相成った。だがカリンという娘は行方不明らしい。」
「行方不明ですと。」
「あぁ、くまなく探したが一向に見つからぬらしい。」
話を聞く限り、そのカリンという女子、ただ者ではないな。もしかしたらどこぞの間者か。すると与一が・・・・
「左近様、発言を御許ししてもよろしゅうございますか?」
「構わんが、如何した。」
「畏れながら、そのカリンという女子、他国のスパイの可能性がございます。」
「スパイだと。」
「はい、これだけ探して見つからない事と言うことは女スパイかと存じます。恐らくは他国へ逃亡、もしくは王都に潜んでいるやもしれません。」
与一もワシと同じ考えのようだ。与一は元は伊賀の忍びだ。忍びの勘が働いたのだろう
「では女スパイは再び事を起こすということか?」
「此度は失敗に終わりましたが、別の手に出るやもしれません。」
「うむ、我等の方でも考えねばならぬな。サコン殿は良き配下を持たれたな。」
「畏れ入ります。」
「ヨイチ殿、礼を申すぞ。サコン」
「畏れ入ります。」




