121話:男爵来訪
島左近清興だ、雨乞いの効果があったのか、一日中雨が降った。雨は枯れ果てた大地を潤した。民たちは空の甕を外へ出し、雨水を貯めこみ、甕は満杯になるほどの雨であった。左近の治める領土では大雨に関わらず、河川や溜め池は氾濫せず、何事もなく終わったのである
「取り敢えず雨が降って良かったわい。」
それから雨は定期的に降るようになり、シュバルツ&ジュリアス両国は干魃の危機を脱したのである
「奇跡だよ!」
「本当に雨が降ったわね。」
アメリアとティアは雨宿りをしながら空を眺めていた。2人は雨乞いの祈祷を行っている難民たちの姿を見ており、本当に雨が降ったと信じざるをえなかった
「旦那様が用意した祭壇や供え物が効いたのかしら。」
「よく分からないけど奇跡は奇跡だよ!」
「そうね、奇跡よね。」
ティアはこの事を報告することにした。ティアはルナ・キサラギ宛に手紙を作成し、それが終えると一度部屋を退出した。ティアが部屋を退出した後、監視していたシグレはティアの部屋に入り、手紙の内容を一読した後に左近に報告した
「ご苦労、引き続き監視を続けろ。」
「はっ!」
「左近様、宜しいので?」
「雨乞いをやったのは事実だからな。」
その後、ティアは早便で例の手紙を送った。早便は順調に王都へ向かい、無事にルナ・キサラギの下に送られた
「ルナ内政官、手紙が届きました。」
「ありがとうございます。」
ルナはティアの名前を確認すると、早速手紙を広げ、読み始めた。内容を一通り、呼んだ後、すぐに国王に見せたのである
「雨乞いか、偶然にしても出来すぎだな。」
「ええ、偶然そうなった可能性がありますが・・・・」
「雨が降ったのだから、それでよいがな。」
「はあ。」
「引き続き監視を続けろ。」
「はっ!」
ルナは早速、手紙を書き、ティアの下へ送った。引き続き監視を続行する事を命じた。手紙は早便にて屋敷に届けられた
「ティアさん、郵便です。」
「はい、ありがとうございます。」
ティアは手紙を受け取り、自分の部屋に戻った。早速、ティアは手紙を広げ、読み上げた
「了解しました。」
トントン
「は~い。」
「ティア、旦那様が呼んでるわよ。」
「分かりました。」
ティアが左近の下へ向かうと、ティアを監視していたシグレは部屋に入り、手紙の内容を確認した後、部屋を退出した
「では頼んだぞ。」
「はい。」
ティアは左近からの用事を頼まれた後、部屋を退出した。部屋を退出したのを確認したシグレは入れ替わりに左近のいる執務室に入室し、手紙の内容を報告した
「そうか、ご苦労。引き続き監視しろ。」
「はっ!」
シグレが退出し、ワシは茶を飲み、一息ついた
「自分の屋敷なのに、やはり居心地が悪いな。」
今まで監視がない分、比較的自由に過ごせたが国王から放たれた間者によって、不自由な生活を送っている。だが殺すわけにはいかぬ、何故かってもし間者の身に何かあれば、国王がナニかしら行動するであろうからな。不穏な事がなければ放置している
「領内の視察でもするか。」
ワシは気分転換に領内の視察をすることにしようとしたその時、扉からノック音がした。ワシが許可を出すと与一が入ってきた
「左近様、一台の馬車が参ります、それもシュバルツ王国の公家【貴族】の馬車にございます。」
「分かった、準備はしておけ。」
ワシらは色々と準備を始めると、玄関から馬の嘶きが響き渡り、使用人の1人がワシの下へ訪れた
「旦那様、サムエル男爵が参られました。」
「そうか、客間へ案内せよ、ティア。」
「は、はい!」
「主はワシと共にサムエル男爵のもてなしをせよ。」
「はい、分かりました!」
何故、指名されたのか分からず困惑するティアはワシの言う通りに従った。ティアが早速、台所へと向かうとワシは与一を呼んだ
「お呼びにございますか。」
「(ティアの部屋に追跡動物を忍ばせろ。)」
「(御意。)」
ワシは身嗜みを整え、客間へ向かうとサムエル男爵が長椅子に座っていた。サムエル男爵は40代後半で黒髪金眼で色白の男だった
「お待たせして申し訳ござらん。」
「いやあ、こちらこそ突然お尋ねして申し訳ない。」
「某はサコン・シマにございます、宜しくお見知りおきを。」
「私はボルム・サムエルです。」
ワシらは互いに挨拶を済ませた後、ティアが茶と茶菓子を卓子に置いた
「ティア、そなたは部屋の隅で控えておれ。」
「はい。」
「さあ、どうぞ、御召し上がりを。」
「ではいただこう。」
ティアは部屋の隅で待機をさせると、ワシらは茶菓子と茶をいただいた後、用件を聞くことにした
「男爵閣下、当屋敷に参った御用件をお伺いしたいのですが。」
「うほん、今日参ったのはサコン殿にどうしてもお願いしたいことがある。」
「出来る範囲であれば。」
「うむ、私の娘を娶っていただきたい。」
サムエル男爵の口から【娘を娶っていただきたい】とはっきりと申した
「男爵閣下、某には既に正妻がおりますが・・・・」
「いいえ、正妻ではなく、側妻として迎えていただきたい。」
側妻、つまり妾、側室を勧められたのである。部屋の隅で控えていたティアは驚きの表情を浮かべていた
「不躾ながらお尋ね致します。某は【準男爵】の爵位はございますが、平民と同じでござる。貴族と平民の婚約等、前例がござらぬ。」
「前例がないのは承知している。」
「それにこの事は陛下は御存知なのでござるか?」
「勿論、御存知ない。」
「・・・・何故、某にそのような事を?」
「正直申し上げる、私にはわずかばかりの土地と、王宮の役職で給金を得ている。だが貴族ともなれば、それなりの付き合いもある。給金だけでは生活ができない。」
それを聞いたワシは男爵の狙いが何なのか理解した。自分の娘をワシの妾として嫁がせる代わりに、援助を要請することが狙いなのである
「その事、娘御は承知しているのでしょうな。」
「娘の意思等、関係ない。全てはサムエル家のためだ。」
まさに貴族的な考えだ。現世でも同じように女子は政の道具として政略結婚に利用されるのが常である。問題は国王が承知するとは思えない
「男爵閣下、せっかくの申し出にございますが、お受けするわけには参りませぬ。」
「・・・・理由を聞きたい。」
「まず貴族と平民の婚約に前例がない。貴族の妾には平民がいることはあれど、逆は存在しない。それに国王陛下の許しもなく勝手に行えば某だけではなく貴殿にも何らかの責めがござりまするぞ。」
それを聞いたサムエル男爵の表情が曇った。国王陛下の名が出たのが効いたのか、それ以上、何も言わなかった。ワシは茶を飲み、一服した後、サムエル男爵に尋ねた
「男爵閣下、他の貴族との婚約は考えなかったのでござるか?婚約者のいない御曹司に嫁がせればよいものを・・・・」
「男爵家の嫁ぎ先は子爵か男爵と相場が決まっている。しかし子爵や男爵の大半は領地を持っておらず、宮中での役職がメイン、我等は土地を持っているが規模が小さい、生き残るにはちゃんとした領地を持ち、財力がある家に嫁がせる事で生き残る事しか道がない。そのためには娘を道具として扱う事も珍しくないのだ。」
「なるほど、それで某にお鉢が回ったと。」
「そうだ、貴殿は【伯爵】と同等の領地と財力を持っていると噂で聞いてな、もはや家など関係ないと思ってな。はあ~、やっぱり無理だったんだな、貴族と平民の婚約話は。真面目に仕事をしても決められた給金で家族や使用人たちを食わせるにも限度がある。それに新興貴族たちが出張ってきて困ってもいる。だからといって悪の道に手を染めようだなんて考えていない。これでも貴族としての矜持が在るからな。」
「男爵閣下。」
「さて、長居をしてしまった。私はこれにて失礼するよ。」
「お待ちを、不躾ながらお尋ね致しますが、貴殿の領地では何か取れる物はござりますかな?」
「最近、宮中の仕事ばかりで領地は見ていないが、それが何か?」
「もしかしたら名物を作れる材料があるやも知れませぬぞ。」
「相分かった?」
サムエル男爵は首を傾げながらも、ワシの案を受け入れた。ワシは帰るサムエル男爵に土産を渡すと、「ありがとう」と言い残し、土産を持って馬車に乗り、王都へと帰っていたのである。ワシはティアを呼び、今回の事は他言無用と厳命したのである




