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どうして  作者: 美雨
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プロローグ


「垣内 海葉音です、よろしくお願いします!」

 思いの外、人が少ない。職員室ってこんなものか。

 

 目の前には、これでもかというほど丸さが強調されている眼鏡をかけた、背の高い教頭が立っている。管理職は忙しいというが、どうやら本当らしい。着慣れているであろうワイシャツの袖はよれよれで、元々は艶があったであろう黒の内履きも、所々埃を被っていた。その上、猫背気味で自信が無さそうに見える。この人も、何かを守るために管理職という道を選んだのだろうか。

「垣内さん。慣れないことも多いかもしれないけど、よろしくお願いします。期待してますよ」

 無理やり作ろうとしたのか、笑顔が少しぎこちない。相当疲れているのだろう。

 私になんて期待されても困ると思いつつ、職員室を見渡してみた。管理職の席の後ろには、連絡事項や1日の予定、出張者などについて記されている黒板がある。各教員の机は、人間そのもののように多様だ。スーパーに陳列された商品達のように整頓されている机もあれば、バーゲンセールに売り出された商品のようにごちゃごちゃな机もある。あれでは探しものも大変だろう。人のことはいえないが。

 

 職員室の後方、角の席には人が座っている。俗に言うイケメンだ。目は二重、顔もわりと小顔。清潔さもしくは爽やかさをアピールしたいのか、髪は短髪で、きれいにセットしてある。上はジャージ姿だから、体育の教員だろうか。こんなに顔がきれいな上スポーツが出来るとしたら、スーパーのレジ打ちを高速でするおばちゃん以上に尊敬する。

 目が合った。これは、この中学校の女子生徒に人気だろうな。私が通う大学の女子からも、人気を得ることができそうだ。普通だったら、ここで一目惚れというのもあるだろう。残念ながら、私の身にはそんなお花畑のようなことは起こっていない。


「私は普段仕事が立て込んでまして、あまりお仕事について教えられないんですよ。本当は私が教えなければいけないんですが。主に、そこにいる矢野先生が教えてくれます」

 これは大変だ。女子生徒と女性教員に敵と見なされないことを願う。

「よろしく、垣内さん。」

 笑った顔も申し分ない。ただ、私もこの教頭のように、自分を守ることから始めなければいけないことは確かであった。


 今日から始めたアルバイトは、中学校教師の手伝いだ。主に、印刷やラミネート、印鑑押しなどの仕事があるそうだ。近年、長時間労働で学校はブラックだと言われている。それを改善するために、私のような大学生や、地域の人を雇っている学校が増えている。一応教職課程は取っているが、自分に教員が向いているかどうかは分からない。それを検証するためにも、このバイトを始めた。

 このバイトでも、平穏無事に過ごせて、お金がもらえればそれで良い。荒波が立つような状況からは身を引きたいし、これまでもそうしてきた。そんな日常が、送れるだろうか。少しばかり不安である。

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