2日後③
「安心しろ、ハルキは俺ん家でぐっすりご就寝中だ」
カーヤは部屋に入るなりそう言った。
必死に紙に書き込んでいたその腕がほんの少し止まったが、その言葉のあとさらにスピードを上げたのを確認して、ニヤリと笑った。
「勝手にやってるぞ」
カーヤはそう言うと、戸棚からいつもの茶葉を取り出し紅茶を入れた。
カーヤが紅茶を飲みながらじっと見ていると、やがてトーヤがペンを置き、満足そうにウンウン、と頷いた。
「相変わらず見事なもんだな」
目の前に広がるソレにカーヤは感嘆の声をあげた。
「ま、本物には劣るけどな」
そう言いながら、トーヤはカーヤが入れた紅茶に口をつけた。
「ん、相変わらず兄さんがいれた紅茶は美味い!」
いつも通り砂糖とミルクが入れられた紅茶にトーヤは満足そうに頷いた。
「で、これがその」
カーヤがトーヤの書いたそれを見ながら目を細めた。
「そ、見せられた写真を再現してみた!」
トーヤは得意そうにそう言った後、幾分悔しそうに呟いた。
「あんな夜遅くじゃなかったらもっと完璧に再現できたんだが…くそっ、眠気には勝てなかったっ!」
「どこがダメなんだ?」
カーヤの目には完璧に見えるそれを見ながら不思議そうに首を傾げた。
「テーブルの上だよ!一眠りしたら曖昧になっちまった!」
悔しそうなトーヤの頭をカーヤはガシガシと撫でた。
「ということは、人物は間違いないんだな?」
「おうっ!」
トーヤの返答にカーヤは満面の笑みを浮かべた。
「で、どれがマエカなんだ?」
実物がそこにいるかのように描きだされた色鮮やかな紙を見ながらカーヤが尋ねると、トーヤは1人の人物を指差した。
「綺麗な人だな」
カーヤは素直にそう思った。
「で、ハルキとお前はここに写っていたんだな」
2人の距離は離れている。他にも人はいる。そして、2人とマエカも離れてはいるが…。その写真の再現からは同じグループとしか思えない。
「お前も覚えていないんだよな?」
「あぁ」
そんなことがあるだろうか。
それに、なぜ、ハルキだったのか。
「とりあえず、コレ、貰っていくぞ。お疲れさん、お前は早く寝ろよ」
おそらく睡眠時間を削って描いたであろうトーヤにそう声をかけると、案の定トーヤは大きな欠伸をしていた。
「はぁ、それにしてもあの写真、欲しかったなぁ」
カーヤはトーヤのあくびの合間に漏れ出た呟きは聞こえなかったことにしてドアを出た。