143話:婚約解消
島左近清興だ、一行はシュバルツ王国の国境を越えたと知らせが届いた。知らせを聞いたワシは予め泊まる宿を決め、いつでも迎える準備を進めた
「左近様、準備は万全でございます。」
「ご苦労。」
ワシらはいつ到着するか、待ちわびていると、遠くからサスケらが見えた。サスケらはワシらの姿を見かけた途端、手を振ってきた
「旦那様、ただいま戻りました!」
「おお、ご苦労!」
サスケが大声で挨拶をしたので、ワシも負けじと雷鳴の如き大声を張り上げると、周囲にいた者たちはビクッと体を硬直させ、中には失禁した者がいた
「左近様。」
「いやあ、すまんすまん、アハハハ。」
そんなこんなでメアリー・カイザス伯爵令嬢一行が到着した。馬車戸が開き、降りてきたのは黒髪の長髪、色白紫眼の10代後半の美少女であった。恐らくメアリー・カイザス伯爵令嬢だろう、令嬢はワシの姿を見かけると、挨拶をした
「初めまして、私はジュリアス王国に仕えるホルス・カイザス伯爵が娘のメアリー・カイザスと申します、こちらは我がメイドのサナ・ミジックと護衛のパドック・ライブですわ。」
メアリーが挨拶をすると共に従者を紹介した。2人はワシに御辞儀をした
「遠路はるばるようお越しになられた、某がサコン・シマにござる。」
するとメアリーはワシの方を注視した。ワシの顔に何かついておるのかと思ったが、ふと笑みを浮かべた
「サコン・シマ準男爵様がどのような御方か道中、想像しておりました。」
「ほお~、して実際に会ってみて如何にござろうか、熊のようにいかつい男でござったか?」
「いいえ、男振りの良き御方で安心いたしました。」
「褒め言葉として受け取っておきましょう、こちらは我が妻のアリーナにござる。」
「お初にお目にかかりますわ、アリーナ・シマと申します。」
「初めまして、メアリー・カイザスと申します、以後、お見知りおきを。」
ワシらは諸々の挨拶を済ませた後、メアリーらを宿へと案内した。その道中でメアリーはアリーナと談笑をしていた
「アリーナ様はもしかして貴族の御令嬢ですか?」
「え、ええ、それが何か?」
「いいえ、アリーナ様の立ち居振舞いが貴族令嬢そのものでしたので・・・・」
「まあ、正確には元貴族の令嬢ですが・・・・」
「元貴族?それはどういう・・・・」
「お嬢様!申し訳ありません、御無礼な事をお聞きしてしまって!」
メアリーが理由を聞こうとすると、メイドのサナ・ミジックが待ったをかけた。サナは何かを察知したのか、それ以上、踏み込めないようにした。メアリーはわけが分からない状態でオロオロしていたがアリーナはサナを制し、メアリーに理由を話した
「構いませんわ、メアリー様、私の実家・・・・伯爵家は没落して一家は離散しているのです。」
それを聞いたメアリーはハッと我に返り、すぐに謝罪した
「そうだったのですか。御免なさい、失礼な事を聞いてしまって・・・・」
「いいえ、でも旦那様と出会う事ができ、3人の子供を儲けたので私は今は幸せですわ。」
実はアリーナの腹の中にはワシの子を宿していた。そうカイザス伯爵令嬢一行らが来る前、悪阻が起き、調べてみると懐妊していたのだ。アルグレン、サリーナに続いて3人目である
「それはおめでとうございます!」
「あ、ありがとうございます。」
懐妊の話を知ったメアリーは自分の事のように喜んだ。アリーナ照れ臭そうに礼を述べた。メアリーが泊まる宿に到着し、一行は宿へ入り休息を取った。ワシはメアリーに今後の事について話し合う事にした
「メアリー嬢、不安に思うかもしれぬが、辛抱が肝心にござる。御父君から手紙が届いたら、必ず知らせるゆえ辛抱されよ。」
「はい、父からもくれぐれもよしなにと申しておりました。」
「左様か、我等はメアリー嬢を客人として迎える、もし何かあれば申してくれ。」
「あ、あの、もしよろしければサコン準男爵様の御領地を見たいのですが・・・・」
「左様か、では休憩した後にご案内仕る。」
「ありがとうございます!」
その頃、ジュリアス王国のカイザス伯爵邸にボルゾン侯爵が訪ねてきた。理由は婚約解消である、侯爵は謝罪を述べつつ、婚約解消を持ちかけたのである
「カイザス伯爵、大変申し訳ないが愚息との婚約を解消したい。」
「そうですか、私どもは構いませんが、如何なされたのですか急にそのような事を・・・・」
「うむ、身内の恥を晒すようであるが、カイルは移り気の早さは目に余る。此度の婚約もカイルがメアリー嬢を一目で気に入って無理をして結んだもの、結んだにも関わらず、今度は他の女に現を抜かす始末だ。」
「そうですか、では娘には手紙にてお伝え致します。」
「メアリー嬢には申し訳なかったとお伝えくだされ。」
「分かりました。」
カイルの女遊びは貴族の間では有名な話であり、ボルゾン侯爵は何度も諫めたが、聞き入れられず頭の痛い思いであった。カイザス伯爵もカイルの女癖の悪さにうんざりしており、一刻も早く婚約を解消したいという思いがあったため有り難く受けることにしたのである。婚約を解消した後、侯爵はカイザス伯爵家に慰謝料を支払った。当のカイルはというと、執事長であるポルコから伝えられたが・・・・
「分かった、分かった。もういいだろう、僕は愛しのキャロルに会いに行くから。」
想い人の事で頭が一杯で投げやりに返事をするカイルにポルコは内心、溜め息をつきつつ、主に報告をした
「お伝えしましたが、想い人の事が頭が一杯で話半分しか聞いておりませんでした。」
「はぁ~、もしワシ亡き後、あやつがボルゾン侯爵家を継いだら間違いなく没落するな。」
「如何なさいますか?」
「うむ、分家より養子を迎える他はない、背に腹は代えられぬ。」
侯爵の苦渋の決断に隣にいた夫人は静かに啜り泣いた。我が子を勘当する他はなかったのである。そうとは知らずにいたカイルは想い人に会うべく屋敷を飛び出し、約束した場所へ向かった
「カイル様♡」
「来たよ、ハニー♡」
カイルの想い人であるキャロル・マリッサ男爵令嬢、元平民でピンク色の髪、小動物を思わせる愛らしい顔立ち、色白で碧眼、身長150cmほどの美少女である
「カイル様、聞いてください!メアリー様がまた私を苛めるのですよ!」
「そうかそうか、よしよし。」
メアリーはシュバルツ王国に遊学しているにも関わらず、想い人の発言を鵜呑みにした。完全に遊学の事を忘れていたカイルはジュリアス王国にいないメアリーに悪態をついた
「心配ないよ、僕があの女狐を懲らしめてあげるから安心してくれ。」
「キャア!嬉しい!」
キャロルは内心、してやったりと笑みを浮かべた。彼女の狙いは侯爵夫人の座であり、贅沢三昧な暮らしを夢見ていた。そのためカイルの婚約者であるメアリー・カイザスを排除するため、自作自演でメアリーに苛められている事をカイルに告げ口をしたのである。キャロルにぞっこんなカイルは裏を取らずに嘘偽りを信じて、どう懲らしめてやろうか画策していた
「愛してるよ、キャロル。」
「私もですよ(次期侯爵夫人の座♡)」
2人はこれから起こる出来事に全く気付かず、2人だけの世界に入り浸るのであった




