156話:橋の建築
島左近清興だ、突然だがワシの下にルナ・キサラギがやってきた。勿論、ワシにある任務を伝えるためである
「サコン・シマに【カンバス地域】に属する河川と元ソビエット子爵家に属する河川を繋ぐ橋の建設を命ずる。」
「ははっ!」
ワシの領地【カンバス地域】に属する河川の向こう側、元ソビエット子爵家の領地との間に橋を作るよう命じられたのである。直々にワシを指名するとは、何か裏があるに違いない・・・・
「ルナ殿、まさか不祥事を起こしたソビエット子爵家に位置する河川とワシの支配下にある河川に橋をかけるとは、どういう風の吹き回しですかな?」
「私はただ陛下の命を伝えたまでです。仮に知ったとしてもサコン殿には御教えできません。」
「随分とつれないことだ。」
どうやら知らないようだな、考えられるのはワシの領地の財力を削りたいという思惑があるだろうな。報告を終えたルナは馬車に乗り、王都へ帰還した後、与一に命じて追跡動物を使って国王の真意を探ろうと思った。与一は早速、追跡動物を使いルナよりも先に王都へ到着し、王宮にいる国王ロバート・シュバルツを探し始め、テラスにてロバートとロミオとユリヤの3人だけで御茶会を開いていた。側近とメイドたちを下がらせた状態でだ。遠すぎず近すぎない距離で3人の会話を確認した。会話の内容はやはりワシの事である・・・・
「陛下、サコン・シマに橋の建設を命じたそうですわね。」
「そうだ。」
「父上、何故サコン・シマにそのような事を・・・・」
するとロバートは椅子の下から沢山の陳情書を取り出し、テーブルクロスのかかったテーブルに置いた
「陛下、まさかとは思いますが、これは元ソビエット子爵家の領民たちの陳情書ですか?」
ユリヤが尋ねるとロバートは首を縦に振った。ロミオは陳情書を広げ、内容を拝読し、ロバートの方を向いた
「父上、サコン・シマに統治してほしいと書かれています!」
「あぁ、全ての陳情書も書かれている事は同じだ、どうやら奴の領地に避難した民たちが奴の民政手腕に感服して、こちらも奴の支配下になりたいとな。」
「それで橋の建築をサコン・シマに命じたのですか?」
「うむ、ソビエット子爵家の領地は僅かで村が1つと田畑、山菜と山芋の取れる山しかないから、奴に任せて良いと思ってな。橋を作るだけではなく、ソビエット子爵家の領地の経営もあるから、その分、財力を削る事もできるしな。」
なるほど、そういう裏事情があったとはな。ワシの領地に逃亡した流民たちはワシの経営を見て、国王に陳情書を提出したのか・・・・
「それで陛下、ポスト子爵家の領地は如何なされるので?」
「そこは今まで通り直轄地にする。」
「父上、サコン・シマに任せないのですか?」
「奴の領地とかなり離れておる、それに奴は貴族ではないから領地替えもできん。」
その後、特にこれといった話はなく、御茶会が終わり、役目を終えた追跡動物はそのまま飛び去った。一部始終を見ていた左近と与一はまずは現地視察することにした
「さて、まずは【カンバス地域】へ向かおう、大工も同行させる。」
「御意。」
早速ワシらは職人たちと共に【カンバス地域】へと向かった。【カンバス地域】は村が4つほど出来上がっており、小さいながらも町が作られていた。【カンバス盆地】は葡萄と林檎と梅の植樹活動は終わっており成長中とのこと、今のところ問題は発生していない。堤の方も頑丈で大雨が来たが決壊はしていないとのことである。ワシは堤の上から橋のかけられる場所を検分した。ワシの隣には大工の棟梁であるゴンザも一緒である
「準男爵様、あそこに橋をかけては如何でしょう!」
ゴンザが指差した方向に河幅は狭く、川の流れは緩やかだった
「建設はできるか?」
「はい、お任せを!」
ゴンザは早速、設計図を書き、橋作りに必要な人足、費用等の書状をワシに渡した
「うむ、決まり次第、連絡するから暫し待て。」
「はい!」
ワシは屋敷へ戻り、費用の捻出する前に、【お庭方】に命じて元ソビエット子爵領を調べることにした。村の状況、田畑の規模、特産品の材料となる物等を事前に知っておく必要がある。もし何かあれば商人たちとの交渉の材料になり、商人たちから橋の建築費を出させる目的もある
「サスケ、頼んだぞ。」
「御意。」
サスケらは早速、現地に向かった。その間にワシらは集会場で商人たちを集め、橋の建築の事を伝えた。すると1人の商人がワシに尋ねた
「サコン準男爵様の御領地と元ソビエット子爵領との間に橋を建築すると言うことは、橋の建築が完了した暁に元ソビエット子爵領は準男爵様の物になると言うことでしょうか?」
鋭い所を突いてきたな、他の商人たちもワシの方をマジマジと注視してきた
「分からん、こればかりは国王陛下のみぞ知るということだ。」
「それで手前どもに何をせよと?」
「簡単な事だ、橋建築のための投資だ。」
橋建築の投資と聞いた商人たちは互いに目を合わせた。やはり目先の損得を考えているようだな、まあ元ソビエット子爵領は橋の完成後に賜る事は確実だが、問題はこやつらがどれほど投資するかだ・・・・
「まあ今すぐで無くても良いがな。」
まあ、こやつらはすぐには答えが出ないと思い、話を切り上げた。商人たちは続々と集会場から退席した後、ワシは屋敷に戻った。明日になり、ワシは費用の捻出をしていると、扉からノック音がした。許可を出すと与一が入室してきた
「左近様、客人が参りました。」
「客?誰だ?」
「はっ、商人のカルナ・マシリトとカロン・マシリトにございます。」
カルナ・マシリトとカロン・マシリト、ワシが地主になってから数ヵ月後に越した双子の姉弟の商人だな。ワシのいた現世では双子は畜生腹と言われ忌み嫌われていたが、この世界では双子は問題視されておらず、普通に生活できている。マシリト姉弟が経営するマシリト商会は新興商会であり、ワシの領地で作られた特産品やシュバルツ王国や他国からの品々を売って利益をあげている。特にカルナ・マシリトは女子の身でありながら大した経営手腕の持ち主ともいえる女傑である。集会場にも出席しており、商人の中でも最年少である。見た目についてだが双子ゆえそっくりである、まず姉のカルナは黒髪の長髪、色白で切れ長の黒目、身長は160㎝ほどで年齢は20代後半、常に男物の服を着ている男装美人である。弟のカロンは黒髪の短髪、色白で切れ長の黒目、身長は170mほどで年齢は20代後半、小ぶりの眼鏡をかけた美男子である
「客間へ通せ。」
「はっ。」
ワシは身嗜みを整え、客間へ向かうと、マシリト姉弟が座っており、ワシを見かけるとすぐに立ち上がり挨拶をした
「突然、尋ねてしまい申し訳ありません。」
「それで何用で参ったのだ?」
「はい、我等は橋の建設に投資したいと思い参りました。」
どうやら橋の建設の投資に来たようだ、ワシとしては大助かりだが投資をするからには見返りも要求するであろう
「それで何が望みだ?」
「是非、我等を御用商人にしてほしいのです。」
姉のカルナは単刀直入に言い放った。御用商人か、ワシは今まで依怙贔屓せずに商人たちと付かず離れずの距離で接してきたがこの姉弟は勝負をかけてきたようだ
「御用商人か・・・・随分と思い切ったのう。」
「畏れながらサコン様が地主になってこの方、誰一人として御用商人になった商人がおりません。故に我等、姉弟は橋の建設に賭けているのです。」
「そなたらにとっては大博打といったところか・・・・考えておこう。」
「「ありがとうございます!」」
結局のところ、橋の建設に投資したのはマシリト商会だけであった。この時点でワシの腹が決まった
「(覚えておくぞ、マシリト姉弟よ。)」




