129話:狐代官
島左近清興だ、国王ロバート・シュバルツの命で我が領土へ派遣された代官、アルフォート・ギブソンを迎え入れたが早速、問題が発生した
「準男爵殿、どうか彼の者たちの説得に御協力願いたい!」
ワシの目の前には眼鏡が壊れ、服がボロボロで傷だらけのアルフォートと数人の部下(負傷中)が現れた。何故、このような事になったのかというと、アルフォート曰く、「田畑の検地をしようとしたが、領民たちが反抗し、今の姿になった」と言うのである。因みにアルフォートを打擲にした領民たちは牢屋にぶちこまれている
「代官殿、彼等を怒らせるような事をなさったのか?」
「私は職務を遂行しようとしたまでの事、それが敵意を向けられ、挙げ句の果てには、ボコボコにされてしまったのだ!」
「代官殿、彼の者たちの立場からすれば、自分達の縄張りを土足で踏み込んだ貴殿を快く思わないのは致し方ないと存ずるが。」
「では私に落ち度があると仰せか!」
「そうは申しておらぬ、現に貴殿に危害を加えた領民たちは牢の中だ。」
「だったら・・・・」
「だが投獄された領民の身内からは恨みを買ったのは事実でござるな。」
ワシがそう申すと、アルフォートは苦虫を噛み潰したよう表情をした。彼の者からすれば国の命令で代官として赴任したにも関わらず、領民たちから受け入れられず、反抗され、自身も危害を加えられたのだ。ワシとしてはこのまま放置するわけにはいかず、ある提案をアルフォートに持ち掛けた
「代官殿、某の協力を得たいのであれば条件がござる。」
「・・・・何でしょうか?」
「彼の者たちの処分は罰金のみにして貰いたい。」
「何故、その様な!」
「検地をするにも領民たちの協力を得られなければ不可能でござるからな。」
「くっ!」
「他に考えがあるなら伺いますが?」
「・・・・分かりました。」
投獄された領民たちは罰金のみの処分となり、罰金を支払い、釈放されたのである。その後、ワシはアルフォートと共に検地を行ったのである
「これより検地を行う!」
「「「「「はい!」」」」」
ワシの号令に領民たちは素直に従った。検地は順調に進み、ワシの治める全ての領土の検地が終了したのである
「無事に終わりましたな、代官殿。」
「え、ええ。」
アルフォートは表情を曇らせつつも渋々、同意した。仕事は出来るが、やはり人間関係が難ありのようだ、それにしても厄介な御仁が代官になったものだと内心、先行きの危うさを感じた
「では某は屋敷へ戻りますので、これにて失礼。」
「御協力いただき忝ない。」
ワシとアルフォートは別れの挨拶を済ませた後、ワシは屋敷へ戻った。アルフォートは代官所に戻る道中、領民たちは陰口を叩きはじめた
「おい、狐代官が来たぜ。」
「へっ、何様のつもりだよ。」
「逮捕させた奴等が可哀想だぜ。」
「準男爵様の力がないと仕事も出来ないのに偉そうに振る舞いやがって。」
アルフォートは領民たちからの陰口を聞き流しつつ、代官所に向かうと、頭上から痛みを感じた
「くっ!」
アルフォートは地面を見ると、小さい石ころだった。アルフォートは周囲を見渡すと、冷たい視線が突き刺さった
「(私の居場所はここにもなかったか。)」
アルフォートは代官所に戻り、数人の部下と共に報告書を作成した。その様子を見ていた【お庭方】は早速、屋敷の執務室にいる島左近に報告をした
「狐代官か、随分と嫌われた物だな。」
「あ、あの、この事、報告した方がいいですか?」
側にいたティアは恐る恐る聞いてきた、ワシの監視役の立場からすれば、この事を報告した方がいいのか、ワシに尋ねてきたのだ。いずればれるのも時間の問題、早めに報告することにした
「ありのままを報告せよ。」
「は、はい。」
「もう下がってよい。」
「はい!失礼しました!」
ティアが執務室を退出した後、入れ替わるように与一が入室した。ワシは念のために読唇術を使って会話をした
「(与一、王宮の方はどうだ?)」
「(左近様の読み通りにございます。)」
アルフォート・ギブソン、元は王宮勤めの内政官の一人でルナとは同僚の間柄である。仕事に関しては優秀な部類に入るが、性格は生真面目で正義感が強く、常に取り澄ました態度を取り、上役から疎まれ、同僚の友人は少ない、ここに派遣されたのも、やはり左遷であった。どんなに優秀でも相手を問わずに噛み付くアルフォートは案の定、閑職に追いやられたのである
「殿と違うのは上役に恵まれなかった事、心配りが足りないことだな。」
石田三成は正義感が強く生真面目な性格のため、融通が利かず敵を作ることが多いが、主君や友人に対しては細やかな心配りをしており、味方となる者も多かった。アルフォードにはそれがないのが最大の欠点というべきか、そう考えているところ、扉からノック音がした。ワシが許可を出すと、入ってきたのはティアとシグレであった
「旦那様、報告書を作成しました。」
ティアが持ってきた報告書を一旦、与一に渡した後、ワシの下へ届けられた。ワシは報告書を拝読した後、そのまま早便にて送った。早便にて送られた報告書は数日後にルナの下に届けられた。報告書を見たルナは溜め息をついた
「何をやってるのよ、あいつは。」
報告書には代官として派遣されたアルフォードの仕事ぶりや素行、人間関係や評判等が事細かく記されていた。案の定、問題を起こして、島左近の治める領土に住む領民たちを敵に回したようだ。ルナの足取りが重く、この報告書を見た国王ロバート・シュバルツはどんな顔をするだろうという不安に駆られつつ、執務室に入室した
「陛下、監視役から報告書を持って参りました。」
「うむ、これへ持て。」
「はっ!」
ルナの側にいた国王ロバート・シュバルツの側近が一旦、報告書を受け取り、ロバートに手渡した。監視役からの報告書を拝読した後、案の定、表情が曇った
「ルナよ、この報告書の内容は誠か?」
「正真正銘、監視役からの報告書にございます。」
「ううん、代官として派遣したにも関わらず、奴の治める土地の民を敵に回すとは・・・・」
「代官を罷免なさいますか?」
「ううん、とりあえず様子を見る、サコン・シマがどうでるかだ。検地についても奴が手助けした事で収穫量を知ることができたからな。」
「はっ!」
「それにしてもサコン・シマは民の心を掴むのが上手いのう。」
ロバートは改めてサコン・シマの恐ろしさを噛み締めた。民たちの心を掴み、意のままに操る。派遣された代官のいうことは聞かず、サコン・シマのいう事は聞く、もはや代官など名ばかりの職と化してしまった・・・・
「陛下、ユリヤ大公殿下がお越しにございます。」
こんな時に何の用だと、思いつつも追い返すわけにもいかず、入室を許可した。ユリヤが入室したと同時に空気が変わった、ユリヤの表情はポーカーフェイスであるが、雰囲気からして不機嫌だということが分かった
「何の用だ、突然。」
「陛下、御人払いを。」
「人払いだ。」
ロバートの指示で側近やルナは退出した。ロバートとユリヤが二人きりになったところで、ユリヤが問い詰めた
「陛下、貴方はどれほど私の顔に泥を塗れば気が済むのですか?」
「何だ、藪から棒に。」
「代官の事を聞きました、任地の領民から【狐代官】と陰口を叩かれているそうですね。」
「・・・・どこから聞いた。」
「私の所に出入りしている商人から聞いたのです、もはや代官なんてあってないような物ではありませんか?」
「うむ。」
「私は監視役だけでは心許ないと思い、代官を派遣するよう進言し、陛下はそれを実行いたしました。ですが人選を間違え、ますます領民はサコン・シマに心を寄せるようになりました。」
「それについてはすまない事をした。」
「もはや後の祭りですわ、それでどうなさいますか、代官を罷免するのですか?」
「一旦、様子見だ。」
「判断を間違えなければ宜しいですが・・・・さて言いたい事は言わして貰いましたので私は退出させていただきます、陛下、ごきげんよう。」
ユリヤが退出した後、執務室に一人残されたロバートは溜め息をつきつつ、飲みかけの珈琲を飲むのであった




