110話:昇進再び
島左近清興だ、【ガルバ町】と周辺の土地を支配下に収めた事で様々な品物が【サコン町】にも流通が可能になり、更なる繁栄を見せている
「左近様、町は繁栄しておりまするな。」
「あぁ。」
「何か気掛かりでも・・・・」
「あぁ、ルナの申した事を思い出しておった。」
「昇進の話にございますか?」
「あぁ、ワシとしては今のままで良い。だが向こうはそうは思っていないだろう。」
ワシは公家【貴族】にはなりとうはない。だが向こうは何時までも、そう受け取っては貰えない。仮になったとしても国王の寵愛によって他の者から妬み嫉みを生むことがある。かつて太閤殿下【豊臣秀吉】と我が殿【石田三成】が己の才覚のみで出世したことで戦場での槍働きをする者たちの妬み嫉みを買ってしまった。ましてや我が殿は太閤殿下第一の寵臣としてよく陰口を叩かれていたからな、「出る杭は打たれる」とはまさにこの事だ・・・・
「全く辛いものよ。放っておいて欲しいのに世間が放っておかん、ワシとしてはいい加減にして貰いたいものだ。」
「左近様、恐らく向こうも同じことを考えていると思いますよ。」
「それもそうだな、これでは意地と意地のぶつかり合いじゃな。」
その頃、王都では国王ロバート・シュバルツはある嘆願書を眺め、頭を痛めていた
「またか、はぁ~。」
嘆願書の内容は信賞必罰の是正だった。内容には「功績ある者を昇進させないのは如何なものか」というのがメインで書き記している。ワシは側に控えるルナ・キサラギに命じた
「ルナ。」
「はっ!」
「現段階で仕事で手柄を上げた者を調べよ。」
「ははっ!」
「ただしサコン・シマは除外せよ。」
「はっ。」
ロバート・シュバルツは取り敢えず、現段階で仕事で優秀な成績を収めた者に対し、褒美を与え、出世させたが納得していない者がいた
「何用だ?リチャード。」
「申し訳ございません、陛下。突然、押し掛けるような真似をして・・・・」
執務室に押し掛けてきたのはリチャード・アルバイナ侯爵である。リチャードはある人物の名前がないことを理由に直訴に及んだ
「畏れながら申し上げます。何故、サコン・シマの名が入っていないのか理由をお聞かせください。」
それを聞いた眉を潜めた。わざとサコン・シマの名を外したというのに・・・・
「奴には然るべき褒賞を与えている。」
「ええ、シュバルツ王国にとっては異例中の異例ですが・・・・」
「リチャード、何が言いたい。」
「はっ!ご無礼を承知で申し上げます、我が国における信賞必罰の仕組みが崩れかけております。本来であれば貴族になることは名誉な事、それを辞退する事自体が前代未聞にございます。」
リチャードの言いたい事は分かる。貴族の爵位は平民にとって喉から手が出るほど欲しがるもの、献金によって豪農や豪商等が貴族になることも珍しくない。だがその中で例外も存在する。そうサコン・シマである。奴は国に貢献するほどの功績を上げながら、貴族に興味がなく、爵位を辞退をし続けた。貴族に憧れる者にとっては良くも悪くも全く異質な存在である
「中には例外も存在する。今さら蒸し返さなくても・・・・」
「陛下、彼の者はジュリアス王国から【準男爵】の爵位を賜った事、よもやお忘れになりましたか!ジュリアス王国は彼の者を自分たちの陣営に取り込もうと懐柔しております!」
「もし懐柔されておるなら、とっくにこの国にはおらぬわ。」
「彼の者の治める領土の広さ、そして豊富な財力は【子爵】を超えており、私の見立てによると【伯爵】に相当します!」
ユリヤと同じ答えを出すリチャードに内心、優秀であると共に利口過ぎて小賢しい印象を与える。サコン・シマのように慎ましくやれないのかと文句も言いたくなるが、あえて言わないようにした
「リチャードよ、人それぞれ生き方や志というものがある、爵位の誘惑に惑わされない者もおる。貴族でなくても国に貢献する者もおるのだ、それで良いではないか。」
「畏れながら陛下、彼の者が【下賜紋】を賜った事は貴族たちの間で話題になっております。本来であれば平民が【下賜紋】を賜る事は前代未聞の珍事にございます。貴族たちにとって【下賜紋】は大変名誉な事にございます!それが平民に賜与された事でより彼の者の見る目も変わります!」
「どのように変わったのだ?」
「はっ!最初は彼の者に妬み嫉みを抱く者が大半にございましたが、今では我が国だけではなく、ジュリアス王国から【準男爵】を賜った事、そして今回の【下賜紋】によって彼の者は両国を動かす重要人物として見ております。」
それを聞いた私は意外だと思った。妬み嫉みは世の常であり、サコン・シマもその対象に移っていたが、時が経つにつれて、隠然たる影響力を持つほどの実力者として見るようになったとは・・・・
「随分と持ち上げたな。」
「はっ!皆は表立って称賛はしないものの、彼の者の実力を少なからず認めております。」
「だからと言って彼の者が貴族の地位に興味を持たねば、全く意味がないことだ。サコン・シマは出る杭を打たれる事を熟知しておる。それ故、御しにくいのだ。」
「畏れながら陛下、私をサコン・シマの下へ遣わしてください、私が説得にあたります。」
「無駄だ、ルナも何度も誘ったが、巨岩大木のように強固だぞ。」
「私が必ずや説き伏せます!」
私は無駄だと知りつつも、リチャードを行かせる事にした。ほんの僅かな希望もあるかもしれないと期待もあるが・・・・
「やはり期待しないでおこう。」
リチャードの乗る馬車が王都を出発し、数日かけて島左近の治める領土に到着した。その様子を見ていたサスケは早速、主である島左近に報告をした
「そうか。」
「左近様、ここが正念場ですな。」
「あぁ。」
実は王都にも【お庭方】を派遣し調べた結果、ワシの昇進話で再燃したのである。ワシとしてはありがた迷惑なのだが、なるべく当たり障りのないようにせねばなるまい、するとそこへ庭の掃除をしていた使用人等が駆け込んできた
「旦那様、一台の馬車が屋敷に近づいております!」
「そうか、さて出迎えるとするか。」
既に準備を済ませ、ワシは玄関へと向かい、客人を出迎えることにした。一台の馬車が屋敷の前に止まった。ワシは出迎える準備をすると、馬車の中からリチャード・アルバイナ侯爵が出てきた
「これは侯爵閣下、わざわざのお越し、サコン・シマ、心より歓迎致します。」
「うむ、サコン殿、大事な話があるが良いか?」
「分かりました、では客間へ御案内致しまする。」
ワシはリチャードを客間へ通した後、茶と茶菓子を用意させた。使用人を下がると同時にリチャードが来たことを知ったアリーナが入室してきた
「リチャード様、遠いところをお越しいただき、ありがとうございます。」
「アリーナも元気そうで安心した。君にとっても大事な話があるんだが、良いか?」
アリーナがワシの方を向いた。アリーナにとっても大事な話なら同席させることにした
「侯爵閣下のお言葉に従おうではないか。」
「はい。」
先にリチャードを長椅子に座らせた後、ワシとアリーナは一緒に長椅子に後から座った
「さて単刀直入に言おう。サコン殿、貴族にならないか?」
やはり昇進の話が来たか、隣にいたアリーナも驚いていた。アリーナ自身、貴族に返り咲きたくないかというとそうではない。彼女自身、貴族としての窮屈な生活、そして没落した後の生活を知っているため戻りたいとは思わないだろうが、やはりアリーナにも動いて貰う他、あるまいな
「侯爵閣下、某の答えは変わりませぬが、アリーナは分かりませぬ。まずはアリーナに聞いてくだされ。」
ワシがそう言うとアリーナはワシの方を向いた
「アリーナ、ワシに遠慮する必要はない。思いのままを申し上げよ。」
ワシはアリーナにそう言うと、リチャードは今度、アリーナの方を向き、質問した
「アリーナはどうだ。もう1度、貴族の生活に戻りたいとは思わないか?」
アリーナは少し考えてた後、リチャードの方を向き、答えた
「リチャード様、私は今のままで十分です。貴族に再びなろうとは思いません。」
アリーナの口から貴族にならないと発言した事にリチャードは驚き、問い質した
「何故だ、貴族に返り咲けば元の暮らしに戻れるのかも知れないのだぞ。」
アリーナを説得するリチャードに、アリーナは淡々と答えた
「リチャード様、私にとって貴族の窮屈そのものでした。それに没落した後、私は娼館に拾われ、娼婦になりました。旦那様に出会わなければ、きっと私は沢山の殿方に抱かれる人生を歩んでいたかもしれません。」
「だが・・・・」
「リチャード様、失礼を承知で申し上げますが、貴方は貴族の目線でしか物事を見ておりません、私は没落し、平民として様々な経験を致しました。貴族の生まれた事が幸せとは限りませぬ、私は今が一番、幸せです、リチャード様、どうかそっとしておいて下さい。」
アリーナの決意にリチャードは呆気に取られた。島左近だけではなくアリーナも貴族になりたくないと断言したのだ・・・・
「そうか、分かった。君がそういうなら、この話はなかったことにしよう。アリーナ、後悔はないのだな?」
「ええ。」
「そうか・・・・サコン殿、私の余計なお節介であった、申し訳ない。」
「いいえ、某も侯爵閣下の御厚意を無下にしてしまい、申し訳ございません。」
こうしてワシの昇進話は幕を閉じたのであった




