130話:辞任
島左近清興だ、【狐代官】こと、アルフォート・ギブソンが赴任してから1週間が経つ、会うたびに日に日にアルフォートの痩せ衰える姿を目にした
「左近様、アレは不味いですな。」
「あぁ、いつか倒れるぞ。」
代官であるアルフォートを快く思わない領民たちは村八分とまではいかないが、白眼視しているのは間違いない。ワシが領民たちを抑え込んでいるが不満は高まっているのは確かである。ワシの下にはアルフォートの代官解任の嘆願書が続々と届けられた
「ワシの下に送られてもな、決めるのは国王だからな。」
アルフォートもワシの許可もなく、勝手に検地を始めた時点で自業自得であり、その人物を代官に任命した国王の責任も問われる事案である。報告書を出してから音沙汰がないということは、様子見を決め込んでいる可能性がある、それまで代官の身はいつまで持つか・・・・
「左近様、代官が参りました。」
「相分かった。」
ワシは代官であるアルフォートと客間にて対面した。アルフォートは誰が見ても分かるぐらい、やつれており、肌の色は血色がなく青白くなっており、完全に病人の様相を呈していた
「代官殿、如何された?」
「【準男爵】殿、少しばかり愚痴を聞いてほしい。」
「愚痴にござるか、構いませぬが。」
「ええ、実は・・・・」
アルフォートはここに来た経緯を話し始めた。仲の悪い上役との対立、仕事ができない同僚の尻拭い、媚びを売る同僚や後輩の出世等をまるで懺悔をするかの如く、ワシに洗いざらいぶちまけた
「何故だ、何故、このような事が罷り通るのだ!私は必死で仕事をしていたのにも関わらず!」
「代官殿、世の中は万華鏡の如く、二転三転と変わりまする、何かしらのきっかけで人も変わる。」
「人はそう簡単には変わらない!・・・・私がいい例だ。」
どうやら自分の性格を知っているあたり、苦労しているようだな。苦労してもなお、そう簡単に自分の性格を直すことはできない、いつの時代も世界も変わらぬな・・・・
「それで代官殿はどうしたいのだ?」
「どうしたいとは・・・・」
「このまま代官を続けるのか、それとも辞職するのかでござるよ。」
「私に代官を辞めろと仰せか!」
「それを決めるのは貴殿であって某ではない。」
「くっ。」
「貴殿としては代官を続けたいのでござろうな。続けたいなら貴殿の誠意を見せる他ありませぬな。」
「誠意とは・・・・」
「そうでござるな、検地で捕まった領民とその家族に謝罪することですな。」
それを聞いたアルフォートは愕然とした。国の命で派遣された代官が領民に謝罪する、アルフォードにとては屈辱ともいえる島左近の提案にとても呑めるものではなかったが、自分の置かれている立場を考えればそうも言っていられない・・・・
「分かった、【準男爵】殿に従おう。」
「左様か、では参ろうか。」
「え、どちらへ。」
「決まっておろう、早速謝罪に行くんだ。」
ワシはアルフォートと共に一旦、代官所へ行き、アルフォートの部下たちを連れ出し、アルフォートらに危害を加えた領民たちの下へ向かった。その道中、領民たちはワシに挨拶をしつつも、白い目でアルフォートらを見ており、ワシがいるからか、下手な行動な取らなかった。そして検地が行われた田畑へ向かうと、そこにはアルフォートらに反抗した領民とその家族が田畑を耕していた。領民がワシの存在に気付き、挨拶をしようとした時、ワシの背後にいるアルフォートらを見て、表情が曇った
「あ、じゅんだ・・・・あ。」
「如何した?」
「【準男爵】様、何故その御方と一緒に・・・・」
「ああ、代官殿がそなたらに用があると申してな。」
ワシがそう言うと、領民らは怪訝そうな目でアルフォートらを見つめた。アルフォートは領民に近付いた途端、土下座をした
「申し訳ない!」
「えっ!」
「アルフォート様!何を!」
「黙っておれ!これは私のできる精一杯の誠意だ!」
アルフォートはひたすら地面に頭を擦り付けた。部下たちは途方に暮れ、領民らも突然の土下座にどう反応していいのか分からず仕舞いだった。そこでワシは助け舟をだした・・・・
「代官殿は今回の検地の事を深く反省しておられるようでな、ワシはその付き添いとしてここに参ったのだ。」
「は、はあ~。」
「それと貴殿らは代官殿が誠意を尽くしているのに、貴殿らは黙って見ておられるのか?」
ワシがアルフォートの部下にそう告げると、部下たちは顔を真っ赤にさせ、黙りこくってしまった。やれやれ、アルフォートの部下はろくな奴はおらぬな、ワシは冷めた目で部下たちを注視しつつ、アルフォートは謝罪を続けた
「検地の件で強引に進めてしまい、あまつさえ貴方方を牢に入れてしまった私の落ち度でした、その事を深く深くお詫び申し上げます!罰金として支払った金はそっくりそのままお返しいたします!」
「・・・・もういいですよ、思い出したくもないですし。」
領民の一人は目を背きつつ、謝罪を渋々、受け入れた。やはりしこりはそう簡単には解けぬか、分かってはいたがな
「さて代官殿、とりあえず頭を上げておくれ。」
「・・・・申し訳ない。」
ワシはアルフォードを立ち上がらせた後、領民たちの方を向き、別れの挨拶をした
「仕事中、すまぬな。我等は退散いたそう。」
「は、はい。」
ワシはアルフォートらを連れて、町の方へと向かった。その道中、領民たちはワシに挨拶をすませつつも、アルフォートらには変わらず白い目で見続けた。するとアルフォートは再び土下座をした。この時ばかりはワシも驚いた。ワシだけではなく部下や白い目で見ていた領民たちも驚きの表情を隠せなかった
「(こやつ、なりふり構わずか。)」
アルフォートは地面に頭を擦り付けた。流石に人通りの邪魔になると思い、ワシはすぐにアルフォートを説得した
「代官殿、人通りの邪魔になるから、頭を上げられよ。」
「・・・・申し訳ない。」
ワシはアルフォートを立たせた後、そのまま代官所へと向かい、到着すると、挨拶を済ませ、そのまま代官所へ入っていくアルフォートと部下たち、ワシはその後ろ姿を黙って見送った
「悪い輩ではないが、不器用すぎるな。」
ワシは屋敷へ戻ると、アリーナや与一らが、出迎えた
「「「「「お帰りなさいませ。」」」」」
「うむ。」
「旦那様、あの御方は?」
「あぁ、代官所まで送った所だ。」
ワシは屋敷へ入り、与一と共に執務室へと入った。与一はアルフォートらが行ったことを事前に知っており、今後の事を話し合うことにした
「左近様、彼の者たちは今後、どうなるのでしょう?」
「こればかりは本人にしか分からぬ、このまま代官を続けるか、それとも辞職するか、2つに1つだ。」
「それで監視役にこの事を報告致しますか?」
「そうだな、いずれ知られることになるからな、早い方が良いだろう。与一、ティアを呼んできてくれ。」
「畏まりました。」
ワシはティアを呼び出し、此度の事を話すと、ティアは驚きを隠せなかった。まさか現役の代官が領民たちに土下座するとは普通は思わないだろう
「本当に報告して宜しいんですか!」
「あぁ、いずれ人伝で知られるようになるだろう、それを覚悟で奴は土下座をしたのだ。」
「わ、分かりました。」
その後、ティアは報告書を作成し、ワシに確認をさせた上で早便にて王宮へ届けられたのであった。その頃、アルフォートは辞表を書いていた
「はぁ~、私は役人に向いていなかったのだろうか。」
アルフォートは自問自答を繰り返しつつ、結局は代官を辞任する方向でいた。アルフォートは辞表を書いた後、明日に出そうと思い、机の引き出しにしまうのであった




