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クラスマッチ・トランジスタ Ⅱ

 「この魔術師高等教導学園の誉れ高きクラス対抗戦決勝の時間が、遂にやってまいりましたあ! 実況は学園広報科のセブン・G・ドーナが勤めさせていただきます。解説には学園教導科長のファミマ・クリニーク様にお越しいただいております! おっと? どうやら選手入場の準備が整ったようです。それでは・・・選手の入場です!!! まずは第三学年Aクラスから、リーダーのエドモア・ハーネスっ! 続いて、・・・



 グラウンドに一夜でできた特設観客席の最前列から、セブン女史は大仰な魔術道具を通して、3学年Aクラスのメンバーの紹介を会場に届ける。


 選手達は、紹介された順にグラウンドをとり囲む観客席の前を練り歩く。選手の進行に合わせて観客が立ち上がり、観客席には大きな人の波が幾つもうねっていた。


 「・・・続きまして、最後の選手の入場です。より景気良い拍手でお迎えください! ケイ・トーマスオ!」


 ローム、イブ、エーコに続き、ケイが入場門をくぐりグラウンドに降り注ぐ陽の光を浴びる。すると会場がざわつき出した。


 「既に満身創痍じゃないか、、、

 「平民だから服持ってないのかしら?

 「一体何があったんだ彼に?!


 入場行進するケイの態度は毅然としていたが、制服のジャケット、中に着ているシャツの袖がなかった。観客席のケイの両親も「準決勝の時はそんなに負傷したようには見えなかったのに、、」と首をかしげている。だかそれでも憮然とした彼の堂に入った態度のおかげか、入場は止まることはなく進みグラウンド中央に選手がでそろった。


 「それでは両者、互いに礼!」


 「「お願いします!!!」」


 「それでは各陣に散開した後に笛がなったら開始とする。制限時間は30分、胸の判定紋が反応した者は直ぐに退場するように。では散開!」


 各チーム凸凹と障害物が立ち並ぶ自陣へと消えていく。グラウンドをいっぱいに使ったフィールドはまるで戦場の様に仕立て上げられている。ケイ達は自陣の最奥で円陣を組んでいる。


 「さあここが正念場だ、色々と不幸な事故はあったが今は忘れよう。相手は言わずもがなこの学園の最強、作戦は通じないと思う。だから個人の判断を最優先させたいと思う。きっとそれが最適解だと信じてる。」


 「そうね、想定してたより相手はかなり強そうだものね。足を止めずに数的優位を作ることを心がけましょ。ケイは反省してるなら、イブちゃんに攻撃が来ないよう必死で駆けずり回りなさい、、、ね?」


 「了解いたしましたっ、エーコ様!」


 「え、どうしたのケイ君?! 何かエーコちゃんにしたの?」


 「いえ、なんでもありません! あと危険ですので半径2メートル圏内には入らないで下さい!」


 「おい始まるぞ、気合いれろ!俺達の絆を信じよう、ふああああいとおおおお!」


 「「「おおおおおお!」」」


 円陣から上がる声に被さるように戦いの始まりの笛が鳴り響いた。




 「さあ始まりました、決勝戦。最初に動いたのは、、、、3年生チームだあ!自陣中央から境界線まで一気に詰め寄り、お得意の高密度魔術爆撃だあ!!」 


 エドモア率いる3年生チームは、試合開始とともに敵陣に迫ると、魔術攻撃を障害物目掛けて放ち始めた。炎と氷の槍を四人が一定のリズムで放つ。その連射速度は1秒間に4回と恐るべき速さで、炎と氷でできた壁が続々と敵陣の障害物を爆砕していく。成人男性の背丈程の岩は、ゴリゴリと削られ、ケイ達の陣地に空白地帯が徐々に生まれていく。



 「何なのよ、障害物ごと蹴散らそうなんて馬鹿にしてるわ! イブちゃんハンマー出して貰えない?」


 「え? いいけど、多分あそこまでは届かないよ?!」


 「大丈夫、風の柱で打ち上げてみせるから!」


 「そっか! タイミングは任せるね、ストーンハンマー」


 イブが近くの岩に触れると、トゲトゲが成長して3年生チームの方向へと弾け出た。更にハンマー射出の瞬間にエーコがそのすぐ後ろで杖を振り、突風を生み出すと空気が割れるような速度でハンマーが飛んでいく。

 迫撃砲の様に相手に飛んでいったハンマーはエドモア達の動きを止めた。



 「おおっとこれは、一年生チーム巨大なトゲ付きハンマーが宙を舞う!! これにはさすがの三年生チームも回避に徹するようだあ! だがこの瞬く間に敵陣の五分の一を空白地帯に変えてしまった三年生の攻撃力たるや圧倒的だあ!」


 エドモア達の攻撃で出来た空白地帯は一年生チーム自陣の約五分の一に達していた。攻撃をやめた三年生チームは早くも、その見通しの良くなった空白地帯を駆け出し始めた。


 エーコ達が遠距離戦を仕掛けてる間、ケイとロームは前線近くまで進み、岩の影に潜んでいた。


 「敵は遠距離殲滅戦は辞めたらしい、全員突っ込んでくるぞ! どうするケイ?」


 「僕が三人引きつける。合図したら左側の二人に全力で攻撃を叩き込んでくれ。多分右側から一人抜けてくから、そしたらイブ達の所まで下がって早めに片付けて戻ってくれ。」


 「了解だ、ただ無茶はするなよ! すぐ戻ってくるからな!」

 

 「ああ任せろよ。3、2、1 セイっ!」


 横並びで迫りくる四人に向けて、ケイとロームは限界速度で攻撃を連射した。ロームは上位魔術である極太の炎柱"ファイアランス"をミサイルの様に9本連続で飛ばす。短杖が熱に耐えうる限界まで連射されたその攻撃は、巨大な爆炎を空白地帯に巻き起こした。ケイはエアコントロールを連発する。1発の威力は低いが、精密にコントロールされた連弾は、相手の呼吸を乱して足を止める。だが三年生も的確に攻撃をさばき、攻撃の密度が低かった右端から一人が抜けた。


 「イブ、エーコ、敵が一人そっち行くからそれまで攻撃は緩めるなよ! ロームは全速力で三対一を作ってくれ、こっちは持って3分だ」


 「「「わかってる(よ)」」」


 ロームは逆サイドを抜けた敵を一人全速力で追いかけ始める。相手も信頼があるのか、それともケイでは足止めにならないと判断したのか一人を先行させた。ケイはロームを見送ると、岩陰から立ち上がり魔術抄本と杖を両手に三年生3人と対峙する。



 「お相手よろしくお願い致します」


 恭しく行われたケイの決闘礼に、リーダーのエドモアが一歩前に出た。


 「時間稼ぎのつもりか知らないが、そんなに甘くはないぞ? 多少遅れたところでヌジャが一年生三人に負けることはないからな。ただ優秀な一年がいると聞いてな、せっかくだから手合わせしておきたいと思っていたんだ。ハンデ付きでどうだ?」


 「先輩方には小細工は通じないと思っておりますが、その上で僕は三人を信じております。先輩方にはここに後3分はいてもらいます。ハンデはくれるならほしいです」

 

 「ふ、フフっ、ははは! 不遜だなあ、お前! でも嫌いじゃないな、いい不遜な気がする! じゃあ、やるかっ!!」


 そういうと先輩達は左手に持った本をすっと突き出し、右手で指揮でもするように短杖を振り始めた。美しく伸びた背筋に、熱く優雅な手元の杖さばきは、まるでオーケストラの指揮者のようであった。そして三方向から押し寄せる怒涛の攻撃に、ケイは同じく待機させていた魔術を発動する。


 「"磁界生成"」


 ケイを飲み込まんと魔術の津波が押し寄せてきた瞬間、無数の黒い棒が壁となってケイの目の前に現れる。そして魔術同士が衝突した瞬間、会場を揺るがす程の爆発が起こり、土煙が辺りの視界を遮った。


 

 「おっと、なんという攻撃だあ!いくら非致死性加工されているとは言え、これじゃ無事か怪しいぞお!! 生きてるかケイくーん!」


 実況の声に、会場中が息を飲んでグラウンド中央を見つめる。



 「磁界生成」


 土煙の中からケイの声とともに、30本を超える黒い棒が飛び出し、三年生を急襲する。まだ視界が確保できないなか、飛んでくる黒棒を最小限で躱すエドモア達は笑っていた。


 「おい、凄いじゃないか!! こんな魔術見たことないぞ! これは何なんだケイ?」


 エドモアが土煙の中心に向かって叫ぶと、ゴホゴホとした声がかえってきた。


 「鉄は国家なりですよ、先輩。ゴホッ」


 「おお、あれは鉄かあ。 これはやばいかもしれんな。多少手荒でもいいか?」 


 「ゴホっ、お手柔らかに頼みますよ、ゲホっ」

 

 未だ互いの姿が見えない状態だというのに、エドモア達は杖を発動待機状態にして走り始めた。爆心地を取り囲む様に散開した三年生チームは、一矢乱れぬタイミングで杖を振るった。


 「「「アースウォール」」」


 墓石のような重厚感あふれる石がケイを押しつぶさんと勢い良く迫る。そしてそれらはケイがいるであろう爆心地を囲むように折重なりあい、堅牢な牢獄を作り上げた。さらにいつの間にか石材の上に登っている先輩たちが、その淵から石牢の中に無慈悲にも杖を振るった。さきほどよりも優雅で苛烈で、どこか楽しげなタクトの動きに合わせ、炎と雷と氷が一定のリズムで穴の底に注がれる。


 「あああっと、さきほどより苛烈かつ美しいまでに恐ろしい攻撃がケイ君を襲うううう! 大丈夫かケイ君、生きているかケイ君、早く姿を見せてくれ!」


 先輩たちが魔術で作り上げた巨大な石牢獄の外側に、小さな穴が一つ空いていた。その穴はまるで何か棒状のものを型抜きしたかのように、ぽっかりと空いている。そう人一人がなんとか通れるほどの穴の中にはボロボロになったケイがいた。そして呼吸は荒く、何か焦ったような表情をしてマイクに話しかけている。


 「やばい、やばい、やばい、あの魔術は非致死性加工されていない。さっきの炎がかすっただけで皮膚は焦げたし、雷槍のせいで左手が痺れて動かねえ。さっきからノイズがひどくてイブたちと連絡取れねえし、くそどうしたらいいんだ。」



〜*〜*〜*〜


 ケイが上級生3人相手に獅子奮迅の働きを見せている頃、イブとエーコとロームは、武闘派で名を馳せるヌジャ先輩と対峙していた。ヌジャはそのスピードを持って敵陣を疾走し、瞬く間にイブとエーコへと肉迫した。


 「女生徒だろうが等しく倒させてもらう、隆起せよアースウウォール!」


 ヌジャの足元へ石壁がせり出し、ヌジャが空高く舞った。空中から下方向に向けて魔術を連打するヌジャと、アクアウォールとファイヤーボールでそれらを防ぐイブとエーコ。さらにヌジャは緩やかな放物線を描きイブたちへと空中を一足飛びに迫る。その姿勢は矢尻を思わせるような鋭い飛び蹴りの型をしていた。エーコも瞬時にアクアウォールに切り替え、2重の水壁で弾丸のようなヌジャに備える。インパクトの瞬間、水壁は弾け飛び反動を受けたイブとエーコは一塊になって吹き飛ばされてしまった。

 

 「ローム! まだなの? ちょっとヤバそうなんだけど」


 「すまないあと少しだ、持ちこたえてくれ!」


 ロームは走った。前方の岩場からは水しぶきがもう間近で上がっているのを今も見ていた。少しでも早く辿り付くために岩に体を擦りながらロームは走った。もうこの先だという時、イヤホンに通信が入る。


 「私が今からとっておきを出す。相手が強くて、最初の1回しか隙を作れないと思うから、確実に仕留めてちょうだい。ウインドビームを使ったら合図だと思って!」


 「ああ、頼む」


 マイクに囁いたエーコは隣にいるイブにもなにがしか指示を出す。そして上着のジャケットを脱ぎ捨て、ヌジャの前に仁王立ちになっった。


 「先輩、私と勝負してください! 私こう見えて、腕に覚えがあるんです。アクエリウス家の者といえばわかってもらえるでしょうか?」


 「なんと、古豪アクエリウス家の者か! それはこちらから手合わせを願いたいくらいだ。いいだろう暫しの間、お主に場を預けよう」


 そういうが早いかヌジャは半身になって、独特の構えをエーコに向けた。片やエーコは自然体で瞑想している。両者の間に気が満ちていく。

 そして先に動いたのはエーコだった。短杖を逆手持ちに持ってヌジャめがけて疾走する。ヌジャの間合いに入ってからは、凄まじい速さで打ち合いが繰り広げられた。エーコのすらっとした長い足が首を狩ろうと一閃すれば、それを首の皮一枚切らせて避けて、体をひねって掌底打ちを放ち、エーコはそれを逆足で受け流した。だが一撃の重さが違ったのか、すぐにエーコが押され始める。エーコが攻撃を受けきれず体を流してしまった瞬間、勝負が動いた。


 「もらったあああ」


 ヌジャの追いすがるような執拗な拳があとずさるエーコを沈めるはずだった。だがエーコは加速した、ヌジャに向かって。エーコの後ろでは吹き荒れる風の柱が風切り音をごうごうとたててエーコを押した。


 「ロームいまだあああ!」


 流線型の脚をヌジャの腹部にめり込ませながらエーコは声の限り叫んだ。ジャケットと一緒に置いてきたトランシーバーにロームの声が響く。


 「“アイス・ソウ”」


 エーコとヌジャの真横にある岩間から弧を描きながら氷の円盤が目にも止まらぬ速度でヌジャを襲った。姿勢を崩していたヌジャは避けられず、残虐なまでに高速回転した氷刃を、その胸の紋章にまごうことなく受けてしまった。紋章からは色が消えエーコ達が生き残ったことを示していた。



〜*〜*〜*〜



 グラウンド中央部の空白地帯では、新たに隆起した岩のオブジェの上でエドモア達がケイを探していた。未だ砂埃立ち上るためケイとの決着の行方が確認できないのだ。


 「あれ、まさか怪我してるとかじゃないよね?! ケーイ、大丈夫かあ? すまんやりすぎた!」


 ケイは未だ小さな横穴の中で一人思案していた。


 「まず先輩達に殺意がないことが問題だよな。闘志はあるけど殺気が微塵もないんじゃ、事故か先輩達も利用されたとかだけど。ここで試合をやめると、多分先輩達の未来はなくなるよなあ。さっき雑音混じりに聞こえた感じだとあっちは勝ったっぽいし、ここを乗り切れたらベストなんだよなあ。しょうがないやるかあ」


 ケイはもぞもぞと横穴から這い出して、巨大な岩のオブジェの上でキョロキョロする先輩に声をかけた。


 「せんぱあああい、そろそろ体力の限界なので次で最後にしようと思います。さっきのお返し受けてくれますかああ?」


 ケイはトランシーバーの出力を調整しながら先輩へと声を上げた。


 「おお、ケイ! よかった生きていたか! さすがに心配したが、いらん世話だったな! いいだろう全力でぶつかろうじゃないか! 」


  ケイはその間にマイクを口元に寄せて、やっとつながったイブ達に声をかける。


 「イブ聞こえるか? もう一度ハンマーを頼めるか? 狙いはこっちで制御するからエーコと強力して全力全開で頼みたい。あとローム急ぎで戻ってきれくれ、後詰めを頼む。」


 「ケイ君無事な、ん、だよね! わかった、がんばるよ!」


 「・・・あとで話しを聞かせなさいよね」


 「もう戻ってる、俺が着くまで踏ん張れよ」


 「ハンマーはロームが勝負の片をつけるまで頼む、じゃあ各自健闘を祈る」


 

 ケイは通信を終えるとトランシーバーや、道具類を全て放棄して岩上のエドモアへと正対する。


 「じゃ、行きます。鉄棒精製、磁界生成」


 ケイが魔術発動を告げると、急に陰り始めた。エドモア達は顔を上げると驚愕する。そらを埋めつくさん限りのトゲ付きハンマーがグラウンド中央をめがけて飛来していたからだ。


 「おいこれは、冗談きついぜ。もう同調の必要はない、各個己の全力で撃ち落とせ」


 エドモア達もすぐに迎撃の体制に入る。狙いなんか二の次でとにかく魔術を連射した。学園最強のエドモア達の全力は、ロームやエーコの連射速度を軽く超えていた。対するケイは少し離れた岩の上で一心不乱に杖を振った。その一振りでハンマーの軌道がずれてエドモア達へと振り注ぐ。


 だが一級品の杖捌きと魔力制御による速射はその速度をまし、ケイ達によるハンマー攻撃の物量と均衡を見せ始めた。互いにあと一歩が足りない状況に陥った。





 「くそこのまま行けば負ける。多少の破片は気合でカバーして、術者本体を狙うぞ」


 「「了解」」


 少しの膠着の後、エドモア達3人が先に動きを見せる。上空に浴びせていた濃密な魔術攻撃の3分の1をケイへと注ぎ始めたのだ。上空へと立ち上る煌めく奔流が根元で枝分かれし、小さな輝く魔術の奔流が地上を這うようにほとばしった。


 「くそ! 止まれえええ」


 その輝く奔流をせき止めるように大量の無骨な黒鉄棒がケイの前にせりあがる。だが強大な荒れ狂う勢いに耐え切れず、その内の幾本もが彼方へと吹き飛ばされていく。だが、その後から後から鉄棒はせりあがり、ボロボロな防波堤をケイの前に築いていった。


 10秒、20秒、いや1分経ったころ、ハンマーは検討違いな方向に飛んで行き始めていたし、上空へ放たれる魔術の量も密度も激減していた。あたりに立ち込める粉塵は互いを隠し、試合の行方も未だくらませていた。

 

 「アイス・ソウ」


 だがそんな濃密な粉塵の中、エドモア達の魔術光を頼りにロームはアイス・ソウを体を回転させながら弧を描くように放った。更に、その場で舞うよう3回周り続ける。音も無く高速回転する氷の円盤は、捕らえづらい軌道を描きエドモア達3人の胸元へと高速で吸い込まれていった。


 粉塵を突き破り上空へと打ち上がる魔術攻撃はだんだんと細くなり、やがて潰えてしまった。

 

 「イブさん、攻撃は中止してすぐにこっちに来てくれ。ケイの無事が粉塵で確認できない。一緒に探してくれ頼む。」


 「すぐに行く。」


 ハンマーの雨が止むと、次第に粉塵が腫れていった。


 グラウンド中央に急ぐイブとエーコは、空白地帯の端でボロボロになりながら立ち尽くしているケイを見つけた。服はボロボロでシャツは既に無くなり、その上半身の至るところにはひどい火傷や霜、雷が落ちたような跡が見られた。だが魔術紋は最初と変わらない色で胸の中央で存在を主張していた。イブはそんな悲惨な姿を見ると、半狂乱になりながらケイにすがりつき、動かなくなった。

 エーコもその尋常ではない傷に顔色を変えた。ロームに救護班を呼ばせ、イブを引き剥がしてケイの脈を測り、水壁で丹念に汚れを落としながら応急処置に全力を注いだ。救護班の遅い到着にイライラしていると、ちょうど靄が消え去り審判と会場も勝負の結末を目にすることになった。エドモア達の魔術紋から色は消え去り、ケイ達の魔術紋は健在であることが指す示すのは一つ。


 「しょ、勝者は、第一学年Aクラスチーーーーーーム!!!!!」


 会場中から歓声が空に轟いた。驚愕、怒号、狂声、歓喜、興奮、区別のつかない感情がひたすらに空へと沸き起こった。だがローム、エーコ、イブはひたすら遅い救護班にしびれを切らし、悲痛な悲鳴をあげていた。

 


 救護班が来たのはそれから3分後。意識のないケイにすがりつくイブと、そんな危うげな友人二人に付き添ってエーコが会場を後にした。ロームは飛び出したい気持ちをなんとか我慢して会場に残り、その後の処理を一人で一手に引き受けた。


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