152話:父と娘【2】
島左近清興である、ブレメルン王国の大使は王都に到着してから1週間の時が流れた。今のところは交易に関する会談を行うと同時に娘の探索を続けているようだ
「左近様、会談は終わり申した。」
「うむ、役目を終えた以上は国に帰らざるをえんよ。」
「与一よ、マーリーにこの事を伝えよ、そして数日の間は仕事を休みにし、外には滅多には出るなと伝えよ。」
「ははっ。」
与一は早速ギルドへ向かい、マーリーに内密にこの事を伝えた。マーリーは複雑そうな表情をしており、与一は尋ねた
「マーリー嬢、如何した?」
「は、はい。安心したような、これで良かったのか、私でもよく分かりません。」
「マーリー嬢。」
「ヨイチさん、家で大人しくしていますと【準男爵】様にお伝えください。」
「心得た。」
マーリーは食糧や日用品等を買溜めし、家で籠城する事にした。窓を開けて空気を入れ替えしながら、伯爵一行の様子を伺うことにしたのである。それから数日後にサラシリア伯爵一行が島左近の領地に再び訪れたのである。サラシリア伯爵は真っ先に島左近のいる屋敷へと向かった。【お庭方】の知らせで受けた島左近はカーリー・サラシリア伯爵を出迎えた
「これは伯爵閣下、ようこそお越しくださいました。」
「うむ。」
「立ち話もなんですので、どうぞ我が屋敷へ。」
「失礼する。」
伯爵を客間へ通した後、茶と塩味饅頭を提供した
「伯爵閣下、この塩味饅頭は我が土地で作られた菓子にございます、どうぞお召し上がりくださりませ。」
「ではいただこう。」
伯爵は茶を一服した後、塩味饅頭を味わった
「塩と餡が上手く合わさって、なかなか美味であるな。」
「お褒めに預かり光栄にございます。」
伯爵は塩味饅頭を召し上がり、茶を飲んでいると、そこへサリーナが客間に現れた。そこへ妻のアリーナも駆け付けた
「ちちうえ、遊んで!」
「サリーナ、今はお客人が来ておるぞ。」
「伯爵閣下、旦那様。申し訳ございません、ほらサリーナ。」
「いやあ。」
「はははサコン殿、元気のよい娘御だな。」
「ご無礼仕りました。」
「失礼いたしました。」
アリーナは申し訳なさそうにサリーナを連れて行った。サリーナを見る伯爵の目はどことなく優しく、そして悲しかった。やはり娘のマーリーの事が心配なのだろうな
「サコン殿、私にはマーリーという娘がおる。」
「左様にございますか。」
「お恥ずかしい話ながら娘はかつて王太子殿下の婚約者であったが、わけあって国外追放の身になっている。確かかどうか分からないが娘がこの国にいるという情報が入手してな、役目の傍ら探しておる。」
「畏れながら閣下、もし娘御を見つけた場合は如何されるので?」
「無論、国に連れ返す。伯爵家の令嬢として次の婿を探す。」
マーリーの申した通り、力尽くで連れ戻すつもりのようだ。マーリーの立場からすれば平民の生活の方が性に合っており、堅苦しい公家【貴族】の世界に嫌気が指しておった。だが伯爵は公家【貴族】の世界こそが幸せと考えている。親子のすれ違いはいつの世もあるものよ・・・・
「閣下、ご無礼を承知で申し上げたき事がございます。」
「何だ?」
「もし娘御が貴族に戻りたくないと申された場合、如何なさるので?」
「・・・・何が言いたい。」
「別に他意はござらん、某は閣下の娘御の事は会った事もなければ言葉を交わした事も一切ございませぬ、ただ娘御は平民として暮らしたいと申されても閣下は無理矢理でも貴族の世界に御戻しなされるのかとお聞きした次第にございます。」
伯爵の表情は無表情を貫いたが、雰囲気は暗く威圧感を醸し出していた。他の輩はどうか分からぬがワシにとってはこの程度の威圧感は屁でもないがな
「閣下、何か気に障るような事を申されましたか?」
ワシは不敵な笑みを浮かべ、鷹の如き鋭い眼光を伯爵に向けた。睨み合いの末、伯爵はワシの放つ気迫に押されたのか、伯爵は目線を反らし、先程の威圧感は嘘のように収まり、静かに語り掛けた
「マーリーは死んだ想い人との間にできた娘だ、私としては娘の幸せを願っている。」
「御自分でなされることは娘の幸せだと申されるのですか?流石は閣下、実に貴族らしいお考えにございますな。」
ワシの皮肉に伯爵は顔を歪めた。武士であったワシとは思えぬ発言にワシは完全にこの異世界、いや平民の世界に染まっていたようだ
「閣下、人それぞれ幸せの形は千差万別にございます。娘御にとって貴族の暮らしは果たして幸せであったのでしょうか?」
「・・・・そのような事は聞いておらぬ。」
「言いづらかったのでは?」
伯爵の顔が更に歪んだ。伯爵の心中は貴族と父親と思いが絡み合ってのたうち回っているのであろうな・・・・
「私のしたことは間違っていたと言うのか。」
「いいえ、一概に間違いではござらぬ、閣下が助けなければ娘御は恐らく死んでいたか、孤児院に入るか、人買いに売られていたでしょうな。その点については娘御は閣下に感謝しております。ですが貴族の生活と平民の生活、どちらを望むかは娘御次第ですな。」
ワシは間接的にマーリーの要望を答えた。伯爵は考える素振りを見せた後、ワシの方へ顔を向けた
「サコン殿、娘は元気にしておるのか?」
伯爵はまるで娘がここにいると思わせる発言をした。ワシはあくまでマーリーを知らない呈を装う事にした
「仰る意味が解りかねますが?」
「いや、忘れてくれ。」
伯爵は何かを悟ったのだろうか、それ以上に何も言わなかった
「長居をしてしまったな!私は国に帰るとしよう。」
「左様にございますか、では玄関までお見送りを致します。」
ワシらは立ち上がり、玄関まで向かった。伯爵は黙って馬車に乗った。そしてそのまま馬車は国境の方向へと向かった
「左近様、これで良かったのでしょうか?」
「分からぬ。」
馬車に揺られつつ、サラシリア伯爵は国境まで向かっていると道中で帽子を被った1人の少女と擦れ違った。少女は馬車と擦れ違ったと同時に振り向き、帽子を脱ぎ、深々と頭を下げた
「お父様、今までありがとうございました。」
少女の正体はマーリー・サラシリアであり、直接は会わずともどこかで見送りをしようと考え、馬車を見送ったのである。こうして親子は再び会うことはなく、この見送りが最後であった。その後、ブレメルン王国はルイス・ブレメルンを病死として扱い、王弟の息子を養子に迎えたのである。マーリー・サラシリアも行方不明のまま探索は打ち切られ、こうして幕を下ろしたのである
話は変わるが、2人の女勇者はとある男を置き去りにすることにした
「ようやく眠ったわね。」
「ええ、度の高い酒を飲ませたから、朝まで起きないわ。」
勇者チャーリーとコーネリアスは任務の道中でマコト・アララギと遭遇し一緒に行動することにした。本当は嫌だったのだが、献上品を人質に取られ、どうにか打開策を講じよう考えた結果、酒を飲ませて眠らせ、そのまま置き去りにしようと考えた。早速、マコト用に度数の高い酒を飲ませ、チャーリーとコーネリアスは水を飲み、酔い潰れるのを待っていると、案の定にマコトはイビキをかきながら、ぐっすりと眠った
「そろそろずらかるわよ。」
「ええ。」
馬車はすぐに出発し、マコトは気付かずにそのまま熟睡した後、目を覚ますと馬車や2人の姿がなかった
「くそ!あの女ども、俺をこんな所に置き去りにしやがって!」
置き去りにされた事に気付いたマコトは早くに出発し跡を追おうとしたが天性の方向音痴が災いしいつの間にかシュバルツ王国を出てしまったのは言うまでもなかったのである




