112話:上布
島左近清興だ、ワシは今、【ガルバ町】周辺の土地に自生している物の着手を始めた
「左近様、【ガルバ町】周辺の藪苧麻を手に入れましたぞ!」
「あぁ、ワシらの領地になって、ようやく手に入れたわい。」
【ガルバ町】周辺の土地によく生える雑草地帯がある、それは藪苧麻の自生地帯である。藪苧麻は青芋と並ぶ麻織物の原料となる植物である
「まさに、もっけの幸いじゃな。」
「左様、織物が作れますな。」
話を遡れば、ワシが地主になる前、一介の武人だった頃、偶然見つけた雑草地帯、そう藪苧麻を見つけたあの時からである。地主にはなったはいいが、【ガルバ町】と周辺の土地はワシの領土ではなかったため、諦めたが何の因果か、ワシらの物になった。そう、花見に訪れたユリヤ大公殿下のお命を救い、下手人を捕縛した功績で【ガルバ町】とその周辺の土地を物にできたのである
「よし早速、着手するぞ。」
「はっ!」
ワシらは早速、藪苧麻を取り、織物作りに着手した。職人たちによって作られ、完成したのが【藪苧麻織物】である。【青芋織物】と並ぶ特産品が商人たちによって売られ、莫大な利益を齎した
「左近様、【藪苧麻織物】が売れてござる。」
「うむ、それは重畳。」
勿論、ただ刈り取るばかりではなく、青芋同様、藪苧麻の栽培を奨励しており、我が領土の収入源とした。それから数日後、ワシの下にあるシュバルツ王国の家紋が入った文箱が届いた。差出人はユリヤ・シュバルツ大公殿下である、【藪苧麻織物】に興味を抱いたらしく、献上品として届けよとの事である。ちなみに花見の日に献上した青芋上布が気に入ったらしく、供に献上せよとも書き記していた
「与一、青芋上布と藪苧麻上布の準備をせよ。」
「ははっ!」
ワシらは最高級の青芋&藪苧麻の上布を用意させ、箱に入れ、【ユリヤ・シュバルツ大公殿下献上の品】と大き目の木札に記入し、荷駄隊を結成させた。勿論、警備もつけてある
「しかとお届けせよ!」
ワシらは荷駄隊と共に、警備隊をその護衛につけさせた他、サスケを頭目とした【お庭方】を配置し、そのまま出発した。ワシらは道中、何事もなく無事に到着を願うだけである
「左近様、無事に到着できると良いですな。」
「ああ、こればかりは天に祈るのみだ。」
その頃、荷駄隊は何事もなく順調に進んでいる。山賊の類いはというと・・・・
「ぐはっ!」
「おい、にげ・・・」
「ぎゃあ!」
山賊たちは待ち伏せして荷駄隊を見つけたが、先に山賊たちを見つけたサスケらによって始末したのである。荷駄隊を警備している仲間に合図を送り、安全を確認した後、王都に向けて出発した。途中で町に泊まり、貸倉庫に預け、その町にて寝泊りした。明朝になり、一行は朝餉を取った後、出発した。最初は山賊らの妨害があったが、今回は山賊の類いが現れず、順調に進んだ。一行は新しく整備された道に進んだ。この道は王都への近道であり、半日で到着できるのである。一行はようやく王都に到着し、そのままユリヤ大公殿下の屋敷へ向かった。その道中、木札の影響なのか、周囲は荷駄隊を遠巻きに見続けた。一行はようやく大公殿下の屋敷に到着すると1人の騎士が荷駄隊に駆け寄った
「献上品である上布をお届けに参りました!」
「中を確かめる。」
「気をつけてください、最高級品ですので!」
騎士が丁寧に荷の蓋を開けると中に入っていたのは青芋と藪芋麻の上布が入っているのを確認した
「よし、中へ運べ。」
「はい!」
騎士たちの案内で荷物はそのまま運ばれた。屋敷のテラスにいたユリヤは荷駄隊が到着した事を執事長のソロモンのよって知った
「そうか、届いたか。」
「はい、青芋と藪芋麻の上布にございます。」
「うむ。」
荷駄隊は荷物を運び終えた後、王都で1泊した。荷が無事に届いた事を知らせるため【お庭方】は先に1人を島左近の下へ送った
「無事に届いたか。」
「はっ!」
「うむ御苦労、下がって休め。」
それから数日後、一行は無事に戻ってきた。【お庭方】は早速、ワシの下に報告をした
「無事に上布が届きました。」
「うむ、大儀であった!」
彼等に褒美に金貨を与え、下がらせた。それから一週間後、再びシュバルツ王国の家紋がついた文箱が届いた。封を切り、書状を広げると書き記していた内容は・・・・
【サコン・シマ準男爵へ】
「青芋と藪芋麻の上布の献上、大儀であった。早速、上着にして着てみたが、なかなか良かったぞ。花見の時に献上した青芋も良かったが、今回の藪芋麻も良かった。上着を作成した職人たちが繊維が強靭で美しいと褒めておった。それは置いといて、後で礼をするのでそれまでは待って。」
【ユリヤ・シュバルツより】
うむ、御礼の書状であったようだ。お気に召していただいて幸いであった。それから数日後、大公殿下の使者が当屋敷に参り、御礼の品々を持参した
「大公殿下よりの品々だ、有り難くお受けられよ。」
「ははっ!有り難き幸せ!」
屋敷に続々と運び込まれる御礼の品々、どれも高価な品ばかりだ、ワシらが最高級品の上布を献上した事で向こうも負けじと高級な品々を送ったのだろう
「スゴいですな、どれもこれも珍品ばかりですな。」
「貰えるものは物は天災や病や借金以外、貰っておこう。」
その頃、ユリヤは例の上着を着用し、御茶会に参加していた。相手は貴族の御夫人や令嬢ばかりである
「大公殿下にはご機嫌麗しゅう。」
「うむ。」
すると夫人や令嬢はユリヤの羽織っている美しい上着に目をつけた
「その上着はどうされたのですか?」
「何と美しいことでしょう。」
「あぁ、これか。これは献上品の上布で作ったものだ。」
ユリヤが上着をチラリチラリと捲るのを見た夫人と令嬢はユリヤの姿に見惚れていた。すると一人の夫人がある事を思い出した
「そういえば大公殿下献上の品と書かれた木札を掲げた荷駄の列を見かけましたわ!」
「殿下、畏れながらその上着に使われた上布はどこで?」
「ふふ、秘密だ。」
ユリヤ自身、悪い気はしなかったが、教えない事にした。もし教えたら夫人や令嬢たちに上布を奪われてしまうためである
「欲しいなら、自分で探すのだな。」
その日の御茶会はユリヤの羽織っていた上着が持ちきりであり、夫人や令嬢たちは、上着に使われた上布の出所を探ったところ、サコン・シマの領地で使われている青芋と藪芋麻と判明し、注文が相次いだ
「左近様、これは予想以上ですな。」
「ああ、全員がやんごとなき公家【貴族】の御簾中と姫君だからな。」
「左近様、青芋と藪芋麻の栽培するための畑を拡張した方が良さそうですな。」
「あぁ。」
ワシらは注文したやんごとなき御方に上布作り行うと共に、【ガルバ町】周辺の土地や【エメリカ山脈】畑を耕し、そこに青芋と藪芋麻の栽培を行った
「山地でも青芋や藪芋麻が育てられるのが良かったな。」
「左様ですな、だが当分は織物作りは中断ですな。」
「ああ、あまりにも消費しすぎた。」
商人たちにもその事を伝えた。皆は残念がっていたが、無くなるのは困るので、皆は納得した。また注文をしたやんごとなき御方にも事情を説明してくれるそうなので頼んでおくことにした。その頃、王都では【青芋織物】と【藪芋麻織物】の衣装を身にまとう貴族の夫人や令嬢がお茶会に参加しており、ちょっとしたブームになっていた。それを傍方見ていたユリヤは苦笑した
「あははは、これでは当分は買えないな。」
実は商人から例の上布の販売が中止になった事を知らされた。理由を聞くと貴族の夫人と令嬢が相次いで注文したと聞いて、嫌でも納得してしまう。まさに目の前に写る光景が物語っていたのだ
「はあ~、残念だ。」




