夢中 小学生編
開いてくれてありがとうございます。
白い機体はゲーム開始時に即座に横にそれたが、赤い機体はスピアを放つことはなかった。
「なんだ、今回は突撃してこなかったぞ」
前回の戦いでは五十嵐の機体は隼人の機体の目に槍を放ったが、今回はゲームが始まってすぐに端五十嵐の機体は動かなかった。
「来ないならこっちから行かせてもらうぜ」
白い機体は構えていたロングソードを赤の機体の右腕をめがけて縦に切り込もうとしたがスピアを横に構え十字にガードした。前回と同じ機体ならかわすことができる攻撃をわざわざ槍でガードしたのだ。
隼人はそこで気づいた。赤の機体に羽がついていないことに。何か作戦があるのかと疑いながら隼人は攻めを続けた。白い機体はスピアの範囲の中に入り、赤の機体には反撃の余地がなくロングソードの払いが赤の機体の中心に当たった。弾き飛ばされた赤い機体は槍で突撃するがスピードが出なくそのまま槍はかわされ、ロングソードの真向切りが入った。
「なんで!」
You winと隼人のコックピットの画面に映った。隼人はゲームを続けることはなく、メモリーカードを引き抜きコックピットから荒々しく出た。
「どうして手を抜いた!俺は五十嵐に勝ちたかった!けどこんなのないぜ!」
コックピットから出てきた五十嵐に隼人は激怒した。自分とやりあえる相手、そして何よりこんな薄暗い子供がいない場所で同じ趣味である同志と出会えたと思っていたが、そう思っていたのは自分だけだということになにかぶつけようのない怒りが湧いた。
「ごめんなさい。私、友達いないからわからなかった」
隼人は五十嵐の思いがけない返答に動揺した。数秒の沈黙が続いた。
そして。
「あーもう!こっち来い!」
「え?!」
隼人は勢いで五十嵐の手を引いた。そして、場所を移動し、よくあるゾンビを撃って進んでいくという協力プレイのシューティングゲームに200円を入れた。
「ほら」
戸惑う五十嵐に隼人はコントローラーを押し付けた。五十嵐はゲーム画面と隼人の顔を繰り返し見ていまだに戸惑っていた。画面には襲い来るゾンビに抵抗する隼人の銃の標準が映っていた。
「どうした?早く打ってくれ!めっちゃゾンビ来てるから!」
動揺しつつも五十嵐はコントローラーを構えてゾンビを次から次へと打ちまくる。そしてファーストステージが終った。
「やるじゃん」
隼人は笑顔を五十嵐に向けて言った。五十嵐は言葉を返そうとするが次のステージが始まり言葉を返す暇がなくゾンビが次から次へと襲ってきた。そして、最終ステージへと進み、コントローラーを構え、画面を見ながら隼人がまた五十嵐に話をかけた。
「いいんだよ。こういう時は何も考えなくて。俺がお前とゲームをしたいんだ。遠慮もいらねえよ」
(何年ぶりだろう。こんなに楽しいと思ったのは)
五十嵐は感情に身を任せ、ゲームに夢中になっていった。
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隼人はゲームが終ると再び五十嵐の手を取り、ほかのゲームへと五十嵐を連れて行った。そこではゲームに夢中になって、隼人に八つ当たりする五十嵐や声を荒げる隼人の姿があった。
18時過ぎとなり、外はオレンジ色に染まっていた。隼人たちはゲームセンターを出口にいた。
「今日は楽しかったか?」
帰り際に隼人は立ち止まりに言った。はしゃいでいる姿を見せてしまった五十嵐は少し恥ずかしそうに返答した。
「うん。楽しかった」
「そっか、ならよかった。俺も楽しかったし。これでもう友達がいないなんてことはないな」
五十嵐は鼓動が早くなり胸が締め付けられ、感情がこみ上げられ泣きそうになった。
「どうした五十嵐!?あ、俺が手を握ったことが嫌だった!?ごめん!勢いだったから!」
「ちが、違うの!胸が痛くて」
「大丈夫か!?病気か!?」
「大丈夫!そうじゃないから!」
気持ちが落ち着いた五十嵐は隼人に言った。
「ありがとう」
少し目に涙がたまっていたが笑顔の表情だった。そんな五十嵐の顔を見て隼人の胸にも少しばかりか痛みが走った。
「おう」
痛みの理由はわからなかったが気にせず隼人は笑顔で返答をした。そして少し気まずい沈黙が続いた。
「五十嵐ってよく殴るよね」
五十嵐の顔が赤くなり、五十嵐のこぶしが素早く隼人の顔に飛んで行った。
「バカ!あと、凛でいいよ」
殴られながらも隼人は五十嵐との初めての戦いを思い出し笑った。
「なんで笑ってるの」
「いいや、初めての時を思い出しただけだよ」
「またからかうの?」
「違うって!ごめんって!」
振り上げられるこぶしに隼人は即座に否定した。
(まぁ本当に違うんだけどね。たぶん五十嵐は名前からかわれた時だと思ってるな…)
立ち上がった隼人は、再び帰り道を歩き出した。
「これからよろしくな、凛」
「うんよろしく、隼人」