勇者vs.魔王
魔王の手から炎の塊が撃ち出される。勇者はそれを剣で受け流し、魔王に斬り込む。
炎の塊は床や壁に着弾し、すさまじい轟音と共に爆発して周囲を炎に包む。
魔王による攻撃魔術は完璧に受け流す事は出来ず、勇者の身体を焼いていく。
聖女による治癒魔術も、次々と繰り出される攻撃に追い付かず、徐々に傷が増えていく。仲間の戦士は倒れ、魔術師は魔力枯渇により膝をついたまま動けない。
反対に勇者の攻撃は、魔王の身体に傷ひとつ付ける事すら出来ずにいた。
幾重にも張られた防御結界は勇者の攻撃をすべて跳ね返す。
この攻防が何回繰り返されただろうか。
それでも勇者は己を信じ、聖剣の特殊能力“絶魔”により少しづつ結界を削り続ける・・・
そして遂に魔王の胸に小さな傷を付ける事が出来た。
魔王は焦っていた。
彼が魔王を名乗って以来、誰からも傷ひとつ付けられた事は無いのだ。
自分がここまで追い詰められた要因。それは聖女による治癒魔術にあると考えた。
勇者を攻撃しても、何も無かったかの様に治療してしまう聖女。
倒しても倒しても、立ち上がり向かって来る勇者。
魔王は標的を聖女に変えた。
「許さん・・・許さんぞぉぉぉ!」
両手に魔力を集中させ、すべてを焼き尽くさんと、聖女に向けて打ち出す炎は、これまでの攻撃よりも強力なものだった。
慌てて駆け出そうとした勇者だが、すぐ足を止めた。
聖女の前には負傷して戦線を離脱していたはずの戦士が立ち塞がっていた。
自身の武器である巨大な戦斧を盾に、魔王の炎を正面から受け止める。
しかし威力が高い攻撃に、戦士は吹き飛ばされ壁を破壊していく。
勇者は奥歯を噛み締める。そしてその隙を見逃さず、勇者は剣を両手で握り、魔王に向かって飛んだ。
振り払う腕に気付いたが、それを無視して魔王の胸にある小さな傷を狙って剣を突き出した。
勇者は吹き飛ばされ床に転がったが、魔王の胸には深々と剣が突き刺さっていた。
聖剣は半ば魔核化した魔王の心臓を貫き破壊していた。
「・・・あの方が・・・復活すれば・・・・・・人類など・・・」
崩れるように倒れる魔王の最期の言葉を勇者は聞いた。
これが何を意味するのか、この時の勇者には判らなかった。
勇者がゆっくり魔王に近づいて死亡を確認する。胸に刺さった剣を抜いた。
そして周りを見回し戦いの終結を宣言した。
「魔王は倒れた。これ以上の争いは不要だ!」
遠巻きに見ていた魔族が数人近付いて来て勇者に頭を下げると魔王の遺体を運んでいった。
仲間の倒れている場所へ向かう。
戦士が血を流し、聖女の治癒を受けている。
「終わったか・・・」
魔術師がゆっくり近づいて来て言う。
「ああ、たぶん?」
勇者は短く答えた。
この後、勇者一行は魔王城の調査の為、魔王討伐軍に合流する事になる。
魔王討伐軍は人類国家が魔王の脅威に対抗する為、各国から精鋭を集めて組織したもので、この調査を最後に各国に戻っていく。
魔王討伐の報は世界中に広がるだろう。
世界に平和が戻る事を願わずにはいられなかった。
☆
ハルと助け出された女性達は、討伐軍からの事情聴取を受け、早々と隣国のアヤト国に向う馬車に揺られていた。
事情聴取では女性達はともかくハルは言葉が上手く話せない為、身振り手振りを交え、何とか現状を訴えた。
話半分伝わっていれば良い方かも知れないが、哀れに思った討伐軍の配慮で早目に切り上げ解放となった訳だ。
しかし、ハルにとっては見知らぬ土地で放り出されても不安しかない。
延々とミトにアヤト国の事を質問すると言う、ミトにとってはかなり迷惑な状況になっていた。
ハルを安心させたのは自由組合と呼ばれるハローワークのような職業斡旋組織があると言う事だった。
アヤト国まで1週間の旅であるが、それまでに言葉を覚えようとさらにミトに話し掛けてウザがられた。
★ ★ ★
勇者クリスと聖女マリアは自分達用の天幕で先ほどのハルとの事情聴取を思い出していた。
「なあマリア、あのハルって男の言った事、どう思う?」
「フフ、面白い方でしたね、フフフ」
ハルから話を聞いた際、言葉が上手く話せず身振り手振りまでは良かったが、最後は1人芝居をし出した時は、その場にいた全員が笑いを堪えていたものだ。
「いやそうじゃなくて・・・」
「わかってます。ですから今、地下の祭壇を調べているんでしょ?」
「魔王の最期に言ったあの言葉、何も無ければ良いんだが・・・」
「何者かの復活を示唆していたんでしたっけ?」
「ああ、それに何百人もの魔族の魔術師が関わっていたんだとしたら。」
「そうですね、もし戦争で本当にそんな戦力を使われていたら・・・」
「我々との戦いよりも優先したって事だろ?」
「それだけ重要な儀式だったって事になる。」
「アニエスも一緒に調査へ行ってますからすぐ判りますよ。」