118話:女スパイ
島左近清興だ、ルナの口から【陛下がワシを召し抱えたい】と・・・・
「ルナ殿、ワシは陛下に、国に忠誠をつくしているつもりだが?」
「陛下は貴方を貴族として召し抱えたいのです。」
それを聞いたワシは改めて申し上げた
「ルナ殿、陛下に言上してくだされ、【某は元は一介の武人にて貴族の礼儀作法を知らず、また学ぼうと思った事は一度もございません。仮になったとしても陛下に対し不敬を働くやもしれませぬ。某は1人の民として陛下に忠誠を尽くす所存にござります】と。」
ルナも分かっていたのか、「はぁ~」と溜め息をつきつつも、これ以上、何を言っても無駄と判断した
「取り敢えず御報告申し上げます。」
ルナは馬車に乗り、王都へ帰還した。ワシはそれを黙って見ていた。ルナ自身がそう思っているだけで、肝心の国王自身がそうとは限らない。仮にそれが誠だとしても、ワシは・・・・
王都へ帰還したルナはその事を報告した。するとロバートは・・・・
「そうか、下がって良い。」
「ははっ!」
ルナはその場を去り1人、茶を一服し、書類を見ながら・・・・
「(振られてしもうたな、また。)」
その後、国王ロバートに動きがないことを貴族たちは様子見を決め込んだが、一向に昇進話がないことに苛立ち、献金によって貴族になった者たちが執務室にいる国王に直訴に及んだ
「何事だ、お前たち。」
「陛下、功績あるサコン・シマを貴族に昇進させねばシュンフェン王国に笑われまする!」
「左様、サコン・シマが一向に出世しないのは、それを妬む者たちの讒言にございます!」
「陛下、そのような不届き者を成敗いたし、彼の者を昇進させましょう。」
「陛下、御決断を!」
直訴してきた者たちは皆、献金によって貴族になり出世した者たちばかりである。古参の貴族たちから「成り上がり者」と見下しつつ、自分たちのない才覚を持っている事に警戒しており、貴族になった者たちは目の上のたん瘤である古参の貴族を表向きは敬いつつも、内心では古いだけで役に立たない無用の長物と蔑んでいる。サコン・シマを貴族に昇進させようとするこの者たちは自分たちの旗頭にしようとするのが目に見えていた
「では聞くが貴族になりたくない者をどうやって靡かせるのだ?」
「そ、それは・・・・」
「奴は巨岩大木のような男だ、諦めよ。」
直訴にきた貴族たちはそれ以上、何も言わず部屋を執務室を退出した。煩わしいのが消えて、ロバートは内心、安堵した
「食えぬ男【サコン・シマ】よ。」
それから数ヵ月が経つと、島左近の屋敷にルナ・キサラギと共にシュンフェン王国の使者が訪れたのである
「サコン殿、シュンフェン王国より【準男爵】の爵位を与えるとの事です、勿論、陛下も御承知です。」
「さあ、サコン殿、受けられよ。」
ワシは改めて耳を疑った。何故、シュンフェン王国がワシに【準男爵】の爵位を?
「不躾ながらお尋ねいたす、某は何故、【準男爵】の爵位を賜るのか理由をお伺いしたい。」
「大使であるタイラン様は王族に連なる御方にございます。タイラン様は貴殿のもてなしに大変感銘を受けておられました。【準男爵】はその礼との事にございます。」
「左様か、では謹んでお受け致します。」
ワシはシュバルツ&ジュリアス&シュンフェン王国から【準男爵】の爵位を得ることになった。その後、シュンフェン王国から来た使者とルナが帰った。側にいた与一が早速、祝いの言葉を述べた
「おめでとうございます!」
「うむ、まさか3カ国から【準男爵】の爵位を賜るとはな。」
「左近様、王国もよく承知なさいましたな。」
「ああ、何やら胸騒ぎがするな。」
「追跡動物を使いまするか?」
「うむ。」
与一は早速、追跡動物【鳥】を使い、王都へ向かわせた。道中、見て回るとルナたちの乗った馬車を見かけた。それを素通りしながら飛んでいき、ようやく王都へ到着し、そのまま王宮へと向かった
「蝶を放ちまする。」
追跡動物【鳥】が、同じ追跡動物である【蝶】を放した。【蝶】はそのまま王宮へ入り、国王ロバート・シュバルツの下へ向かう途中、偶然にも国王を見つけ、後を付けた。国王はそのままテラスへと移動していた。後をつけると、そこにはユリヤ・シュバルツ大公殿下が座っていた
「待たせたな。」
「いいえ、そこまで待っておりませんわ。」
ロバート・シュバルツが席に座り、御茶会が始まった。話はやはりワシの事であった
「シュンフェン王国がサコン・シマに【準男爵】を授けたようですが?」
「あぁ。」
「陛下もよくお許しになられましたわね、これでサコン・シマはジュリアス王国の他にシュンフェン王国との繋がりができましたわね。」
「そうだな。」
「陛下、このまま放置しても宜しいのですか?」
「・・・・何が言いたい?」
「奴をこのまま野放しにするわけにはいかないのでは?」
「奴は貴族にならないと言うておる。」
「別に貴族にならなくても監視をつければ宜しいのでは?」
ユリヤから監視をつけるよう提案をされた
「監視だと?」
「ええ、例えば侍女を送りつけ、監視させ、奴の言動を報告させましょう。そうね・・・やはり若く見目麗しい者を奴の側に近づけさせましょう。」
「うむ。」
二人の会話を【蝶】を通じて見ていたワシと与一は鳥肌が立った。まさかワシらの下に間者を寄越してくるとは思わなかったのだから・・・・
「左近様の胸騒ぎが当たりましたな。」
「ああ、よほどワシが信用できぬようだな。」
「それで如何いたしますか?」
「受け入れる他はない。」
「宜しいので?」
「ああ、ワシが受け入れれば、向こうも安堵するのであろう、我等はあくまで素知らぬ風に装え。」
「はっ。」
それから一週間後、ルナが再びワシらの下へ現れた。そう監視する者を連れて・・・・
「これはこれはルナ殿、一体何用でござるか。それとそちらの女性は?」
「はい、この者は陛下よりサコン殿への贈り物にございます。」
するとルナは一緒にいた女子に目を向けた。見た目は明るい茶色の長髪、茶色の瞳、色白の美少女、身長は160mほどの十代後半の女子が立っていた
「お初にお目にかかります、サコン・シマ準男爵様、私はティア・ストロートと申します。」
ティア・ストロート、こやつが国王が放った間者か。ワシや与一以外の面々は国王がまさか女を寄越すとは思ってもいなかった。特にアリーナは何か悟ったのか、ワシの方ヘ顔を向けた
「陛下に言上くだされ、有り難くお受け仕りますと。」
「分かりました。ではティア、皆様に御迷惑をかけぬよう頑張るのですよ。」
「はい。」
ルナが王都へ向かったのを見届け、ワシはティアに屋敷を案内させ、自身が生活する部谷を案内させた
「何か分からない事があれば、与一に聞いてくれ。」
「はい!皆様、宜しくお願いします!」
こうしてワシは国王が放った間者と共に共同生活を送ることになった。ティアは自分の荷物を部屋に入れた後、早速メモをした
「(サコン・シマ及び関係者は特に変化無し。)」
話は遡る、ティア・ストロートは王宮に仕える侍女の1人であったが、国王の命にてサコン・シマの監視をすることになった。ティアはルナの部屋にて作戦会議を行っていた
「では手筈通りにお願いしますね。」
「あ、あのルナ様。」
「何かしら?」
「もし私がスパイだってばれたらどうするのですか?」
「大丈夫でしょう。」
「え。」
「仮にばれても貴方を害そうなんて考えませんよ、サコン・シマは強かな男です、むしろあなたを利用するかもね。」
「私を・・・・利用・・・・」
「それほど厄介なのですよ。まあ、貴方はサコン・シマを主として仰ぎ、奉公するだけでいいのですよ、勿論、報告もするのです。」
「分かりました。」
ルナからサコン・シマに奉公すると共に、監視をするよう命じられたが内心、不安でしかなかった。サコン・シマの名は聞いていた。最初はどれほど恐ろしい男かとびくびくしていたが、実際に会ってみると礼儀正しく、男前だったため少しほっとしたが、ルナの言葉を思い出し、警戒を強めた
「(頑張るのよ、私!)」




