きみとはなしができたなら『優しいひと』
優しいひと
「お電話ありがとうございます。Jツアーズの佐藤でございます」
「あ、すみません、ちょっと訊きたいことがあるんだけど」
「どのようなご用件でしたでしょうか」
「昨日オンラインで旅行の予約を入れたんだけど、予約完了のメールが全然こないみたいだから。ちゃんと予約できているか心配になってね」
「それは大変、ご迷惑とご心配をお掛けしまして、申し訳ありませんでした。確認致しますので、お客様のお名前を宜しいでしょうか」
「そっか、あの画面じゃ予約完了にはならないんだね。僕の失態だ。確認して良かったよ。助かった」
「それではツアーBのご予約を完了させていただきました。ツアーの詳細とスケジュールを教えていただきましたメールアドレスに送らせていただきますね」
「初めての出張でヘマするところだった。ありがとう」
「さようでございましたか。それでは空港の館内地図や現地のグルメガイドも併せてお送りいたします」
「本当に助かったよ。この歳になって初めての出張だなんてねえ。スマホだって使いこなせてないってのに、嫌になっちゃうよ」
「それは大変でございますね」
「詳しいことは自分で調べろって、僕の会社、冷たいよね」
「ふふふ、そうですねと言ってもよろしいのでしょうか」
「良いんだよ。だって、取引先の会社名しか教えてくれないんだからね」
「ネットでなんでも調べられるからなのでしょうか」
「だね。それにしても、初めての取引先への訪問で遅刻なんてしたら、それこそ会社をクビになっちゃうからね」
「それはいけません。お泊まりのホテルからお取引先のお相手様への交通手段も、ご確認くださいね」
「あはは、寝坊しないようにしなきゃ」
「目覚ましが必要ですね。どうぞお気をつけください」
「君、優しい声してるから、すごく安心感があるよ。また出張があったら、このツアー利用するね」
「ありがとうございます」
「ご本人も、きっと優しい人なんだろうなあ」
「ふふ、お客様に安心していただけるようご案内するのが私の仕事ですから。ですが、そう仰っていただけて嬉しいです」
「そっか、そうだよね。でも絶対、優しい人だ。間違いない」
「ありがとうございます」
「じゃあ、名残惜しいけどもう切らなきゃ。君と話せて良かったよ。親切に対応してくれて、ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」
「うん、じゃあね」
予約ができていない、電話がつながらない、対応が悪いって、そうやって怒鳴り散らしてくる人の中で、あなたこそが優しいひと。
ありがとうございます。
あなたと、話せて良かったのは、私の方です。
そう伝えることができたなら。