生きる意味
何事にも意味を求める。たとえそれが生きるということに対してでも。
胸のあたりにある漠然とした黒のお話です。
生きる意味とは何か‐
花田良人 1
高校三年生の春、授業を聞き流しながら俺は呆然と窓の外を眺めている。教室の中に軟禁されているこの状況はなんとも窮屈で退屈だ。廊下からなにやら不自然な物音が聞こえた。目線を向けると隣のクラスの香月裕也がこちらに向かって揃えた人差し指と中指を口元につけたり離したりしている。「先生、トイレ」。俺は通学リュックから取り出したモノを周りにばれないように慣れた手付きでスムーズにポケットの中にしまって廊下に出た。活動を行っていない存在しているだけの本校のバレー部の部室は不良生徒たちの喫煙所と化していた。授業を抜け出した俺と裕也は周りを軽く警戒しながら鍵がイカれた窓からバレー部の部室に侵入した。「良人聞いてくれよ、板屋のヤローうぜんだよ。他の奴らには甘いくせして俺にはすぐ文句言ってくる」科学担当の変わり者の先生の愚痴を吐きながら裕也は取り出したセブンスターを加え火をつけた。「お前が際立って素行が悪いからだろ」裕也の愚痴に冷たく返答し通学リュックから持ち出したマルボロに火をつけた。高校三年生という受験、就職活動に追い込みをかける時期にそれを怠り授業をサボっているのはもう俺と裕也の二人くらいである。「3組の上田いるだろ?アイツ親の仕事継ぐからっつってこんな時期なのに学校サボって彼女と旅行行ってるらしいぜ。あんな奴卒業させたら駄目だろ。」それをお前が言うか、裕也よ。お前が上田に矛先を向けるのは単にこの高校生活の中で一度も彼女ができてない妬みからだろ。それに敷かれたレールの上を歩み今後の人生安泰の上田は非常に羨ましい。『大人になる』ということに対し俺も裕也も実感が沸かず、俺は実感が沸かない自分に対して漠然とした不安を抱えていた。
そんな俺の不安をよそに裕也は煙で下手くそな輪っかを作っている。「お前って頭蓋骨の中空っぽでいいよな」「唐突にひどくね?」
憂鬱な学校が終わり帰宅時間、学校前のバス停には学生服が群れを成していた。列なんて概念はない。黒ずくめの海を掻き分けて頭ひとつ分大きい黒い棒が近づいてくる。顔は見えないがあれは裕也だ。頭の先から出ている黒い棒は裕也が背負っているギターケースだ。人混みから顔を覗かせてくる、ほらやっぱり裕也だ。「良人、帰りラーメン食って行かね?」「お前今日ライブじゃねーの?」「時間あるから大丈夫、腹が減ってはライブはできぬってね」裕也は路上やライブハウスで弾き語りライブの活動をしている。俺も一度だけ裕也のライブを見に行ったことがあるが、悲惨なものだった。客は俺一人、裕也以外の演者はバーカンで酒を呑んでいて裕也のライブを観ているのは俺だけだった。それ以来裕也は自分のライブに誘ってこない。「俺は腹減ってねーしいいや、一人で行ってくれ」「なんだよ寂しいな」裕也は学校で孤立している訳ではないが、他の奴らとつるんでいるのはあまり見かけない。一応上辺で付き合ってはいるが基本つるんでるのは俺だけだ。それは俺もおなじだった。
家には両親はいない。母さんはパートで父さんはまだ仕事だ。自分の部屋に入って机にリュックを置いた。小学生のころから使っている勉強机の端にはかつて彫刻刀で掘った『サッカーせんしゅ』という文字が刻まれている。サッカーは中学の時に膝を痛めてやめた。治ってから続けることは可能だったが膝を痛めたことを理由に、きつい練習と自分の才能の無さから逃げたのだ。それ以来は何事にも無気力だ。今もやりたいことは見つかっていないし、見つかる気もしない。きっと俺はこのまま普通に就職して普通に結婚して普通に死ぬんだろう、そう思うとたまらなく怖くなった。この無気力が死ぬまで続くんだと。裕也は卒業したら音楽の専門学校にでも進学してミュージシャンを目指すんだろう。いいな、やりたいことがあるやつは。
駄目だ、これ以上考え込むと気が狂いそうだ。ベッドの上にダイブして俺は不安から逃げるように無理矢理眠りについた。母さんが帰ってきた音がしたが無視した。
小説はじめてなんでよろしくです。
続きもかきます。