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エレムリアスの世界

出ズル神ノ崩壊譚

作者: プレワイト・コクア

これはある世界にて語られる本の一部、それはその世界の真実に触れるかもしれないし、触れないかもしれない。しかし一つだけ言えるとしたら、ただ祈りを込めて、そのものの幸せを願い、いつか届くと信じて、旅人に思いを託した。苦しむ彼女を見ていることしかできないから、誰かがいつか、助けてくれることを信じて…遠い未来へ、遠い遠い未来へ…思いを託した。そして旅人はその思いを本にした。

 これから流れる文章は、誰も知らない物語。

 それは、彼女を愛したモノの叫び。

 それに意思があるとは誰もが思わず、また語られる彼女ですらも知らない。



 ただただ、風のごとく流れてゆくのみの物語…。


 それは、世界が記した物語。


 それは、世界が記憶した物語。


 それは、彼女の幸せを願う物語。



 その話、わたしが拾ってあげる…だから、泣かないで…すべてが終わったその時に、あなたの心が幸せであるように、私が必ず彼女に届けてあげる。




 あぁ、あぁ…あの子に、幸を…。あなたに、記憶を…。


 これから語る話は…彼女へ、私が祈る、彼女のはなしだ…。


 あなたが聞いて…あなたが、届けてほしい…。有り得ざる物語の介入者よ…世界の端を越えし旅人よ…。



 うん、必ず届けるよ…エレムリアス…多くの人に、そして、あなたの祈りを彼女に…。




「あの子の名前はエレイン…私の大切な子の一人…今なお苦しみ続けている。」


 エレムリアスは悲しみの重みを感じさせる、消え入りそうな紡いだ音でそう始めた。


「あの子は、使命を与えられ、それをただ守ることのみが存在意義として生まれた。」


「あの子はそのことのみによって生まれた、その為たった一人、あの場で使命を守るために留まり続けた。故に孤独にあった、それは彼女の望むところでもありなんの苦もなかった。」


「しかし使命は彼女を運命へと駆り立てた。とどまり続け平穏に何事もなくこの世の永遠を見守り続けるわけにはいかないのだ。」




「あの子と最初に出会った者は、心優しき緑の髪の青年だった。」


「穢れを知らず、ただ人の世のためにその身を削ることを厭わない無垢な心を持った男であった。」



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 湖でいつものように皆《マナや精霊》と話していると、木々の陰から誰かがいるのが見えた。


 そっと木々の後ろに隠れた。陰から覗くと緑色の髪の男が湖の側へやってきて、木を背にして座り込んだ。どうやら休憩をしているようだ。


 男は何やら話をしている、誰か…?いや、あの男も姿なきマナの子、小精霊と話ができるのか…?


 精霊と会話ができる存在は稀だ。


 今まで人間で精霊を知覚する人間は数えるほど、それでも姿を見て、会話まで交わせる存在は初めて見た。


 楽し気に話すその声色を聞いていると、どんな話をしているのか気になって、気が付かないうちに男のそばに寄っていた…。




 ガサッ



「んっ誰かいるのかい」


 気付かれてしまった!


 奥へ逃げて隠れることもできたのだけど、もし私を追いかけて奥へ来られたら…大切な剣が見つかってしまう…見つかったからと言ってそうそう持って帰れるようなものではないが、噂になってしまうと困る…。


 だから、仕方なく姿を見せた…。


「君は……もしかして精霊かい…?」


 偽ってもこの男にはすぐにわかってしまうだろう、だから嘘偽りなく告げた


「そう、わたしは…この森の精霊…エレイン。森のみんなと話をしていたらあなたの姿が見えたから、ちょっと気になって見に来た。悪いやつだったら追い払おうと思って。」


「あっはは!勇ましい精霊だね!じゃぁ僕は追い祓われちゃうのかな…?」


 わかっていながら、敢えてそう口にするあたりが私は少し気に入らなかったけど、別に隠すことでもないし。


「いいえ?追い払ったりしないわ、あなたは悪いやつではないもの。」


「へぇ…根拠があるのかい?雰囲気や話し方で判別してるんだとしたら、危ないからやめたほうがいいよ」


 彼は蝶を指に乗せて、その子に視線を向けながら言う。


「そういうので判断したわけじゃないわ、悪いやつからは邪気が滲んでいるから私たち精霊はすぐに気がつくってだけの話よ。」


「邪気か…なるほど、だから悪いやつが来たらみんないち早く反応するのか……隠そうと思って隠せるものじゃないし、それなら安心だ。」


 顎に手をあてて考えている男を横目に、小鳥を手のひらに呼び愛でていると。


「君、エレインって言ったよね…僕の知っている精霊は名前がないのが大半なんだけど…どうして君には名前があるんだい?」


 手のひらに乗せた小鳥を飛ばして、至極当然のように精霊の私にそう質問する男に少し辟易しながらも、それぐらいなら答えてもいいか、と軽く説明する。


「私には使命があるの、その為に私を呼ぶものがいたらスグに応えられるじゃない?だから女神に名前を付けてもらったのよ。呼びやすいようにね」


 腕を組み、男と目を合わせないようにぷいっと右へと首を振り、黄金色の葉を付けた木をみやりながら答えると、先ほど飛ばした小鳥が群れで集まっているのが見えた。



「使命かぁ…僕には縁遠い言葉だなぁ。うーん、じゃあ君の使命は、この森に入った不届きものを追い払う!とかになるのかい?」


 男は薪の材料である木の枝を持ち、何かを追い払うような仕草をしてから、こちらを振り返ってそう聞いてきた。


「はぁ、それもあるけど、わたしの使命はそんなんじゃないわ、そういうのだったら他の小精霊達でも少しはできるもの」


 ずけずけとわたしのことについて聞いてくるその男と、その物言いでやっぱりこいつ苦手だわ…と思いながらも今更ながらに疑問を投げ掛ける


「そういえばまだあんたの名前、聞いてなかった…別に興味は無いけど話しにくいから教えなさい」


「おっと、まだ名乗ってなかったね…僕はリーン。リーン・ミリアムルーフ」


「そこの…村に住んでいるんだ」


 彼は木々で見えないが、村があるであろう方向を指差しながら彼女に微笑みかけた。




「ふぅん、そうなんだ。リーン、ね」


 名前は聞いたし、悪いやつじゃないし、あとはもういいや。もう満足したから帰ろう。踵を返して湖のほうを向く。


「エレイン、もうどこか行くんだね、それじゃあ僕も、村に戻るよ。元気で」


 指に乗せていた蝶を空へと返して、リーンは立ち上がる。


 後ろを向いた私に声をかけると、村の方を向いた足音が聞こえる。


 リーンが歩きだす前にわたしは振り返る。何故だかまた会える気がして、あるいはまた会いたかったのかもしれない。わたしは最後にこう言った。


「次に会えたら、わたしの使命、少し話してあげる」


 リーンは振り返ると、

「次に会えるのを、楽しみにしているよ」


 とてもいい笑顔でそういうと、再び村の方を向いて、歩き始めた。

 わたしも、彼が数歩進んでから湖のほうを向いた。

 なんとなく上を見上げて、黄金色に変わってきていた空を眺める。


 僅かな間そうしてから、わたしは湖のほうに歩きだした

















続きは、気が付いたらどこかにあるかもしれない。

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