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ギギギ・ロンジ

 目が覚めると良く見慣れた背中が目の前にあった。いつも一緒にいれてくれて、無茶すれば止めてくれるし、ビビったら手を引いて走り出してくれる、そんな僕の味方イブ・ロータンの背中だ。何かとても久しぶりで、とても恋しかった気がする。ああ手を伸ばせば届きそうだ。




 力なく伸ばされたケイの手はイブの背中にはギリギリ届かず力なく垂れ下がった。その拍子に、イブの小さなお尻に接触してしまう。


「っっっひぁ!」


 イブは驚いて後ろを振り向き、ケイが目覚めたことに気づくと歓声を上げた。


「はああああ、生きてて良かったああああ! ケイ君大丈夫?! 自分のことわかる?!」


 迫り来るイブにケイはぼんやりとだが答えた。


「ああ大丈夫だよイブ。心配かけてごめん」


「いいよ、いいよ! あ、先生呼んでくるから待っててね! ほら行くよ」


 イブはさっきまでそこでおしゃべりをしていただろう少女を強引に連れ、病室を出ていった。



 

 少しするとイブは先生とさっきの少女を引きずりながら病室に戻ってきた。先生の診察が終わり大丈夫ですねとお墨付きをもらうと、イブはペコペコと礼を何度もした。先生が去ると、イブは決勝戦からまる一日経っていること、皆凄く心配してること、決勝後の顛末のあれこれをケイに伝えた。ロームが上手く立ち回ったおかげで、今回の大惨事の原因である魔術抄本のすり替えについては、秘密裏に調査中となったことも伝えた。話の途中、先輩達の魔術抄本に細工がされていたことをケイが知っていた素振りを見せると、イブは途端に”無理しないで”と涙を流しながらケイのお腹辺りに抱きついた。ケイは驚いて、そして困ったようにイブに優しく訳を話した。


「あの段階で試合を中断すれば、先輩達の評価は転落するだろう。そして生き残りの厳しい貴族社会ともなれば、その落下速度は尋常じゃない。今回は将来に待ち受ける禍根を摘み取ったと思えば、案外無理じゃないと思うんだよ。」


「ぅぅううう、難し゛い゛こ゛と゛わ゛か゛ん゛な゛いううう。一人で危ない゛こ゛と゛し゛な゛い゛でえええううぅぅぅ」


「わ、わかったから、そんな泣くなよ」


 ケイは顔と毛布を涙と鼻水でベチョベチョにするイブを優しく撫でる。そんな二人の様子を先ほどからベッド脇でずっと見つめていた少女は、嬉しそうな表情を浮かべた。


 ケイはベット脇に立つ少女に対して、小さく手を掲げた。


「よっ!」


「ヨッ!」


 ケイの挨拶に合わせて、嬉しそうに少女も手をあげ返した。


「ギギギも来てくれたのか? お見舞いありがとうな! あ、お見舞いってわかるか?」


「ワカル! 先生イッテタ、相手ヲ元気ニスルノガ、オミマイ! ソノテン、イブハ御見舞ノ達人!」


 ギギギと呼ばれた少女は、たわわな膨らみのある胸を少し反らして自慢げに答えた。少女の背丈はケイと同じくらいで、下から舐める様に見上げるアングルになるが不可抗力だ。


「お、もうイブのことも知ってるのか? 友達?」 

 

「残念ナガラ、イブハギギノコト嫌イカモシレナイ。友達デナイ。」


「そうかー、残念だったな。でも覚えてるか? 諦めたら試合終了だぞ?」

 

「ギギノ説明ノ力ガ足リナイダケ、出直ス予定」


「そうか、頑張れ。ところでイブ、さっきからどうしたんだ?」


 ケイと野性味溢れる少女が話しを交わしている間、イブは口をパクパクさせて顔色を白黒させていた。イブはなんとか混乱の極地から抜け出すとケイに詰め寄った。


「誰なの?! 何なの?!」


「あれ、さっきおしゃべりしてなかったっけ? 自己紹介がまだなら、こちらはギギギ・ロンジさん。学園の一つ上の先輩で、ダンジョン同好会の会長さんです。あと亜人さんでもある。」


「・・・そしてプラチナブロンドで、美少女で、巨乳で、引き締まってて、七役跳満だよ!!1万2千点の美少女だよ!! あ、いやそうじゃなくて、ケイ君とはどういう仲なの?!」


 ケイは少し首を傾げてから、イブとキギギを見比べながら重い口を開いた。

 

「キギギ良かったな、イブがお前のこと褒めまくってるぞ! 素敵だってさ。もう少し頑張って自己紹介続けてみたらどうだ?」

 

「ソーナノ? シャーナイ、ヤッテミルカー」


「いやいや、ケイ君無視しないで! あっ、ちょっ、ギギギさんちょっと掴まないで! つ、つ強い、力強いいい、うで折れちゃううう」




 かくして病室の一郭で奇妙なキギギ・ロンジの自己紹介タイムが始まった。ギギキはがっしりとイブを掴んで、目を合わせるように対面に座るとゆっくり喋りはじめる。


「ワタシ、ギギギ・ロンジ。ロンジダンジョンカラデテキタ。スキナモノハミノデーモンノアキレス腱。ケイ二金属ヲヤ


「スタアァァアップ、ギギギ! 口下手かっ!! いやそれじゃイブが警戒して当然だわ」

 

 直ぐにケイから差止めが入った。イブは未だ両腕をがっちり掴まれながらケイを見てブンブンと首を縦に振った。

 そこからはケイが質問をする形式に変更された。


「アナタのチャームポイントを教えてください」


「ギギノチャームポイントハ耳デス。8割デーモン系ト診断サレタコトアリマス。」


「特技はなんですか?」


「ダンジョン出身ナノデ、ダンジョン攻略ガ得意デス。学園デ同好会ヲヤッテマス、良カッタラ遊ビニ来テネ!」


「あ、あの! ケイ君とは何時どこで知り合ったんですか?」 

 

 警戒を解いたイブがギギギへと問いかける。ケイはそれをニヤニヤと見ていた。


「5月ニダンジョン同好会ニ石ヲクレッテ訪レマシタ。私ガ亜人デモ怖ガラナイノデ友達ニナッテ貰イマシタ。ソレカラ良クシテクレマス。」


「ギギギはここに来る前は何処にいたんだ?」


 ケイが真面目な顔をして、質問を変える。ギギギはそれに淡々と答えた。


「学園ノ前ハ研究所ニイマシタ。アソコハトテモヒドイトコロ、ダケド偉イ人ガ一年前位二キギヲ移シテクレタ。今ハ二年Dクラスニイル。頑張ッテ言葉ヲ覚エタケド友達ハデキナカッタ。」


 尖った耳が心なしかヘタレている。ケイはイブにこっそりと耳打ちする。


「キギギはただ友達がほしいだけなんだ。無理やりダンジョンから連れてこられて酷い目にあって、今はこうして学園に来たけど今度は孤独が彼女を苦しめるているんだ。」


 それが決め手になった。


 イブはさっきからウルウル溜めていた涙を決壊させ、キギギを抱きしめた。イブが一回り小さいので、抱きつく子供にしか見えなかったがケイはツッコミをグッと堪えた。ギギギはイブの様子が急に変わったので慌てふためいてしまう。


「イブ! ドウシタ? ギギノコト泣クホド嫌イヵ?


「ううん違うよ、きっとギギちゃんのことがを知れて嬉しいの。さっきは酷いこといってごめんなさい。ちょっと元気が無くて冷たくしてしまったの。もし、もし良かったらギギちゃんともっと仲良くなりたいのだけども、ダメ、かな??」


 その言葉にギギギの顔がぱあっと明るくなる。耳もいつの間にかピンと上向きになっていた。


「イイ、スバラシイ! ジャア、イブトギギハ友達! ヨロシクナ、ヨロシウゥ、グスッ・・・」


 ギギギもイブにつられたのか堰を切った様に泣き出した。今まで貯めていた寂しさや悲しみや苦しみを洗い流すように、イブと供にひとしきり泣いた。




 ケイ達が住むサボン国には、亜人は殆どいない。その理由は亜人が産まれやすいダンジョンが少ないからだ。亜人がどうやって産まれるのかは未だ解明されていない謎だが、モンスターと人が交わって産まれるという説が広く信じられている。

 この世界において、過酷な自然環境を生き抜くモノを畏敬の念を込めて"モンスター"と呼ぶ。人間が秩序と知恵と魔術を手にしたように、この星の自然で生きる動物達も強靭な肉体と、暴虐な魔力を手にした。モンスターを忌むべき物"魔物"と呼んだりもするようだが、そちらは差別的な意味合いが強い。そういう一部の人間は、強い力を持つ亜人のことも魔人と呼んだりするという。もちろん、そんな怪奇な背景を持つ亜人達の社会的権威は誰からも保障されていない。血統と権力が牛耳るこの社会では、概ね亜人は不当な扱いをうけてしまう。それでもギギギのように人を信じ、人に受け入れられたいと願うのは、姿は違えど同じ人だからなのだろう。




〜・〜・〜・〜


「ケイ君に金属をくれてたのってギギちゃんなの?! だとしたら本当にありがとう!!」


「ォ、イブモ石ガ好キナノカ? 部室二山ノ様二アルヨ、今度ヤロウ。」


「ありがとうございます。ところでギギちゃんはどこから石を持ってくるの?」


「ダンジョンダヨ、裏山二アルヨ! タダ危ナイカラナー、行ク時ハコノギギヲ呼べナ? 同好会モ募集中ダゾ?」


「ありがとう、私は怖いから1人では無理だな。ケイ君は行ったことあるの?」


「アァ、ケイハ強イカラ1人デモ行ケル位ダ。デモ1人ハダメダ、危険ガイッパイ」


「そーなんだー、ケイ君いつの間に・・・」


 イブは急にコソコソとギギに耳打ちしだした。ケイはさっきから蚊帳の外なので布団でまどろんでいる。


「(ねえ、ギギギちゃん、ケイ君に変なことされなかった?)」


「(変ナコトトハ?)」

 

「(例えば、え、エッチなこととか・・・)」


「(ソレハドンナコトダ?)」


 そう聞かれたイブは困ってしまう。具体的にはどんなことだろうと考える。例えば、体を触るとかだろうか……その大きな胸なんか超危険だ!と頭の中にアラームが鳴り響いた。

 

「(胸っ、なんか触られてない?)」


「(触ッテハナイゾ。ソレガエッチナコトナノカ?)」


「(うーんギギちゃんには説明が難しいなあ。・・・うん?サワッテハナイってどういうこと?)」


「(ケイガギギヲ庇テダンジョンダデ頭ヲ打ッタ時、先生ニ習ッタ膝枕ヲシテヤッタンダ。ソノトキ胸ガ当タッタンダガ嬉シソウニスルカラ偶ニシテヤルンダ)」


「ギギギギギギちゃん、そういうことは軽々しくやっちゃだめなんだよ、気をつけようね。」

 

 イブは無言でギギギを入り口まで退避させると杖を取り出して、ケイがまどろむ寝台へ神速の動きで振り抜いた。


「ウインドォビイイイイイイイイイム、ケイ君のばかあああああああ」








ギギギ「コレガ焼キ餅ッテ奴ヵ?」

イブ「ち、ち、違うよ! 何も知らないギギギちゃんを騙してたからお仕置きな、訳で。焼き餅でもなんでも……」

ギギギ「イブ丿愛ハ強火ナノナ、ォ見逸レシマシタ!」

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