エンカウント。あるいは回想 その2
薄暗い空の下、傘をさして街を歩く。目的地のない散歩、僕の日課だ。
こうして女装をして街を歩くと、自分が周囲から女の子だと思われていると思えて、なんとなく安心する。その瞬間、心だけは完璧に女の子になれているような気がするから。
ぶらぶらと歩いていると駅前まで来た。駅前は雨だというのに人でごった返していて、ガヤガヤとしていた。
少し離れよう。そう思い、駅前の大通りから路地裏に入ろうとした時だった。
路地裏の奥から悲鳴が聞こえた。
「何だ⁉︎ 」
慌てて辺りを見渡す。しかし、自分の他には誰もその悲鳴に気づいている様子がない。明らかに異常だ。しかし。
僕は悲鳴のした方に駆け出した。何か考えた訳ではない。ただ体が動いてしまったんだ。関わらない方がおそらく……いや、絶対にいい。そう分かっていながらも。
「⁉︎ 」
僕は立ち止まった。そこには終点があったのだ。
ビルとビルの境の迷路、その無機質なコンクリートの床に赤い何かが飛び散っている。当然、血だ。
沸き立つ鉄の香りが嫌でも鼻につき、吐き気を催す。
しかし、そこには血しか無かった。内臓が転がっていたりはしないし、死体が倒れている訳でもない。
それならこの血は何処から……
ブワッ!空気が震え、次の瞬間頭に衝撃が走る。僕はその衝撃に耐えきれず気絶してしまう。朦朧として意識の中僕が最後に見たのは、小さなイルカだった。