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異世界は神様と共に  作者: 腹巻
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今週の匠


“作業団”の朝は早い。

まだ暗いうちに起きだし、道具の確認をする。

道具は大事だ、その良し悪しによって今日の収穫効率が左右する。

この道50年の正木 晴さんはそう語る。

「天気や湿度によって鎌を入れる角度を変えるのさ。最近の若い奴は道具に頼り過ぎるんだ。良い道具ってのは自分で育てていくものさ。判ってない奴が多くて困るよ。俺も昔は・・・・」

「何が困るって?」

「うわぁぁぁぁ・・・」

突然話し掛けられて慌てて振り向く。

「さっきから誰に話し掛けてんだ?団長が呼んでたぜ。」

「ああすみません・・・いつから・・・いや、すぐ行ってきます。」

ハルは足早に団長の所に向かうのだった。



◇  ◇  ◇



“作業団”に参加してすでに1ヶ月が経とうとしている。

仕事にも大分慣れ早起きも苦にならなくなって来た。

その日は夜からの雨が降り続き、昼になっても止みそうもないため収穫は中止になった。


ハルは何もない農村で暇を持て余していた。

宿舎に利用している小屋の軒下にある長椅子に座ってぼんやり外を眺めていた。

庭には日除けと風除けのために大きな葉を付けた背の高い草が何本も植えてあって、景観は良いとは言えない。

雨の雫が葉に落ち、下の葉に流れ落ちる。

下の葉は水滴が一定量溜まると重みで傾いてすべての水を大地に注ぐ。

シシオドシのような動きが面白くて、夕食の準備が始まる時間まで見続けていた。


夕食はいつもと同じで、干し肉とパンとスープ。村から提供される野菜が使われていて結構美味い。

酒飲みには好評な干し肉だが、ハルには固過ぎてアゴが疲れるのだ。

今日もバレないように荷袋に入れると、予めナイフで小さく削った少量の肉をスープに入れ若干軟らかくなってから食べる。

隠れてやるのは作ってくれた人に悪いから。

荷袋には結構な量の干し肉が貯まっている。

非常食だと思えばありがたい。


次の日も朝から雨が降っていた。

これ以上日程が遅れると先の収穫にも影響が出る。

明日まで続くようなら次の村の葡萄の収穫を諦めなければならない。

しかしその村は葡萄酒の有名な村だけに団員たちの落胆する姿が思い浮かぶ。


ハルは朝から長椅子に座り、昨日と同じ葉を眺めていた。

しばらくして葉の傾くタイミングが昨日と違ってバラバラなのが気になった。

ハルが意識して見ている時は確かに傾く頻度が高い。

不思議に思って近くまで行ってみると、なんと葉から水が湧き出している。

ハルが見れば見るほど湧き出す量が増えていく。


ハルは興奮していた。

スキルも魔力も無い自分に初めて出来た、魔術が使える可能性。

他の葉でも試してみると、すぐに葉から水が湧き出て来た。

容器でも試したが水が増えたのが判った。

ニヤニヤが止まらない。

日が暮れるまで繰り返していた。



夕方になると雨も上がり明日は作業に入れそうだと団長も話している。

前日の休んだ分を取り返すために大変な一日になりそうだ。




◇  ◇  ◇




ハルは暇を見つけては、魔術の練習を繰り返していた。

そこで判った事が幾つかある。

水の湧き出す勢いは容器によって違うが、時間に際限は無く、ハルが魔力の枯渇を心配して止めるまで湧き続けた。

そして水に限らず、火でも同じような事が出来るという事。

焚き火の炎を大きく燃え上がらせたり、濡れた薪に着火も可能だった。

ただ残念ながら何も無い所から、水や火を出す事は出来なかった。


しかしハルは嬉しかった。諦めていた魔術が使えるようになったのだ。

目の前に広がる世界に、色が付いた気がした。




魔術スキルが無い者は、魔力が無い者は、魔術を使う事は出来ない。

これは神の決めたルールである。


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