異世界設定ってなんでもできる
本屋の小説コーナーに行くと『異世界で〇〇〇』とか『〇〇〇〇の異世界』的な
異世界ものが増えた気がする。俺は正直、異世界ものは好きではない。
異世界ものは何でもありで、法律やらなんやらはすべて無視ときた。そんな異世界ものは、見ないようにしている。だから今日も、学園ものを手に取って、会計を済ませて家に帰るってわけだ。帰宅したら、冷蔵庫からコーラを取り出し一気飲み。そして、パソコンを立ち上げて動画を見る。12時くらいに布団に潜り込み明日を待つ。そういや、今日は何も食ってないな。
次の日の朝、起きたら10時、目覚ましセットを忘れ遅刻も遅刻。家から学校までおおよそ30分。間違いなくいろいろ言われる。こうなったら、仮病を使おう。
「スマホアプリでもやるか…っは?」
メール通知が10件。学校からだ。
『来ないなら、こっちから行く』
書いてあるのはそれだけだ。まずいことになった。超能力者でもないのにこの後の展開が手に取るようにわかる。とりあえず、家を留守にしておこう。風邪でもないのに家にいたら、うるさいお説教の時間が始まってしまう。着替えよう。そして、出かけよう。その結果、扉を開けたらそこには先生。ハハハ、おいおいなんだこの状況。
「学校休んで出かけようなんでいい度胸じゃないですか」
どうしよう。ご立腹だよ、この先生。
「いやぁ~違うんすよ。走っていたら重そうな荷物持ったおばあちゃんがいて」
「夢の話だろ」
なんだろう。この清々しいほどの笑顔は。俺、今から殴られんのかな?
「そうなんすけど、ほら、もしかしたら正夢になる可能性があるわけで、」
「だから、登校もせずに私服に着替えてどこかへ行こうということか」
怒ってる。顔には出てないけど怒ってる。逃げたほうがいいのかな?
「失礼します。先生!」
俺は扉に立ちふさがる先生を押しのけて階段を下りる。先生はやはり追ってくる。だから、家をぐるっと回り家に戻って鍵を閉めた。自転車の鍵や金、大事なものを色々持って、窓から家を出た。イイ感じに草木が体を受け止めてくれた。しかし、音で教師にばれた。俺は急いで、自転車のほうに向かい鍵を開けてから、そのまま逃げだすようにして、いつもの学校方面とは逆の方向へ逃げて行った。後ろを確認したら先生がすごい顔して怒ってる。
このままどこへ行こうか。5分ぐらいだろうか。後ろから車のクラクションが聞こえた。
「こらー、止まれー。学校サボンじゃねー」
先生が車で追いかけてきた。俺はもちろん逃げるため路地裏を使った。
しかし、裏路地なんか使うんじゃなかった。裏路地を抜けた先はまさかの川。ハハハ、死んだなこれ。自転車に乗っていてもわかるよ。体が下に落ちるときのあの感覚が。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ザッパーン
水が体を打ち付ける。最後に見た光景はとても綺麗な川を泳ぐ淡水魚の姿だった。
「お…て…ださ…。おき…くだ…い。」
俺はなんだ?死ぬって状況で夢でも見てるのか?自分ののんきさにはつくづく飽きれるよ。
「起きてくださいって丁寧に言ってるでしょ!!」
「うわっびっくりした」
思わず耳を抑えて声のほうを向いてみる。そこには髪の毛が肩ぐらい、いわゆる『ツンデレ』そうな女の子がいた。
「誰?君」
「はぁ?私を知らないの?」
「知らない」
「即答すんな。この私こそ世界で一番の勇者『アウロラ・ヴィブリッティ』覚えておきなさい。」
アウロラ…ヴィブリッティ。なんだその発音しにくい名前。
「俺はどうなったんだ?」
「川から流れてきたのよ」
「川から?桃太郎みたいにか」
「桃太郎ってなによ」
桃太郎を知らない?いやいやいや、日本人だったら知らない人はいないぐらいの有名作じゃないか。それを知らないって。
「ちょっと待て、ここはどこなんだ」
「あぁ~もう質問多い!ここはエルビ川!そこであなたは流された 以上。」
日本じゃない、それどころか地球ですらない。
「それじゃ今度はこっちから質問。あなたは誰なの。」
「俺か?俺の名は、俺の…名は。わからない」
「はぁ?わからない?何なのよそれ」
「わからないものには答えようがない」
「それじゃあなんで川を流されていたの」
「確か、なにかから逃げるために路地裏を使ったらそこが丁度川で…」
そっから覚えていることは大体話した。
「わかったわ。わからないけど分かったわ」
「もう一回説明しよ…」
「結構です。」
俺はここが自分自身の苦手な異世界ということが分かった。異世界設定の小説を読まないせいでこの後どうしたらいいのかがよくわからない。
「とりあえず、あんたには2つの選択肢があるわ。1つはここで野垂れ死ぬ
もう1つは私のものになる。さあ、選びなさい。」
「ちょっと待て。2つ目なんて言った。俺にもわかるように説明してくれない?」
「だから~。あんたはこれから先ずっと、私のものになれって言ってんの。」
このアウロラとかいう奴、頭狂ってんのか?ツンデレなんて可愛いもんじゃないよ。ドSってこういう奴のことを言うんだな。いや、本当のドSに失礼か。
「お前正気か?川から流されてきた見ず知らずの奴をお前は…」
「わかってるわよ。あんたの言い分ぐらい。狂っているって言いたげよ。」
うわぁ心読まれた~。
「でも居場所をなくしたんでしょ?それなら、私の城にでも招待するわ」
城?そういやこいつ、世界一の勇者様だっけか?
「そう言ってくれるんだったら、まあ、お言葉にでも甘えようかな?アウロラ」
「やっと従順になったわね。」
「でも俺のこと、犬かなんかと勘違いしてますよね。」
「…」
アウロラは自分のしていた手袋?のようなものを取り始めていた。
「人の話ぐらいちゃんと聞けよ。」
アウロラは左手の甲を俺の腰ぐらいに差し伸べた
「ほら、さっさとひざまずいてキスしなさい」
俺はひざまずいて手を握るところで目が覚めた。
「はぁ?なんで俺が、ここでしなくちゃならないんだ」
「契約って言ったら左手の甲にキスでしょ普通。っていうか、ここまできてやらないのは男じゃないわよ」
「やかましいわ。お前に男を語ってほしくなんだけど。」
「はいはい。ごめんなさーい。」
こいつとは絶対に息が合わない。俺は確信したね
「悪いがキスだけは絶対にやらない。」
「しょうがないわね。あんた名前がなかったのよね。」
「まぁ、そうだけど」
「あんたに名前を付ける。それで契約成立でいいでしょ」
名前は今ないし、とりあえずこの世界での名前ということにしておいて…
「名づけるわ。あんたの名前…」
「変な名前にすんなよ、アウロラ」
「…っチェ。はいはい、まともな名前にしてあげるわよ。」
信用ならねぇー。こいつ本当に俺にちゃんとした名前くれるのか?
「それじゃあ気を取り直して
いくよ命名『オール・ヴィブリッティ』」