117話:またまた昇進話
島左近清興だ、道中で行き倒れていた娘、かつてワシが一介の武人だったころに助けたアメリア・ハントだった。仕事を探して王都へ行く道中、空腹で行き倒れていたらしく、ワシらが保護し、現在に至る
「仕事先を紹介してくださりありがとうございます、おじ・・・・じゃなかった、サコン準男爵様。」
「ははは、無理せずとも良い、少しずつ慣れておけ。」
アメリア・ハントはワシの紹介で、【サコン町】のギルドの受付嬢として勤務することになった。ちょうど受付嬢の空きがあり、そこへ勤務することになったのだ。ちなみにワシはギルドの運営もしていた
「左近様、良かったですな。」
「あぁ、昔が懐かしいな。」
そうワシが一介の武人だった頃、与一と共に任務の帰りで、アメリアと出会った。アメリアとその両親が突然、賊と出くわし、アメリアの父親と母親は賊に殺され、アメリアも教われそうになったところ、ワシと与一が寸前のところで助け、賊を皆殺しにした。その後、両親が死に残されたアメリアは涙に暮れていた。大好きな両親を賊によって目の前で殺されたのである。ワシらはアメリアを慰めつつ、この娘の行く末が心配であった。ワシが信頼できる孤児院に預けることにした。孤児院の院長はワシの目から見た中でもしんようできる御仁なのでこの娘を預けられるだろう。別れ際に例の勾玉のペンダントを渡した時が最後だ。一方、アメリアは・・・・
「さて頑張らないと!」
アメリアはかつて2度命を救われた恩人と再会した1度目は賊に襲われそうになった時、2度目は空腹で行き倒れていた時、【サコン・シマ】、この男の名は彼女の中に残り続けた。そう両親が目の前で賊に殺され、私も一緒に殺されそうになった時、サコンのおじちゃんが助けてくれた。悲しみにくれる私に優しく慰めてくれた。私を孤児院に預け、去り際にペンダントを渡してくれたこと、あの頃を思い出す・・・・
「(ありがとう、おじちゃん。)」
「すいません。」
「はい!ギルドへようこそ!」
アメリアがギルドでしっかり働いているのを確認したワシは領内の視察を行っていた。そう畑の様子を見に行くのである。シュンフェン王国で起こった飢饉や干魃がこの国に起こる可能性がある。せめて我が領地の民たちだけでも飢え死を避けるために救荒植物用の畑を拡張し、更に【エメリカ山脈】に青芋と藪芋麻と共に救荒植物用の畑を作っている
「それまでに持ちこたえてくれるといいが・・・・」
次に【ガルバ町】周辺の土地を視察した。土地が広く、青芋と藪芋浅の他にも様々な農作物のを育てている。勿論、飢饉対策であり、多くの人命を救うためにも必要不可欠な畑である
「さて戻るか。」
ワシは視察を終わらせ、屋敷へ戻ると一台の馬車が停まっていた。ワシは誰だと警戒していると馬車戸が開き、中からルナが出てきた
「ルナ殿ではないか。」
「あらサコン殿、今、お帰りですか?」
「あぁ、領内の視察の帰りだ、何も用意してはいないが?」
「お構い無く、私も役目を済ませたら帰りますので・・・・」
「左様か、では中へ。」
「はい、失礼します。」
ワシとルナが屋敷へ入り、使用人に命じてルナを客間へ案内させた。ワシはすぐに着替えを済ませ、客間へ向かい、茶菓子と茶を頂いているルナと対面した
「お待たせいたした。」
「いいえ、今日伺ったのはサコン殿の処遇についてなのですが。」
それを聞いた途端、また昇進話かと思った
「また昇進話にござるか?」
「あはは・・・・御名答です。」
ルナも苦笑いを浮かべつつ、理由を話し始めた。同盟締結後に酒宴を催され、ワシの話になったらしい。ワシがシュンフェン王国の使節団をもてなした事を大使であるタイラン・マオがこの国の道中で受けた接待の中でワシの接待が一番良かったと申したらしい。特にワシが献上した最高級品の上布が気に入ったらしく、国王の前に披露したらしい
「それで?」
「はい、タイラン殿は何故、サコン殿が我が国とジュリアス王国から【準男爵】の爵位を授けている事を知ったタイラン殿が・・・・」
タイラン曰く【何故、あの者が貴族でないのが不思議ですな。】と驚いていたらしい。国王が理由を言うと、タイランは【何と殊勝な男よ、そういう者こそ貴族に相応しいではないでしょうか!】と声高々に褒め称えたらしい。それを聞いた国王や貴族たちは苦笑いを浮かべていたらしい・・・・
「(余計な事言いおって。)」
ワシは心底、そう思った。タイラン・マオの帰国後、例の昇進話がまたぶり返したらしく、ロバートも悩み悩んだ結果、ワシの下にルナを派遣したらしい
「ワシはただ、他国の使節に礼を尽くしただけなのだが・・・・」
「勿論、それは存じております。失礼があっては我が国の尊厳に関わりますからね。」
「・・・・大使の戯言、聞き流しても良かったのでは?」
「サコン殿、聞き流すわけにはいかないんですよ、今の貴方の現状も含めて・・・・」
ルナは用意した茶を飲んだ後、ふう~と一息をついた後、ワシの方を見据えた。どうやら本題に入るようだな・・・・
「サコン殿、現在、貴方が所有している土地の広さ、そして財力から見ると、現段階で【伯爵】に相当するほどの力があるのですよ。」
「ほお~、それで?」
「一部の貴族の中には今まで貴族の爵位を辞退するのは、より高位の爵位を得ようとしていると専らの噂です。」
「ふん、埒もない。」
ワシとしては迷惑千万な話だ、口さがない公家【貴族】共の戯言など、耳障りでしかないな。ワシは改めてルナに申し上げた
「ルナ殿、何度も申し上げるがワシは貴族になるつもりは毛頭ござらん。」
「勿論、それは分かっておりますが、昇進話はそう簡単には消えませぬ。」
「前々から思うていたが、なぜ某を昇進させようとする動きがあるのだ、ワシに好意があって動こうとしているとは思えぬが・・・・」
今まで煩わしさで今まで気に留めなかったが、再三に渡ってワシの昇進話がぶり返すのは何やら気味悪い。ワシは単刀直入にルナに問いだたすと、ルナは語り始めた
「御存じの通り、貴族の爵位は献金することで男爵位を得ることができます。しかし貴方は手柄を立てておきながら貴族の爵位を求めず、現在に至ります。貴族に憧れ、献金をした者にとって貴方は得体の知れない存在と見ています。」
「それは人それぞれであろう、ワシはワシ、他は他でござろう。」
「まあ、口に出すのも憚りますが、古参の貴族たちにとって献金で爵位を買った貴族に差別意識を持っています。表立って国のやり方を批判するつもりはありませんが、爵位を買った貴族を差別する傾向があります、差別を受ける貴族たちは貴方を昇進させる事で自分たちの側に引き入れようとしています。」
それを聞いてワシは納得した。ワシが仮になった事で、古参の公家【貴族】たちと対抗するための旗頭としてワシを立てるつもりで昇進話を引き出したのだろう
「だったら尚更、貴族になるつもりはござらぬな。」
「私どもとしても困っているのですよ、貴方は貴族になる気はない、それでも昇進話が消えない、私たちも困っているのです。」
「畏れながら陛下の御意向で鎮めれば良いのでは?」
「サコン殿の申される通り、陛下の御意向があれば鎮めることができますが・・・・」
「如何された、ルナ殿。」
ルナは再び、茶を飲み、一息つけた後、ワシを見据え、語り始めた
「あくまで私の考えですが、陛下はサコン殿を召し抱えたいと考えています。」




