5時間後
はぁ。
ハルキは大きくため息をついた。
日付が変わってしばらくしてようやく解放されたが、家には帰れなかった。
なんとなくそんな気はしてはいたけど。
一体なんだっていうんだ。
「マエカとの関係は?」
「マエカをなぜ殺した?」
その繰り返し。
他に聞くこととかないの、と思った。
いや、言葉は色々変わってはいた。だが、結果として内容は主にその2つだった。
殺してなんか、もちろんいないし。
マエカさん(?)との関係?
こっちが教えて欲しいよ。
「なんでこんなことになっているんだろう」
押し込められた薄暗い狭い空間でハルキはそう呟いたが、当然、応える声はない。
小さな灯りと肌触りの悪そうな寝具が置かれた硬そうなベッド。あるのは、それだけ。自宅の部屋も簡素なものだが、それでもここよりもましだ。
それに…。
三方を壁に囲まれ、残り一方は鉄格子。
「…牢屋だよね…」
カツン、カツンと見回りの足音が響き、時折ハルキの前で足を止めジロリと無言で見て去っていく。
一体僕が何をしたっていうんだろう。
全く見に覚えがないことでこんな目に合うなんて。
そりゃ、胸張れるような生き方をしてるかと言われたら、自信はないけれど。
「人なんて…殺せるわけないじゃないか」
そう呟いても、応える声はない。
ない、と思ったが、どこかから「そうだよな」と聞こえた気がした。
知り合いの声のような気がしたが、聞こえたのはそれっきり。
多分、たまたまタイミングよく他の部屋に入っている人の声が聞こえてきたんだろう。
シン、と静まり返って、時折聞こえてくる足音以外、ほとんど物音がしないが、他にもいるんだろう。
「おんなじ仲間かも…」
なんでこんなことになっているか分からなくて当惑している仲間かもしれない。
なんて思って声をかけたい気もするが、本当に悪いことをした人かもしれない。声をかける勇気は出なかった。
「なんであんなに僕が犯人って決めつけているんだろう」
知りたい。
どうしたら教えてくれるだろう。
あの強面の、人の話を全く聞く気がなさそうな男の姿を思い出して、ハルキは苦い顔になった。
なかなか進まない話に痺れを切らして、なのか、ただ単に時間切れなのかは分からなかったが、ようやく解放された時、何と言われたか。
覚えてはいない。
なんか、すごく不快な言葉だった気がする。
はぁ、明日の朝に解放されないかな。
まぁ、間違いなく、明日も…。
落ち着いて寝られるわけがない。
そう思っていたが、ハルキはいつのまにか夢の中にいた。
「呑気なもんだな」
呆れたような声が静まり返った空間に微かに響いた。