140話:アナキン準男爵
島左近清興だ、突然だがマコト暗殺は中止になった。何故かって奴が方向音痴である事が判明したからだ。方向音痴ともなればどこから現れるか分からず、難航したのである
「左近様、奴が方向音痴であったのは予想外でしたな。」
「あぁ、奴の顔を知っているのはワシとそなたしかおらぬからな。」
「左近様、万が一、シュバルツ王国に辿り着いたとして、どこから来るのか分かりませぬぞ。」
「うむ、こればかりはワシもうかつには手を出せぬ。奴の方向音痴にかけるしかあるまいな。」
ワシはマコト・アララギの方向音痴を願う他はなかった。仮にシュバルツ王国に入国できたとしても、また迷子になる可能性があるので、国王の下に辿り着かない事を祈るのみであった。ワシらはそう願っていると、扉からノック音がした。ワシは許可を出すと、入ってきたのはアリーナだった
「旦那様宛に御手紙が来ました。」
「手紙、誰からだ?」
「アナキン・ブリッジス準男爵様からです。」
アナキン・ブリッジス、ブリッジス家といえば広大な山林を所有し、そこから産出する岩塩の他に葡萄畑と林檎畑を起こし、そこから葡萄酒と林檎酒を作り、財をなした新興地主であったな。確か堤の修築のために費用を捻出した功績で【準男爵】の爵位を賜ったと、サスケより聞いたな
「その者が左近様に何用でしょうか?」
「まずは内容を拝読しよう。」
ワシは書状を広げ、内容を拝読した
【サコン・シマ準男爵殿へ】
「お初にお目にかかります、私はアナキン・ブリッジスと申します。突然の御手紙、ご迷惑をお掛けいたしますが、サコン殿と交流を持ちたいと思い、無礼を承知で送った次第です。どうか御手紙の返事、お待ちしています。」
【アナキン・ブリッジスより】
ワシは書状を折り畳むとアリーナと与一が書状の内容を尋ねてきた
「旦那様、手紙には何と?」
「あぁ、ワシと交流を深めたいとの事だ。」
「如何なさるおつもりで?」
「まずは人となりだな。返事はその後だ。」
「畏まりました。」
早速、【お庭方】数名を使い、アナキン・ブリッジスについて調べることにした。それから数日が経った頃、【お庭方】数名が帰還した。そしてアナキン・ブリッジスの人となりを報告した。アナキン・ブリッジスは民たちの評判がよく、質素倹約を旨に生活しており、岩塩の産出だけではなく広大な山林に葡萄や林檎の畑を作っており、葡萄酒と林檎酒を製造したり、薪炭材や木炭の生産等で収益を得る他、植樹活動をしているとのことである、まあ、付き合っても損はないな・・・・
「左近様、如何なさいますか?」
「返事を書くことにしよう、与一、紙と筆を。」
「ははっ!」
【アナキン・ブリッジス準男爵殿へ】
「お初にお目にかかります、サコン・シマにござる。貴殿の御手紙を拝読させていただきました。某もかねてより貴殿の御高名は承っております。これを機に末永い交流を深めたいと考えております、もし貴殿がお尋ねになられるのであれば丁重にお迎えいたします。」
【サコン・シマより】
ワシは書状をしたためた後、早便にて送った。それから1週間が経ち、【お庭方】の報告より一台の馬車が我が屋敷の方面へ向かっていると知らせが執務室にいるワシと与一の下にもたらされた
「与一、噂をすれば何とやらだな。」
「左様ですな。」
ワシは身嗜みを整えていると扉からノック音がした。ワシが許可を出すと、アリーナが入室した
「旦那様、お客様がいらっしゃいました。」
「客、誰だ?」
「はい、アナキン準男爵と名乗っております。」
「アナキン準男爵・・・・与一、客人を客間に通せ。」
「畏まりました。」
与一が退出した後、ワシとアリーナだけが部屋に残った。ワシはアリーナにその人物と人となりを聞くことにした
「アリーナ、アナキン準男爵はどのような人物であった?」
アリーナはアナキン【準男爵】の事を話した。見た目は赤髪の短髪、色白で碧眼、年齢は40代前半で身長は170㎝代の男だと言う
「ワシが書いた書状に誘われて来たという事であろうな。」
「旦那様、あまり待たせると・・・」
「そうであったな、では参ろう。」
ワシは客間へ向かうと、長椅子に座って茶菓子と茶をいただくアナキン【準男爵】がいた。向こうはワシの存在に気付き、茶を置き、立ち上がった
「突然、お尋ねして申し訳ありません。」
「こちらこそお待たせして申し訳ござらぬ。」
「私はアナキン・ブリッジスと申します。」
「某はサコン・シマでござる。」
互いに自己紹介を済ませた後、長椅子に座り、そこからは世間話になった
「アナキン殿はいつ頃から【準男爵】を授爵されたのでござるか?」
「はい、私は元は山林を治める地主でしたが、決壊した堤の修繕費を他よりも捻出した事で【準男爵】の爵位を賜りました。」
最近、雨天によって堤が決壊した地域があったな。アナキンは他の者よりも費用を捻出した事で【準男爵】の爵位を得たというわけか。それは置いといて用向きを聞くとしよう
「左様か、それで御用の赴きを伺いたい。」
「はい、手紙と同様、私は以前からサコン・シマ【準男爵】殿と交流を持ちたいと考えていたのですが、当時の私は山林のみを所有する地主でとても釣り合わないと思って、【準男爵】になった事を機に手紙をしたためました。」
なるほど、【準男爵】になったのを機にワシに接近したという事か、意外と礼儀を弁えておるな。侯爵を後ろ盾にワシと交流を持とうとしたどこぞの礼儀知らずの地主とは大違いだ
「左様か、アナキン準男爵殿、これも何かの縁、これからも交流を深めましょうぞ。」
「それは有り難い、こちらこそよろしくお願いします。」
ワシとアナキンは握手をし、これから交流することを誓い合う事にした。ふとワシはある事が頭に浮かび、聞いてみることにした
「不躾ながらお尋ね致す。アナキン殿は地主であったと聞いたが、貴族になろうと考えた事はござったのか?」
「貴族にですか・・・・いいえ、私はなろうとは思いません。実は私の先祖は元は貴族だったのですがお恥ずかしい話ながら当主とその息子が、かなりの放蕩者で借金を抱え、没落しました。私の祖父が山林の地主になってようやく返り咲くことができました。」
「それは大変失礼な事を聞いてしまった、申し訳ない。」
「いいえ、むしろ今の方が気楽にやれています。」
「左様か。」
「サコン殿は貴族への昇進を辞退していると聞き及んでいますが?」
「ああ、某は宮仕えの苦労を身に染みておりますゆえ、今の暮らしで満足してござるのよ。」
「そうですか。」
互いに身の上話をしていると、時が流れるのが早く、すっかり夕方になっていた。ワシはアナキンに一泊するよう勧めた
「ありがとうございます、ではお言葉に甘えて。」
「宿の方は某が手配いたします。」
「何から何までありがとうございます。」
ワシはすぐさま宿を手配した後、アナキンを宿へ案内した。ユリヤ大公殿下も泊まった宿だと紹介するとアナキンは感激して何度も礼を申した。今日の夕餉と明日の朝餉や風呂や土産等を手配し、アナキンは安心して一泊した後、朝餉をいただき、帰還の準備をしつつ、ワシに別れの挨拶に訪れた
「サコン殿、心尽くしの御接待、ありがとうございました、もし機会があれば我が領地へどうぞ、精一杯おもてなし致します。」
「御気持ちだけで十分でござる、何分多忙にて・・・・」
「そうですか、私はいつでもお待ちしております。では、私はこれにて。」
「ああ、道中、お気をつけて。」
こうしてワシとアナキンの交流は何事もなく無事に済んだのであった




