131話:アルフォート
島左近清興だ、先程【お庭方】の知らせにてアルフォートが辞表を作成した事を知った。それを知ったワシは【お庭方】の者を下がらせた
「覚悟を決めたか。」
ワシは別に止めるつもりはなかった。代官がいなくなる事で監視役が1人減った事に正直ホッとしている。アルフォートの所業が監視役によって国王に報告されているので、新たな代官を送る事を控えるであろう・・・・
「ふふふ、いかんいかん、つい、ニヤけてしまうわ。」
翌朝になり、アルフォートは辞表願を持って、郵便局へと向かった。アルフォートは部下たちを集め、打ち明ける事にした
「皆の者に集まってもらったのは他でもない。私は代官を辞任しようと思う。」
「アルフォート様!いきなり何を!」
「まぁ、話を聞いてくれ。私は役人に向いていないと思う。自分自身の正しき道にばかり拘り続け、今になって後悔している。私は昨日、辞表をしたためた。」
アルフォートは机の引き出しを開けて、辞表を取り出した。辞表を見た部下たちは愕然とし、アルフォートを説得にかかった
「アルフォート様、早まった事はしてはなりませぬ!」
「そうです!どうかご自重ください!」
「「「アルフォート様!」」」
「皆、ありがとう。だが決めた事だ。」
「アルフォート様、辞表を出すのであれば、残った仕事を片付けてからにしてください!」
一人の部下は指さした方向には仕事の束があった。アルフォートは仕事の山を目にして、溜め息をついた
「分かった、仕事を終わらせてからにしよう。」
アルフォートは仕事の束を片付けるために辞表の提出を延期した。その様子を見ていた【お庭方】は早速、島左近に報告した。報告を聞いた島左近はアルフォートの生真面目さに呆れを通り越して清々しさを覚えた
「ここまで来ると、見上げたものだな。」
「仕事を終わらせて辞職するのが先か、報告書が到着するのが先か、彼の者にとっては正念場ですな。」
「あぁ。」
アルフォートは残りの仕事を片付けている頃、報告書は国王ロバート・シュバルツの下に届いた
「領民たちに土下座とは・・・・」
「私も自分の目を疑いました、あのプライドの高いアルフォートが土下座をするとは。」
「うむ、由々しき事態だな、代官に命じたワシの任命責任が問われるな。」
「陛下、如何なさいますか?」
「アルフォートは罷免する他はない、それに、サコン・シマの下に代官を送るのは無理だな、アルフォートのおかげで領民たちに国への不満と不審を植え付けさせてしまった、こればかりは私の失態だ。」
ロバートはこの時ばかりは、自分の詰めの甘さに後悔していた。ユリヤの進言でサコン・シマの監視も兼ねて代官を送ったが、奴の治める土地の民と敵対した事で、計画が破綻してしまった。我ながら自分の見る目のなさに情けなく感じてしまうが、そうも言っていられないと思い、筆を走らせ勅諚をしたためた
「ルナ、早速だがこれを代官に伝えよ。」
「はっ!」
ルナは早速、馬車に乗り、島左近の治める領土へと向かった。一方、アルフォートはようやく仕事の束を終わらせ、一息ついた後、アルフォートは辞表を手に持ち、郵便局へ向かった。その姿を見た部下たちは涙を流し、黙って見送ったのである。その道中、領民たちはアルフォートを見かけた途端、ヒソヒソ話をし始めた。アルフォートはそれを無視し、郵便局に入り、早便にて送ってもらった。郵便局を後にし、その足で島左近の屋敷へと向かった。島左近も【お庭方】よりの知らせを聞き、アルフォートを迎えた
「代官殿、御覚悟を決められた面構えですな。」
「・・・・今日、辞表を提出した。」
「左様か。」
【お庭方】から事前に報告を受けていたが、わざわざ挨拶に伺う限り、律儀だと思った。世渡りを間違えなければ良き役人になっていたのだが、実に惜しい事よ・・・・
「それで代官を辞任してからは如何いたすのか?」
「役人を辞めて故郷に戻ることとする、つくづく私は役人に向いていなかった。」
「代官殿、貴殿はあまりにも形に囚われすぎてしまわれた。」
「それはどういう意味だ?」
「自分の信じる道を突き進むのは悪いことではない。悪いことではないが、視野を狭めてしまう恐れもある。貴殿は自分の信じる理想ばかりに突き進み過ぎたのでござる。」
「そうか、私もまだまだ世間を知らずにいたようだな。」
アルフォートは今になって自分の視野の狭さを恥じ、自虐の笑みを浮かべた。もっと早くに気付いていれば良かったと、だがもう後の祭り、アルフォートは既に辞表を王都へ送ったのだから・・・・
「準男爵殿、短い間だったが、世話になった。これにて失礼する。」
「左様か、これからの御多幸をお祈り申し上げる。」
アルフォートは屋敷を出ていき、代官所へ戻り、荷物を纏めから数日後に王宮から派遣された馬車が代官所前に到着した。馬車からルナが降りると、既にアルフォートと部下たちが出迎えた
「アルフォート・ギブソン、陛下よりの勅諚にございます。」
「その前に申し上げたい事がございます。」
「何か?」
「私は本日を持って代官の職を返上し、故郷へ戻りたいと思っております、辞表も早便にて送りましてございます。」
それを聞いたルナは驚きを隠せなかった。まさか自分から辞めるとは思わなかったのだ、まさか辞表届を提出したとは露程も知らなかったのである
「さ、左様か。おほん、では勅諚を読み上げる。」
するとアルフォートと部下たちは平伏した
「アルフォート・ギブソン、代官の身でありながら、特に不行状に目も当てられぬ、よって職を解き平民に降格致す。」
「ははっ!謹んでお受け致します!」
アルフォートは勅諚を受け取った。最早、役人への未練がなく、平民として生きようと決めていたので、驚きはなかった
「アルフォート、後悔はしないのね。」
「最早、未練などない、ただ部下たちの処遇が心配です、どうか彼の者たちの事をよろしくお願いいたします。」
「分かりました、陛下に言上いたし、然るべき職へつかせるので御安心を。」
「ありがとうございます。」
その後、アルフォート・ギブソンは故郷へ帰り、農業に勤しんむと共に私塾を開き、子供たちに読み書きや算術や歴史等を教え、平穏な日々を送るのであった
ルナは役目を済ませた後、そのまま島左近の屋敷へ立ち寄った。左近はルナを客間へと案内した
「そうか、代官殿は罷免されもうしたか。」
「ええ、【狐代官】の名は王都にも響いております。」
「左様か。」
「サコン殿には大変御迷惑をおかけしました。」
ルナは長椅子から離れ、すぐに土下座をした。ワシとしては内心、監視役が1人減った事でホッとしていたので、すぐに土下座を辞めるよう説得した
「ルナ殿、頭を上げられよ、もう過ぎたことにござるよ。」
「はい。」
ルナをその場で立たせつつ、ある事を尋ねることにした
「ところでルナ殿、1つお伺いしたき事がござる、アルフォート・ギブソンの後任の代官はおられるのか?」
「何故、そのような事を?」
「アルフォート殿の悪口を言うつもりはないのだが、領民たちは代官の事を快く思っておらぬ、もし後任の代官が来るのであれば、間違いなく歓迎されないであろう。」
ルナは顔を歪めた、元々は島左近の監視を増やすのが目的で送ったが、アルフォートが強引に検地を行ったことで領民たちは蛇蝎の如く嫌われたのである
「御安心を。陛下も今回の出来事に心を痛められ、後任の代官を送らないことに致しました。」
「左様か、それを聞いて安堵致した、何せワシの下には代官を罷免するよう嘆願書が矢のように届いておりましてな。」
「そうですか、本当に御迷惑をおかけしました。」
その後、ワシの下に代官は1人も訪れず、今まで通りワシの統治下に入ったのであった




