132話:牧場完成
ここは王宮のテラス、このテラスに国王ロバート・シュバルツと大公のユリヤ・シュバルツがお茶会を行っていた。話の話題は代官アルフォート・ギブソンの罷免である、ユリヤにとっては自分の考えた代官という名の監視役の作戦はロバートの人選ミスによって失敗に終わったのである
「陛下、何かいう事はございますか?」
「すまん。」
「はあ~。」
【カンバス地域】は順調に開拓されており、堤の方も完成間近である。これにより島左近の治める領土の広さは【辺境伯領・侯爵領】並みの広さとなったのである。ユリヤ自身、島左近がシュバルツ王国だけではなく、ジュリアス王国、シュンフェン王国から【準男爵】の爵位を授けられた事で隠然たる影響力を保持しており、決して無視できる存在ではなくなった。最初に侍女を奴の下へ監視役として送り、その次に公儀隠密を送ったが奴にも忍者がおり、わずかな情報しか手に入らず、更に代官を監視役として送ったが人選ミスで失敗に終わったのである
「さてさて、困ったことになりましたわね、代官の強引な検地のおかげで民たちから不満と不審を植え付けさせてしまったようね、もう代官は派遣できませんわね。」
「ああ。」
「彼の者は【準男爵】である前に地主、貴族であれば領地替えはできるが、地主はできませんしね。」
「ああ。」
領地替え、日本でいう国替えと同じで、国王の命で領地を替える仕組みであり、貴族の力を土地に根付かせないようにする事や貴族の力を削ぐのが狙いであったが島左近の身分は【準男爵(平民)】であり、領地替えは出来ないのである。もし法律を変えて、地主も領地替えに制定すると古くから住んでいる地主たちが税金を納めず、反乱を起こす可能性がある。【準男爵】を貴族の身分にする方法もあるが、保守派の貴族の反発もあり、税金を国に納めず、反乱を起こす可能性があるため、できないでいる。またジュリアス&シュンフェン王国が勧誘をする可能性があるし、何より島左近が爵位を返上する可能性もある。国王の気分次第で国の制度を変えるのは、かえって混乱を生んでしまうため、軽々しく実行できないのである
「陛下、【ああ】ばかり仰られないで何か考えてくださいな。」
「そうだな・・・・そういえば。」
ロバートは何やら思いついたようだ、ユリヤは試しに聞いてみた
「陛下、何か妙案でも?」
「ああ、サコン・シマの妻は確か・・・・没落したスレイブ伯爵家の令嬢だったな。」
「それが何か?」
「スレイブ伯爵家の再興だ。」
ユリヤは耳を疑った。何故、そこから伯爵家の再興になったのか、理由を問い詰めた
「スレイブ伯爵家の再興なんて何を考えているのですか?一族郎党は散り散りで生死すら不明なのですよ。」
「簡単な事だ、スレイブ伯爵家を再興させ、サコン・シマの妻を再び貴族としサコン・シマを婿養子として迎える。」
「陛下、サコン・シマは貴族になるつもりはないこと、よもやお忘れか?」
「それはサコン・シマであって、妻の方は分からんぞ。貴族に返り咲きたいという思いがあるやもしれん。」
ユリヤは無駄だと確信していた、もし貴族に返り咲きたいと考えるのであれば、当の昔にやっているはずだ、というかサコン・シマの事になると、陛下はアホになるのかと内心で毒づくが、ロバートはすぐに顔色を変えた
「・・・・やっぱり辞めよう。」
「どうなさったのですか、藪から棒に。」
「リチャードの申していた事を思い出した。」
「あぁ~。」
サコン・シマの妻の元婚約者であるリチャード・アルバイナ侯爵から、妻の方も貴族に返り咲きたいという思いがなく、今の暮らしが良いと申していた事を思い出したのである
「いかんな、あやつの事になると頭が可笑しくなってしまう。」
「まるで恋い焦がれる殿方みたいですわね。」
「何?」
「陛下がそこまでサコン・シマに入れ込んでいるのは、まるで想い人に懸想している殿方にしか見えませんわね。」
そう言われると照れ臭くなってしまう。思い返せば、貴族や仕官を断り続けるサコン・シマにいつの間にか、夢中になっていたのかもしれん。初めて奴と会った時、何故かは知らぬが心がときめき、いつの間にか手紙を書いていたのだ、それから奴の名前が嫌でも記憶に残る。何者にも媚びず、気紛れで己の信念に生きる、もし女であればまさに絶世の美女だ・・・・
「最早、万策尽きましたわね。」
「であるな。」
サコン・シマという絶世の美女に翻弄された国王はこれ以上、監視役を送るのを断念した。ロバートは咄嗟に出た考え【サコン・シマに美人の妾(監視役)を送る】をユリヤに言うと、ユリヤに猛反対されたのは言うまでもなかった。その後、ロバートは急な仕事が入り、入れ替わりにロミオが茶会に参加した
「大公殿下、ご機嫌麗しゅう。」
「ロミオ、ごきげんよう。」
「父上と何を話し合われたんですか?」
「他愛のない世間話よ。」
「ふうん、ところで大公殿下はサコン・シマをどう思いますか?」
ロミオの口からサコン・シマの名が出てきた。ユリヤは不審そうに尋ねた
「何故、そのような者の名を出された?」
「いいえ、代官が罷免されたと聞いて・・・・」
「ロミオはどう考えるかしら?」
「サコン・シマにとっては目の上のたん瘤がいなくなって清々したんじゃないんですか。」
「何故、そう思うのかしら?」
ユリヤはロミオを試すが如く、質問をした。ロミオはありのままを説明した
「サコン・シマにとって代官がいなくなってくれたおかげで、今まで通り、自由に動くことができたんですから。」
着眼点は間違っていない、私も奴の立場であれば、代官という監視役がいなくなってくれてホッとしたであろう、ロバートの息子は若いながらも鋭いところを突くな
「ロミオ、その事、誰かに言ったのか?」
「いいえ、大公殿下だけです。」
「だったらこの事は誰にも言ってはいけないわよ、妙な勘ぐりをする者が利用しかねないからね。」
「はい、気を付けます。」
その頃、【カンバス地域】ではついに堤が完成したのである、それと同時に牧場も完成した。そこへ島左近らが駆け付け、完成を祝ったのである
「皆のおかげで堤も牧場も完成した、礼を申すぞ。」
「「「「「ははっ!」」」」」
「カザック、牧場はそなたに任せるぞ。」
「ありがとうございます!」
牧場の経営をするのはカザック・イシマツ、ワシが出した募集に志願し、今日まで牧場創設に尽力した。商人たちの伝で牛、豚、鶏、山羊、羊、馬等を購入し、この牧場に運ばれた。牧場の名前だがワシの名に因んで【サコン牧場】と名付けられた。牧場の敷地は9万坪(30ヘクタール)と規模が広大である。その後、移住者が増えて、小さいながら村が出来上がっていた。一方、【カンバス盆地】は葡萄と林檎と梅の植樹をするまで時がかかるのでこれは待つしかあるまい
「左近様、【カンバス地域】を開拓したことで、【辺境伯領】と同等の領地を手にいれましたな。」
「あぁ、ようやく根を下ろしたのだ。もし公家【貴族】にでもなれば、領地替え【国替え】になってしまうからな。」
島左近が公家【貴族】にならない理由の1つは貴族には領地替えがある事を異世界に行く前に異世界の知識で知り、爵位を得ようとは思わなかったのである。今のところ、動きがないあたり、策が思い付かないのであろうな・・・・
「しかし陛下が左近様に妾を送ろうとしておりましたが、左近様は如何なさるおつもりで?」
「こればかりは流石に辞退致すな。」
「向こうが強く勧めたら如何なさりますか?」
「そればかりはワシにも分からぬわ。」
もし妾が送って来たとしても、監視役も兼ねており、気を許す事は不可能である。また妻のアリーナと妾が上手くやっていけるのかが心配である。もし妾に子供が生まれた場合、色々と問題も発生する
「ユリヤ大公殿下が止めてくれた事には感謝だな。」
「貢ぎ物として琥珀を送りまするか?」
「いや、下手に送れば、また何か企んでいると勘繰られてしまう、向こうが望めば送るがな。」
「畏まりました。」
ワシらは屋敷へ戻り、執務室を入ると、報告書の山が出来ていた。今になってワシは監視役であることを除いて仕事ができるアルフォート・ギブソンを失った事を若干ながら後悔した
「ああ、代官がいなくなった事で仕事が増えたな・・・・ははは。」




