123話:秘密契約【2】
島左近清興だ、ティアが送った書状が王都に届けられてから1週間後にルナが屋敷へやってきた。ワシらはいつも通りにルナを招き入れた。勿論、もてなしをするのはティアに命じている
「サコン殿、椿油の事を御存知か?」
ルナは早速、椿油の事を切り出してきおった。ワシは書状の事は口にせず、商人からの情報で誤魔化した
「商人たちから聞いてござる、大層な評判だそうな。」
「ええ、王都では貴族のご夫人方が化粧品として大変重宝されております、椿油を産み出したサムエル男爵家にも婚約話が続々と舞い込んでいるようです。」
「左様か。」
「それよりもサコン殿、ティアは上手くやれていますか?」
「勿論、流石は王宮で鍛えた腕であって手際が良うござる。」
「ふふふ、それを聞いて安心しました。」
左近とルナは互いに腹の探りあいをしつつも、話を弾ませる一方、側に控えていたティアは脂汗を流しながら我関せずの態度を決め込んでいた
「(ルナ様、私ばれちゃいましたよ!)」
「ティア。」
「は、はい、お呼びでしょうか!」
「茶を注げ。」
「はい!」
ワシに呼ばれたティアは上擦りながらも返事をし、ワシとルナの紅茶茶碗に茶を注いだが、わずかばかり震えていた
「如何した、手が震えておるぞ。」
「申し訳ありませぬ!」
「下がって良い。」
「はい!では失礼します。」
ティアは客間から退出した後、左近はルナの方へ向いた。退出したのを確認した後、ワシはルナを問い詰めることにした
「ルナ殿、わざわざ椿油を知らせに赴いたわけではござるまい。」
「勿論、わざわざ椿油の事を知らせにきたわけではありません。サムエル男爵は上機嫌でした。おまけに酒に酔って面白い事を仰いましてね。」
「ほお~、何と仰ったので?」
「はい、今回の椿油の件はサコン殿の発案だと仰っていました。」
ワシにカマをかけるつもりのようだな。追跡動物【蝶】は男爵に配置しており、奴がそのような発言をしているところは一度も見たことがない。誠はティアが寄越した書状を見て、それを確かめるために来たのだろう・・・・
「仮にそれが誠だとして、ルナ殿に何の関わりがあるのだ?」
「いいえ、もしそれが本当ならサコン殿にも何らかの利益を得たのでは?」
「残念ながら彼の御仁とは面識がないのでな。」
「・・・・それは本当ですか。」
「疑う証拠でもおありか?」
どれくらい時が経ったか分からぬが、ワシとルナは睨みあった。睨み合いの末、降参したのはルナの方だった
「冗談ですわ。」
「冗談なればこれきりにしていただきたい。」
ルナとしては証拠・証言と言ったら、ティアからの報告書しかない。だがルナは証拠は出せまい、もし出すのであれば、間者の存在を自ら認めるようなものである。ルナとしては、それは避けておきたいのであろう、あっさりと引いたのである
「さて私はこれにて退散いたします。」
「では、お見送りいたす。」
「失礼ですが先にお花を摘みたいのですが・・・・」
「左様か、シグレ。」
「では、こちらへ。」
ルナはシグレの案内で厠へ向かい、用を済ませた後、ティアに会いに行こうと思ったが、シグレから「彼女は買い物に出ていて、今はいない」と聞き、ルナはティアに会わずに馬車に乗って、そのまま王都へ帰還したのである。馬車の中でルナは左近の言動を思い出していた
「ふてぶてしい男だわ。」
ティアから手紙を受け取ったルナはサコンにカマをかけたが、奴は「関わりがない」「証拠はあるのか」と逆に聞く始末である。それにティアが脂汗をかき、震えつつも茶を注いでいた事にルナは何かを隠していると感づいた
「(まさか・・・・・いや、あの男ならあり得るわ。)」
あの男はティアの正体に気付いている、気付いた上でティアを利用した。かつてティアは「もし自分の正体をサコン・シマに気付かれたらどうするのか」と聞かれた時、ルナは「殺しはしない、殺せば自分の首を絞めるようなもの、逆に利用する」と言った事を今になって思い出した
「(私の言った事がそのまま私に返るとは・・・・)」
ルナはこの事を国王に報告すべきか迷っていた。サコン・シマはティアの正体に気付いていると・・・・
「(いや、証拠も証言もなしに報告もできないわ。肝心のティアとも会えずじまいだし・・・・)」
サコン・シマがティアの正体を気付いていない可能性もある。証拠も証言もなしに国王に報告できる事ができない。ティアに会おうにも、あのシグレが故意が偶然か、ティアに会う事ができなかったのである
「今回は見逃しますよ、サコン殿。」
ルナは王都へ帰還した後、執務室にいる国王ロバート・シュバルツに報告をした。報告を受けたロバートはうさんくさげにルナを注視した
「ルナ、この報告は事実か?」
「何か問題でも?」
「例の侍女からの報告を見たが、お前の報告ではサコン・シマはそれを否定をしている。矛盾しておらぬか?」
「お疑いで?」
「まさかと思うがスパイの事を気取られたのではないか?」
「不躾ながら申し上げます。もしサコン・シマが侍女の正体に気付いていれば、侍女はこの世にはおりませぬ。」
「・・・・であるか。」
ロバートはそれ以上、追求しなかった。ロバート自身もサコン・シマは侍女の正体を知った上で見逃しているのかもしれない。サコン・シマが監視に気付いた上で、大胆不敵にも嘘八百を並べ立てたのである。奴は侍女を亡き者にせず、あえて生かしているのは我等の存在に気付いており、奴に都合の良い報告だけを報告している可能性がある
「此度は御苦労であった、下がって良い。」
「はっ!」
ルナを下がらせた後、ロバートはこの間、侍女が報告した手紙を再び拝読し、破り捨てた
「つくづく食えぬ男よ。」
その頃、左近はティアを呼び出した。呼び出されたティアは警戒しつつも左近のいる執務室に入室したのである
「今回の事は報告しても良い。」
「はい・・・・」
「そう警戒するな、別に殺しはしないから安心せよ、それに主を殺してもワシには何の得もないからな。」
「そう・・・・ですか。」
「ワシが信用できんか?」
ティアは左近の問いに答えることができなかった。左近からしてみれば、YESと返事をしているようなものなのだが、あえて追求しなかった
「そんなに嫌ならルナ殿に報告すれば良い、【監視の任務が嫌になったから今すぐ辞めたい】と。」
「そ、それは・・・・できません。」
「何故、できぬ?」
「私は王国より密命を承った身です、その密命を承った者を生かすとお思いですか!」
ティアは青白くなり震えつつも、自分の立場を分かっているようである。もしそんな手紙を書けば自分は用済みになると・・・・
「だったら自分の命を守るために職務を全うすれば良い。主は王国に利用されているに過ぎない、だからこそワシが主をこうして守っているのだ。勿論、主の報告があるからこそ、王国も主に監視を任せているんだ。お互い生き残る最良の方法だとワシは思うがな。」
「旦那様。」
「ティア、安心せよ。主の命はワシが保証する、だから心配するな。」
「旦那様、再三に渡って疑ってしまった事、深く御詫び致します。私の身も心も旦那様にお捧げ致します、ですから・・・・」
「分かればそれで良い、それに軽々しく身も心も捧げるとは言うものではない。」
「申し訳ありません、では改めてよろしくお願いいたします。」
「うむ、よろしくな。」




