表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

3:Reemergence

サブタイを変えようかなあ?


——————。


 どこからか音が聞こえる……。その音を私は確かに聞いたことがあった。だが、その音が何だか思い出せない。感覚が、脳がまだにぶいようだ。

 

 ザ————。


 耳障りな音ではない。だが、不規則な音だ。私はどこでこれを聞いたことがあるのだろう。

私は記憶を乱雑に探し回っていた。砂粒を掴み上げては大雑把に確認するような、そんな調子だった。

それでも、何かを掴めた気はした。あともう少しで、答えが分かるはず……。


 ザ————ザ————。


水の落ちる音。跳ねる音……。


 そうか。これは雨音だ……。雨の降る音が聞こえているんだ。


 次第に私の感覚は戻っていった。雨音の次は四肢にあたる雨粒が、その次は土の匂いが、そして最後には仄暗い光が感じられた。

 音が、冷たさが、明るさが私の下に戻ってきた。だが体は重い。まるで全身が拘束されているかのようだ。すぐには動けそうには無い。


 私はどこにも行くことができないので、ぼうっと空を眺めていた。白に染まった空が透明な水滴を零している。その粒は私の頬を伝い、地へと逃げていく。その度に私は瞬き、これが夢でないことを確認するのだった。

 

しかし、これが夢でなければ何だろうか。現実なのだろうか?


 レンガの壁に挟まれた空を見上げながら私は考えていた。

 

これが現実なら、私は生き返ったということになる。しかし、それはあまりにも突飛な考えだった。神の奇跡は数あるけれども、聖人でもない私が生き返る、——言い換えれば、復活する——そんなことがあり得るのだろうか。


 私は少しだけ顔を起こし、指先を眺めた。そこには以前と変わらない私の指があった。次に足を見たが、結果は同じ。何一つ変わらない私の足がここにあった。


紛れもない私がここにいる。嘘偽りなく、私はここにいる。私は生きている。

 

やはり、私は生き返ったのだろう。母に殺されたはずの自分が生きているなんてことは、それ以外に考えようもない。


しかしそれならば、ここはどこだろう。私の家の近くではないようだ。少なくとも、私の記憶の中にこんな場所はない。


私は辺りの様子を見渡した。しかし、分かることはほとんどなかった。


この路地は大人がすれ違えないほどの細い。しかも、道が曲がっているため見通しが悪い。また、雨のせいで路面が泥の海のようになっている。


ここから得られる情報はこの3つだけしかない。


これでは、ここがどこであるかの見当が付くはずもない。私の体の調子がもっと良ければ、辺りを探索することができるのであろうが、それをできるのは当分先のようだ。まだ、体は重い。あまり無理はしたくない。


あとは、誰かしらが助けてくれるのを待つのも1つの手だ。そうすれば、何もかもが——自分が生き返ったこと以外は——はっきりするはずだ。

しかし、その望みは薄いように思えた。


理由は簡単。ここを通る人がいるとは考え辛いからだ。


誰が好き好んでこんなにもぬかるんだ小道を通るだろうか。それもよりによって大雨の日に。

やはり、私が自分で動かなければならない。それだけははっきりした。


しかし、手足は動かない。私の体はまるで凍り付いたかのようだ。これでは動くことは……。


あれ……?


私が違和感に気付いたのはこの時だった。


 何で気付かなかったのだろう。


手足が動かない。それは確かに目覚めたときと変わらないかもしれない。けれども、その時と決定的に違うことがある。



感覚だ。感覚がなくなっている。



私が目覚めた時、指先は確かに動き、雨の感触さえ感じられた。しかし、今は違う。指は動かなくなり、雨の冷たさはもはや感じていない。


ここでようやく私は気が付いた。

私の体が冷えすぎてしまったことに。こうして考え事をしている間に、雨によって体温をどんどん奪われてしまっていたのだ。

感覚が少しでもあるうちに、無理をしてでも動くべきであった。そうすれば、まだ対策は立てられたかもしれない。しかし、その事実に気付くにはもう遅すぎた。


これからどうなるか。想像のつかない私ではない。考えたくはないが、そう考えざるを得ない。


このまま誰も助けてくれなければ、私は…………。






————再び死ぬ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ