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111話:リチャード

島左近清興だ、リチャード・アルバイナ侯爵から昇進話を辞退した。リチャードも納得し、そのまま王都へと帰還したのである。見送ったワシは隣にいたアリーナに詫びを入れた


「すまなかった、アリーナ。お前にこのような話を持ち掛けてしまって・・・・」


「いいんですよ、私は後悔しておりません。旦那様と子供たちと平穏に暮らせれば私は幸せです。」


「ワシも同じ気持ちだ。」


ワシはアリーナと屋敷に戻りつつ、このまま何事もなく過ごせることを祈り続けた。その頃、リチャードを乗せた馬車は数日かけて、ようやく王都に到着し、そのまま王宮へと馬車を走らせた


「旦那様、王宮に到着致しました。」


「うむ。」


リチャードはそのまま国王の下へ向かうと、偶然にもそこへ国王ロバート・シュバルツと鉢合わせした。リチャードはすぐに臣下の礼を取った


「陛下に拝謁致します!」


「リチャード、帰ったのか?」


「畏れながら申し上げます、話は不首尾に終わりましてございます。」


「そうか御苦労、下がって良い。」


「ははっ!」


側にいた側近らは何の事だと首を傾げつつも、先に行くロバートを追いかけた。話を聞いたロバートは内心、やはりかと納得しつつ、安心していた。これで自分の下に島左近の昇進話が持ってくることはないだろうと・・・・


残されたリチャードはそのまま屋敷へ戻ろうとすると、そこへ1人の侍女が駆け寄ってきた


「侯爵様、ユリヤ大公殿下のお召しにございます。」


「大公殿下から?分かった。」


「では、こちらへ。」


侍女に案内され、向かったのは王宮のテラス、普段は御茶会に利用されている場所である。テラスに到着すると、そこへ茶を飲んでいるユリヤが座っていた。リチャードはすぐに臣下の礼を取った


「大公殿下に拝謁致します。」


「苦しゅうない。」


「ははっ!」


「ところでリチャード、サコン・シマの下へ向かったそうだが本当か?」


「はっ!」


「で、どうであった?」


「不首尾に終わりました。」


それを聞いたユリヤは何も言わずに茶を飲んだ。リチャードはユリヤ大公殿下の毒殺未遂事件を思い出した。そう大公殿下はサコン・シマの治める領土に花見を楽しんでおられた。そこへ大公殿下を快く思わないブルガリア元公爵が、大公の座をチャメル・シュバルツ元公爵に継がせるべく毒を盛ろうとしたがサコン・シマがそれを未然に防ぎ、大公殿下の命を救った。その後、ブルガリア元公爵は失踪し当初は事が露見して逃亡したかに思えたが、大公殿下が帰還した後に何故か、暴行され木に縛り付けた状態のブルガリア元公爵が捕縛され、そのまま絞首刑となった。チャメル・シュバルツ元公爵は自ら北の塔に入り、2度と俗世に戻らない事を誓い、現在も幽閉生活を送っている。大公殿下がサコン・シマに【下賜紋】を賜与するよう陛下を説得し、サコン・シマに【下賜紋】が賜与されたのである


「リチャード、お前が志願して彼の者を説得しようしたらしいが無駄な徒労であったな。」


「はっ。」


「私も1度だけあの男に会ったが、なかなか良き面構えであった。」


「左様にございますか。」


「あの者に妻がいなかったら、私の伴侶にしておったわ。」


「で、殿下!」


「ふふ、冗談だ。」


大公殿下の冗談は本当に笑えない。大公殿下は選り好みが激しく、三十路になっても結婚できないのも、それが理由なんじゃないかと勘繰ってしまう


「リチャード、無礼な事を考えなかったか?」


「滅相もございません。」


「・・・・そういう事にしておいてやる。」


「はっ!」


「用はそれだけだ、下がって良い。」


「ははっ!」


大公殿下の許しを得た後、リチャードはテラスを去り、自分の屋敷へ戻ろうしたら、そこへロミオ第2王子の側近が駆け寄ってきた


「リチャード侯爵、ロミオ第2王子のお召しにございます。」


「・・・・分かった。」


側近に案内され、ロミオ第2王子のおられる部屋に入ると、ロミオ第2王子が待っていた


「リチャード侯爵、よう来てくれた。」


「殿下に拝謁致します。」


「そなたがサコン・シマに昇進話を持ち掛けたと聞いたが本当か?」


「はっ!残念ながら不首尾に終わりました。」


「そうか・・・・やはりな。」


ロミオ第2王子はかつてサコン・シマの領地に視察しようとしたが、あまりにも準備不足と日程が早まった事で、父であるロバートから叱責され、一時は廃嫡寸前にまで追い詰められたが、王太子の座は剥奪しつつも第2王子の座は守られた。その後、不可解な事が起きた。ロバートがサコン・シマに領地を与えたことだ。理由を尋ねると、息子の不始末の詫びだと言ったが、それなら弁償をしただけでも十分なのに、土地を与える等、誰もが不可解に思ったが、もしサコン・シマが関わっていたら・・・・


「リチャード、僕はこうして第2王子として生きている。廃嫡の声もチラついた。僕もいずれ兄上同様、廃嫡されるのではないかと覚悟した。でも父上は僕を廃嫡しなかった、それを聞いて僕は安心した。だが分からないことがあった、サコン・シマに領地を与えた事だ、その理由を聞いたけど、自分で考えろとお叱りを受けた。後で考えに考えた、もしかしたら父上が僕の廃嫡を思いとどまらせてくれたのはサコン・シマの口添えがあったんじゃないのかと想ったんだ、あくまで僕の予想だけどな。」


ロミオ第2王子の申された事に不思議と納得する自分がいた。陛下はサコン・シマに相談した可能性がある。第3者で利権と関わりのないサコン・シマに公正な立場で意見が言えるため相談をしたのだろう。家臣や貴族たちはそれぞれの思惑や欲得があるから相談もできないからな・・・・


「もしそれが本当であれば殿下は如何いたすので?」


「彼の者は貴族に興味がない、だからこそ別の褒美をやるしかあるまいて。」


「左様にございますか。」


「話はそれだけだ、下がって良い。」


「ははっ!」


リチャードは部屋を退出し、そのまま自分の屋敷へ戻ろうとすると噂を聞きつけたのか貴族らに質問攻めされ、ようやく屋敷へ戻った時には夕方になっていた


「はぁ~、今日は一段と疲れた。」


自分の部屋に辿り着いた瞬間、崩れ落ち一息ついたのである。仮にも侯爵でありながら、こんな姿を使用人たちの目についたら、恥でしかない


「貴族の目線でしか物事を見ていない・・・・か。」


リチャードはアリーナの言ったことを思い出した。彼女は没落して娼婦となり、世の中の辛酸を舐めたからこそ言える言葉であり、胸にズシーンと響いた


「私の方が世間知らずであったな。」


アルバイナ侯爵家に生まれ、貴族としての礼儀と教養を身につけ、王宮に出仕し、権謀術数の中で生きて、世間を知った思っていたが、アリーナから見れば、それは貴族社会のみの世界で、実際の平民の暮らしは、それ以上に大変なのだと聞かされた。同時に貴族だけが幸せではないと答えるアリーナに私は何も言えず説得を諦めたが、不思議とスッキリとしている


「もし私もアリーナと同じ立場に陥っていたら、私には同じ生き方はできないな。」


平民堕ちした貴族、特に上級貴族は人に平民に頭を下げること自体が屈辱であり、また今までの生活を抜け出すことができず、ましてや家事なんて出来るわけがない。更に貴族を快く思わない者が平民堕ちした貴族を白い目で見て、後ろ指を指されながら生活をしていくことは耐えきれずに自殺した元貴族もいる。そんな中でアリーナが無事に生活できていたことが奇跡としか言いようがない


「私も気を付けねばな。まずは結婚相手を探さないとな。」


その後、リチャード・アルバイナはとある貴族の家の令嬢と結婚し、子供を儲けた。リチャードは教育熱心な教育パパとなり、多忙の中、子供たちを育て、アルバイナ侯爵家を存続させる事に成功したのである






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