139話:マコト・アララギ
島左近清興だ、密書によるシュバルツ王国とマルギニア民主共和国とのやり取りを【追跡動物】を使って知ることができた。そしてある事実が判明したのである
「左近様、これは驚きですな。」
「あぁ、まさか【虎の牙】が支配しているとはな。」
マルギニア民主共和国の正体は、悪名高い秘密犯罪組織【虎の牙】の治める国であった。元は悪政を敷いた国を【虎の牙】による革命によって解放され、現在に至る。彼の者らによって、ようやく理想の第1歩ともいえるだろう、問題はシュバルツ王国との関係を快く思わない者たちであろう。その筆頭といえるのがマコト・アララギという【虎の牙】の重臣、現世で例えると吉川駿河守元春じゃな、毛利の一族で根っからの秀吉公嫌いじゃったからな。フレイク・マルギニアも危惧したのか軍権を剥奪、政の中枢から外れ、地方の民政へと役職を変えている
「フレイクという男は、政の手腕はなかなかのものだな。」
「左様ですな、中でも重臣であるマコト・アララギから軍権を取り上げたのがようございましたな。」
「うむ、これから友好を結ぼうとしている国を怨む輩を放置するわけにもいかぬからな、左遷された方にとってはたまらぬがな。」
その頃、マコト・アララギは鬱屈した思いで地方の民政に司っていた。表向きは地方の復興という役目を担ったが、実際は軍権も剥奪、地方へ左遷という形で中央政治の中枢から外された形である。仕事を終わらせた後は、日課である武芸の稽古と田畑を耕す毎日だった
「くそ!」
やはり亡くなった同志たちの思いが未だに断ち切れなかった。復讐をしたくても、フレイクによって軍権を剥奪され、何もない地方に左遷されられた事でその機会が奪われたのである。武芸の稽古や畑仕事を終えた後、後は飯を食う事と酒を飲み、後は寝るだけなのだが、毎晩になって死んでいった仲間の顔が浮かんでは何度も起き上がり、眠れむ毎日を過ごしていた
「はあ!はあ、はあ。」
やがてマコトは民政どころか日課である武芸の稽古や畑仕事も辞め、日がな一日、酒浸りな生活を送ることになった。部下たちは酒を辞めるよう勧めたが、マコトは周囲に当たり散らした。溜まりかねた部下は総裁であるフレイクに報告をした
「バイル、私は間違っていたのだろうか。」
「いいえ、情に溺れた奴が間違っているのです。」
「如何すればいい。」
「奴は幽閉致しましょう。」
「分かった。」
フレイクの命でマコトは屋敷に軟禁され、見張りがつけられた。マコトは何故、自分がこんな目に遭うのか、分からず益々、自暴自棄になってしまった。やがてマコトの中で何かが壊れたのである
「何が民主主義だ、一人の人間の思いを無視して何が平等だ!こんなところ出てってやる!」
流石に自ら壊そうとは考えず、マルギニア民主共和国から脱出することにした。仕事をして貯めた金と食糧を持ってマコトは屋敷の抜け穴から脱出し、見張りの目を掻い潜り、屋敷から脱出することに成功した
「よし後は国外脱出するだけだな。」
マコトは最短距離の国境を選んだ、ここさえ通れば、マルギニア民主共和国から脱出できる。マコトは念のために身分証も持っており、他国へ行っても通ることができる。マコトは久しぶりに外へ出ると、未だにゴーストタウンと化した町が目立つ。兵士たちはちゃんと仕事しているのか疑ってしまう。ふと振り返ると、遠くで兵士たちがたむろしていた。何をやっているんだと叱りつけたくなったが、今は国外脱出をしている身であり、下手に関わると面倒になってしまう。兵士たちを放っておき、国境へ向かった
「あと少しで国境だな。」
ようやく国境付近に到着し、マコトはフレイクたちのいる元王宮方面を向いて、平伏した
「すまねえ、俺はやっぱり同志たちの仇を取りたいんだ、悪く思うなよ。」
マコトはそのままマルギニア民主共和国を脱出し、行方をくらました。マコトが失踪した事はすぐにフレイクの耳に入った
「何て事をしてくれたんだ!あいつは!」
知らせを聞いたフレイクは激高した。マコトは絶対に仲間の敵討ちに向かったに違いない、場所は間違いなくシュバルツ王国である
「同志フレイク、不味いですぞ。もし奴がシュバルツ王国の国王の命を狙えば間違いなく戦争ですぞ!」
「くっ!すぐにでも連れ戻せ!」
「しかし、我が国は創立したばかりで兵は治安に回しております。捜索隊を組織するにも時間が掛かります。」
「くっ!」
「それに奴はシュバルツ王国には辿り着くことはまず不可能かと・・・・」
「あ、そうだな、焦って損したわ。」
マコト・アララギの失踪は【追跡動物】によって島左近らに知られることになった
「さて、奴は間違いなくこの国に来る。そうなる前に奴を始末せねばなるまい。」
「して手立ては?」
「焦るな、奴は自ら死地へ飛び込んできたのだ、奴がシュバルツ王国に入ったと同時に始末いたす。」
「おお。」
「シュバルツ王国の国境、特にマルギニア民主共和国に繋がる場所は1か所、そこに配置させるとしよう。」
「御意。」
この時、島左近はマコトのある癖を知らなかった
「ここはどこだ?」
マコト・アララギは極度の方向音痴であった。フレイクとバイルはマコトの方向音痴であることを思い出し、シュバルツ王国には辿り着けない事を踏んでいた。後になってその事を知った島左近は作戦を中止せざるおえなかったのである。そうとも知らずマコトは見知らぬ町で迷い、町の住人に聞いて回った
「すまんがここはどこだ?」
「ん、ここはシュンフェン王国の【ガサ町】だが?」
「シュバルツ王国じゃないのか!」
「シュバルツ王国とは正反対の方向だよ。」
それを聞いたマコトはショックを受けた。何故、シュンフェン王国にいるのだろう。そんなこんなでマコトは自身の欠点である方向音痴のおかげでシュバルツ王国に辿り着くのが困難となったのであった
「何故じゃあああ!」
「ママ、あのおじちゃん、怖い。」
「しぃ、関わっちゃ駄目よ。」
周囲の人々から気味悪がられ、中には警備隊に通報する民も現れ始めた。流石に不味いと思ったマコトはその場を立ち去った
「くっ、どうしてシュバルツ王国に辿り着けないんだ!」
途方に暮れていると、マコトに近付く2人組が現れた
「そこのお兄さん、困り事かい?」
「何なら助けてあげましょうか?」
「うん、誰だ?」
「ふふふ、私たちの名を聞きたいのかしら?」
「では名乗りましょう!我が名は、チャーリー・プレス、どんな難問も解決してきた勇者だ!」
「同じく勇者のコーネリアスだ!」
元脱獄犯で元男であったチャーリーとコーネリアスは大見得をきったが、マコトは不審な目で見ていた
「悪いが俺は暇じゃないんだ。」
「ちょっとお兄さん、シュバルツ王国に行きたいんでしょう?」
「だったら案内するわよ。」
「・・・・本当か?」
「ええ、勿論。」
「その代わり、案内料を取るけどね。」
「ちっ!分かったよ。」
「よし、決まりよ。」
「私たちもシュバルツ王国に用があって行くのよ、運が良かったわね。」
「おう。」
こうしてマコトは勇者2人組とシュバルツ王国に向けて旅立つ事にした。果たしてマコトは同志たちの仇を討つことができるのであろうかは天のみぞ知る




