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錆び龍の谷へ

”錆び龍”は、金属の外骨格を纏うドラゴン種のモンスターである。

超硬質の体で空を裂き、音よりも速く自由に空を舞う、空の戦いにおいて他種の追随を微塵も許さぬ空の覇者である。


その体躯は成体でも全長10m程度とドランゴ種にしては小ぶりではあるが、人類の武器や魔術ではその鎧を貫くことはできないし、音速の壁を悠々と超える特殊な飛行器官を持つ彼らを捉えることさえ至難を極めるのだ。


彼らは人類種が対立すれば絶滅必死となる危険生物である。

”絶滅脅威度”は8、「人類が逆らってはならぬモンスター種」と定める。


       「絶滅脅威種図鑑 第26巻」より






「…それで、錆び龍の谷っていうのは全ての錆び龍が産まれ、全ての錆び龍が死に場所とする彼らの聖地といわれてる。今年も世界最凶スポット100選に堂々選ばれてるし、超がつくほどの危険地帯だね。ここまではOK?」


ケイは一人うんうんと深く頷きながら鉄馬の手綱を操って、ごろごろとした岩が無数に転がる山肌を進む。

ケイが操る鉄馬には、小さなマチコがケイの胸を背もたれのようにして座りと、ケイの背にひしっと掴まるギギギが乗っていた。頭上を過ぎていくケイの説明にムムッと表情を強張らせたマチコは、後頭部でケイの胸をグリグリと抑えつきながら口を挟む。


「ケイはまだそんな俗説を鵜呑みにしているんです?! 聖地だなんてあやふやな言葉でくくって、探求をやめてしまうなんてナンセンスきわまりないです! いいですか、錆び龍はこれから行く谷以外での繁殖や出産、老衰をしないという希少な生態系をとる種なんです。その死に方もかなり特殊で、谷の最奥で骸に重なり合うように死を迎えるらしいんです。幾千、幾万の錆び龍の死体が深い谷の奥底で、山のように積み重なり真っ黒な山にも見えるその龍の墓には、絶対になにか秘密があるはずなんです。今回私達が目指すものもその龍墓にあるんです、ついでに秘密も暴いてやるです!」


ケイ達の隣で鉄馬を走らせるロームとクレアは、そんなマチコの話を聴きながら揃って顔をしかめ、眉をひそめた。


「ん? マチコさん。そういえばまだ何を掘りに行くのか聞いてなかったのだけど、なにか希少鉱石でもあるの? 例えば、まさか、錆び龍の屍体を盗むなんて話じゃないよ…」


「え、そうですよ? 錆び龍の谷の最奥、禁足地で良さげな屍体を掘り掘りしてですね…」


「ちょ、っちょっとたんま! それはさすがに危険すぎじゃ?! あ、金属の体が欲しいなら、はぐれの錆び龍でも落とすとかじゃだめなの?」


「そ、そうでござる! ケイ殿の武器なら遠距離から安全に倒せるんじゃなかろうか。」


それを聴いていたケイの瞳からすーっと灯りが消え、まるで自分に言い聞かせるように一人ごちる。


「実はそれはもう試してみたんだよ。特製の大型レールガンで100mm徹甲弾を辛うじて一発当てることができたんだけど、ちょっと傷がついたくらいでさ、およそノーダメージ。むしろ反撃にあって、死ぬとこだったよ。あれは地面に這いつくばったまま、倒すことなんて無理だわ。相当頑張ったんだけどなー、ほんと無力でさー、人間なんてほんとゾウリムシだよ。ジェット飛行機のフレームと推進機関に錆び龍のフレームはぴったりだというのに」


「・・・な、なんて危険な真似ごとを。あと錆び龍を発明の材料扱いするなんて、絶対怒られるでござるよ」


「それでですね、ちょっと行き詰ってしまったんです。でっ! 私が錆び龍の谷の龍墓なら、ほぼ完全な龍のフレームが無傷で手に入るんじゃないかとケイさんに提案したんです! ふふんっ!」


「オぅ、なんて余計なことを」

「不遜でござる」

「マチコチャンメ、余計ナ入レ知恵ヲシテカラニ」


ローム達は、ケイ膝の間にちょこんと座り、どうだと言わんばかりに胸を張るマチコをじとっとした目線で見つめた。その冷たい視線にケイもポリポリと頭をかきながら気まずげに愛想笑いを浮かべる。


「まあ結果的に、マチコちゃん自身もこうして連れ出されているんだから、勘弁してやってよ。逆に倒すより安全で確実な方法かもしれないし、やってみる価値あると思うんだよ。錆び龍の体は100年くらいでは朽ちないみたいでさ、きっと黒錆びか黒色酸化かな、抜け殻になった金属外骨格と飛行器官を無傷で手に入れられる現実的なチャンスなんだよ。それに皆だって空を飛んでみたくない?」


「ん、そういえばケイ? 昔聞いた時はプロペラで飛ぶ、確か、レシプロ機って言ってなかったか?」


「フフフ、時代は流れたのだよローム君。どうせやるなら、ジェットですよジェット!」


錆び龍は金属で出来た重たい体を、ジェット推進の様な器官を使って高速で飛ばす。音速の壁を突き破って飛行するその様は、まさしく旧世代の空を埋め尽くしていたジェット飛行機であった。

ジェットエンジンのような飛行器官、硬さと柔軟さを両立した金属の体、そして流線型の2つの翼、どれをとってもまさにケイが求めている材料だったのだ。


「ローム君はネイチャーモデリングという概念を知っていますか? 自然界の動物やモンスターは不思議なことに自分の体を最適な条件に進化させ続けるのです、それも短期間で。その姿は、ちんけな人間では想像もつかないような芸術的な最適解を持つんですねー。遺伝的アルゴリズムによる最適解の導出を、実世界で見事に体現しているあの姿は、まさに神がかっているとしか言えない。そんな神の摂理に触れられる喜びをですね・・・」


いつの間にか変なスイッチの入ってしまったケイの耳にはロームの抗議の声は届かず、それからの数時間の行軍の間よくわからない話が続いた。


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