120話:雨乞い
島左近清興だ、ワシはある書状に目を向けた。ジュリアス王国にて雨が降らず、雨乞いが盛んに行われているとの事である
「雨乞いか。これは飢饉の前触れか。」
ワシのいた現世にいた時も雨乞いの祈祷は盛んに行われた。時には人柱を立てて、天に祈ることも珍しくはない。ジュリアス王国で雨乞いが行われているという事は、この国にもいずれ雨が降らなくなる可能性がある。ワシの治める領地では転生特典の水筒の水で作った無限に産出する溜め池と小さいながらも氾濫が起きず、水量が絶えない河川があり、農業用水として役立てている。飲み水も共有井戸があり、水も枯れず豊富に産出している。領民全てが水に困る事はない、困ることがないが問題がある。そう別の土地の民がこちらに雪崩れ込んでくるのを恐れた。象討伐の折り、難民が島左近の領地に居座り、また一部の難民が社倉から食料を奪い取ろうとした事もあり、心配もしていた
「うむ、今のところは救荒植物も順調に育ち、いつ収穫しても良いほどだ。乾パンや金平糖や兵糧丸や飢渇丸や水渇丸も増産を進めているのだが、それを知った他の土地の者がワシの領地に押しかけてきては、また領民と難民の争いが起きかねんな。」
左近は再び領民と難民による争いを下げるべく、苦心をする一方、ジュリアス王国では大規模な雨乞いの儀式が行われていた。国王ギルト・ジュリアスは長引く日照りに業を煮やし、国を挙げての苦肉の策である
「頼む、雨よ、降ってくれ。」
ギルトはひたすら雨が降るのを祈り続けたが、効果がなく、日照りが続いた。そしてジュリアス王国にも飢饉の兆候が見え始め、とある複数の村で河川による水争いが起きていた
「俺たちは多くの田畑があるから、水が必要なんだ!」
「それだったら俺たちの村も水がいるんだ!」
「俺たちは飲み水が不足してるんだ!」
互い水利権を主張し合ったが決着がつかず、役人によって差配されたが、納得がいかず、ついに村同士のいさかいが起きたのである
「河を奪い取れ!」
「奴らに渡すな!」
ついに村同士で血で血を争う戦いが勃発したのである。この争いは警備隊によって鎮圧されたが、水不足による争いは各地で起こった
「公平な裁定をするのだ。」
ギルトは現地での依怙贔屓無しの公平な裁定を行った結果、逆に水利権が不公平な分配がされ、再び争いが起こり、結局は軍を使って鎮圧する羽目になったのである
「申し上げます、水不足による干魃が現れました!」
「下がっておれ。」
「はっ!」
とうとう干魃が起き始めたのである。水利権を主張している間に地面が干上がり、農作物の栽培が出来なくなり、収穫量が減少した
「干魃が起きた村々に食糧難を配布せよ!」
ジュリアス王国は旱魃のあった村々に食糧を配布し、雨が降るのをひたすら待つのであった。そして隣国のシュバルツ王国にも日照りの兆候が表れ始めた
「ここ最近、雨が降っていないな。」
ロバートは空を見上げながらそう言った。ロバートが心配していたのは、水不足による旱魃である。湖や河川のある所は問題ないだろうが、溜め池のみの土地は旱魃になりやすい。溜め池の水は無限ではないため、いつか水は無くなってしまうのだ・・・・
「ジュリアス王国でも雨乞いが行われていたな、だが効果がなかったようだな。」
ロバートは雨乞いをする気はなく、旱魃が起きた時に、旱魃が起きる地域の調査と食糧の配布の準備を進めていた。そしてシュバルツ王国にも干魃の傾向が現れ始めた。雨が降らないせいか、溜め池も底をつき、唯一の河川を巡って争いが起きていた
「すぐに現地の警備隊を派遣して鎮圧せよ!」
「ははっ!」
警備隊の介入によって鎮圧された。食糧を配布する前に村を捨てて逃亡する者が相次ぎ、次々と廃村になったのである
「とうとう来たか。」
ワシの治める領地に難民が少数ながら入ってきた。全員、村を捨ててこのワシに保護を求めてきた者たちだ。取り敢えずワシはその者らに水と食糧を与え、畑仕事をさせ、外にこの事が漏れないように情報を統制した
「左近様。」
「如何した?」
「はっ、また難民が・・・・」
「まだ余裕があるか?」
「今のところは。」
「相分かった。」
外へ情報が漏れないように気を配っているが、人の口に戸は立てられぬ、難民が少しずつだがワシの治める領地に入ってきた。難民たちに水と食糧と仕事を与え、何とか遣り繰りしているがどこまで持つか・・・・
「これ以上の難民の受け入れは避けねばならぬ、警備隊を増加する!」
ワシはこれ以上の難民受け入れを防ぐために警備隊を増やし、難民受け入れの規制を始めると共に乾パンと金平糖を提供し領地から立ち退かせる事にした。その後、難民がワシの領地へ訪れたが、警備隊の厳重な警備もあったが、乾パンと金平糖を提供した効果もあって、他の土地へ移動を開始したのである
「乾パンと金平糖が効いたようですな。」
「あぁ、もう1度現れたら追い返すか、捕縛するがな。」
それ以降、難民はワシの領地に現れることはなかった。どうやら大半の難民は王都へ集まっており、食糧の配布を行っていた。その効果もあってか、難民は続々と王都へ集結したことで、ワシの領地に難民が多く訪れることがなかったようだ
「これで一安心ですな。」
「ああ。」
ワシらは規制を解き、警備隊を下がらせた。ワシの領土に来た難民たちは元の村には帰らず、そのまま移住することになった。仕事が豊富にあるから難民たちも安心できたのであろうな・・・・
「だが根本的な解決にはなっておらぬな。」
そう、未だに雨が降らずにいたのである。ワシの領地は水に困っていないが、他の土地ともなれば水場争いがあり、常に問題視している。かくゆう、このワシも水場争いに苦い思い出が浮かんだ
「中坊、あやつの顔を思い出すとむしゃくしゃするわ。」
中坊秀祐、こやつはまさに奸臣というべき輩である。筒井順慶公亡き後、後を継いだ筒井定次の寵愛を得て、専横を振るい、ワシは常にこやつと対立した。中でも決定的になったのは水場争いで筒井定次は中坊の味方をしたことがきっかけでワシは筒井家を追われることになった
「左近様、今さら中坊を怨んでも仕方がありませぬよ。それにあやつはロクな死に方はしませぬよ。」
「だと良いんだがな。」
島左近は異世界に行って知らないと思うが、左近の元主君である筒井定次は寵愛していた中坊の讒言によって改易となり、慶長20年(1615年)に豊臣と通じた罪で息子ともども自害をさせられたのである
「ワシの人生、何であったのであろうか。」
一方、中坊は徳川家康の計らいで幕臣に取り立てられ、奈良奉行を歴任したが、慶長14年(1609年)に筒井家時代の同僚に暗殺されたのである
「中坊、覚悟!」
「ぎゃああああ!(こ、こんなところで・・・・)」
ワシの領地に移住した難民たちから陳情書が参った。一日でも早く雨が降るのを祈り、雨乞いの祈祷をしたいとの事である
「うちも雨乞いをでもするか。」
「左近様、こればかりは天が決めることにございます。」
「形だけだ、そうすればあやつらも気が済むであろう。」
ワシは難民たちの陳情を受け入れ、雨乞いの祈祷の儀式を行う事にした。祭壇を作り、御供え物(酒、餅、野菜、果物、菓子、塩、水)を備え、祈祷を開始した。ワシと与一は雨乞いの儀式を黙って見ていた
「さて、吉と出るか凶と出るか。」
あれから数刻が経ち、空は特に変化がなかった。ワシは屋敷へ帰ろうとした瞬間・・・・グルルルル
「ん?」
ワシは空を見上げると黒雲が集まり始めた。そしてところどころ雷の音が響き渡り、そして・・・・・ポツポツ・・・・ザワアアアアアアア
「あ、雨だ!雨が降ったぞ!」
雨乞いを行った難民たちは大喜びで互いに喜び合った
「どうやら天は答えてくれたようだな。」
「左様ですな。」
雨はシュバルツ王国全土に降り注ぎ、荒れ果てた田畑に降り注いだ。一方、ジュリアス王国にも黒雲がたちこめ、雷の音とともに雨が降った
「おお、天よ。感謝いたす。」
雨は一日中、降り注ぎ、シュバルツ&ジュリアス両国の水不足は解消したのであった




