138話:会談
応接間にて2人の男が対面した。1人はシュバルツ王国代表のリチャード・アルバイナ侯爵、もう一方はマルギニア民主共和国総裁のフレイク・マルギニアである
「お待たせして申し訳ない、何せ建国したばかりで多忙を極めまして・・・・」
「お気になされずに。」
「我が国に何用で参られたのですか?」
「今日、ご建国の祝賀を述べに参りました。」
「それは忝ない。」
挨拶を済ませた後、リチャードは数々の質問をした
「マルギニア民主共和国は王を立てず、民による政治を行うと伺いましたが?」
「はい、我が国は民の民による民のための政治を理念に掲げ、この国の代表は総裁が政を行います。」
「その総裁は王とどう違いのですか?」
「はい、総裁は民の入れ札によって選ばれます。民の入れ札によって総裁が決まり、国と民を導きます。」
リチャードにとっては前代未聞ともいえる政治体制であった。この世界で初とも言える民主主義にリチャードだけではなく、誰もが荒唐無稽のやり方をするこの男に不信感を抱いた
「そのような国造り、可能なのですかな?」
「ふふふ、それを決めるのは後世の人々、私はそのための生贄にございます。」
リチャードは目の前にいる男に恐怖した。この男は本当にやろうとしている、批判や誹謗中傷をものともせず、王を必要としない政治体制を築こうとしている。果たしてシュバルツ王国と上手くやれるのかとリチャードは内心、不安を覚えつつ、本題に入ることにした
「では単刀直入に尋ねるが、我が国とはどのような関係を築きたいと思われるのか?」
「私といたしましては、友好な関係を結びたいと思っています、それは貴国もそれを願って我が国に参ったのでしょう?」
フレイクの意味深な笑みにリチャードの背筋はぞくっとした。リチャードの中でこの男と本当に我が国と友好を結びはあるのだろうかすら、疑ってしまうほどの得体の知れなさを感じた。二人が会談を行っている最中、応接間へ向かう反シュバルツ派閥筆頭のマコト・アララギは兵を率いて奇襲をかけようとした
「それで奴はまだ会談の最中か。」
「はっ。」
「ふん、ちょうどいい。会談の最中に襲えばひとたまりもない。」
「し、しかし同志フレイクもおりますが・・・・」
「我等の狙いはシュバルツ王国の使者だ、同志フレイクではない。」
マコト・アララギはシュバルツ王国によって処刑された同志の仇を討つべく、フレイクの反対を押し切ってでも成し遂げようとしていた。応接間へ向かう途中でとある一団と出くわした。マコトは不機嫌なオーラを隠さず、その一団の代表者を睨み付けた
「何の用だ、俺はその先に用があるんだ。」
「決まっているでしょう、貴方が余計な事をしないように見張ってるんですよ。」
一団の代表者であるバイル・エゲレス、応接間を通る道を予め配置し、マコト率いる反シュバルツ一派を抑えるのが目的である。せっかくの会談を血で真っ赤に染まるのを嫌ったバイルはマコトに軽挙妄動を慎むよう説得を続けた
「マコト、今は仇云々の話をしている場合ではない、せっかく生まれた国家を貴方の一存で潰す気ですか?」
「そのために同志の仇であるシュバルツ王国と友好を結ぶのか!同志フレイクも貴様もいつから、そのように腑抜けになったのだ!」
「マコト、我々の目的を忘れたのですか?我々は民の民のための民による政治を志したではありませんか。そのために我々は多くの犠牲を生んできたのではありませんか。もし貴方が激情に任せて事を行えば、死んでいった同志たちに顔向けできるのですか、よくお考えください!」
それを聞いたマコトは一瞬、躊躇いを見せた。同志であるフレイクの掲げる理想に感化されたマコトは、フレイクのために命を捧げた、同志たちも同様であり、いつか民の民のための民による政治を共に作りたいという思いのために多くの犠牲を払った、マコト自身も国を盗るために多くの命を犠牲にしてきた、それらの命を自分の決断で無になってしまう・・・・
「く、くそがあああああ!」
マコトは剣を抜き、近くにあった花瓶を切り裂いた。花瓶は真っ二つに割れ、カーペットに落ちた。マコトは剣を鞘に納めた後、兵たちの方を向いた
「作戦は中止だ。」
「「「「「はっ!」」」」」
マコトはそのまま兵を率いて、そのまま退散した。その姿を見送ったバイルは安堵の溜め息を漏らしつつ、引き上げていった。応接間にいたフレイクとリチャードは廊下にて怒声と割れる音をしっかりと聞いていた
「フレイク殿、随分と廊下が騒がしいな。」
「ははは、これはご無礼を。何分、兵たちは乱暴者揃いでなかなか統制が取れませぬからな。」
フレイクは笑って誤魔化すが、リチャードは廊下での出来事はただ事ではないと感じ取った。このまま長居すれば確実に命を狙われる。目的は達成したのでそろそろ退散することにした
「分かりました、貴国の事は陛下に御報告の上、然るべき返事をお返しいたします。」
「何分、よろしくお願いいたす。」
リチャードは外に止めていた馬車に乗り、そのままシュバルツ王国へと帰還した。フレイクの方は危うく交渉が決裂するかと、内心ひやひやした。先程の騒ぎは間違いなくマコト・アララギの仕業であることは間違いない。奴はシュバルツ王国に並々ならぬ恨みを抱いている。奴には中央から外れて貰う他はない、今後は中央の政治に参加させず、軍権を取り上げて、地方の民政に重きを成して貰うしかない
「さて、これから忙しくなるな。」
島左近清興だ、マルギニア民主共和国から脱出し、無事にシュバルツ王国に帰還したリチャード・アルバイナ侯爵は今はワシの屋敷にて休息を取っていた
「御役目、ご苦労に存じます。」
「忝い。」
ワシは茶と塩味饅頭を用意し、リチャードに振る舞った。リチャードは塩味饅頭をいただき、茶を一服し一息ついたのである。ワシはあえてマルギニア民主共和国について聞かず、長旅で疲れているリチャードを労った
「侯爵閣下、もしお泊まりの際は宿を手配いたしますが?」
「それは有り難い。私もどこかで宿を取ろうと思うていたところだ。」
「では我が方で手配いたしまする、与一。」
「はっ!」
リチャードはワシの用意した最高級の宿にて一泊した後、そのまま王都へ向かった。リチャードの乗った馬車は数日後に王宮に到着した。リチャードは真っ直ぐ、国王のいる執務室へと向かい、報告をした
「なるほど、夢のような話だな。」
「はっ!私も耳を疑うほどの珍妙な話にございました。」
「それで向こうは我が国と友好を結びたいと申しておったのだな?」
「はっ・・・・」
「苦しゅうない、申せ。」
「はっ!では申し上げます。」
リチャードはマルギニア民主共和国で起こった出来事をありのままに話した。それを聞いたロバートはマルギニア民主共和国と友好関係を結ぶ事に躊躇いを見せた
「もし、そなたの申すことが本当であれば彼の国の中には我が国と友好を結ぶ事を不服と申す者も存在するということか。」
「はい、先程の騒ぎで、フレイク・マルギニアは一瞬だが眉を潜めました。彼の国は一枚岩でないという事に相成ります。」
「うむ、ここは思案のしどころだな、奴らの本心が見えるまで手紙でのやり取りのみでやるしかないな。」
「はい。」
これよりシュバルツ王国はマルギニア民主共和国との密書外交が行わることになった。それをやり取りを追跡動物【蝶】を使って聞いていた島左近らはほくそ笑んでいた
「ここからが正念場だな、与一。」
「御意。」
「シュバルツとマルギニア、面白くなってきたわい。」




