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産業革命五年目

— ナカツクニ連邦の首都セントレーヌ


 職人が集う街工業区には、今日も熱のこもった人々の声と金属加工の音で溢れている。どの工房の煙突からも、白い煙がモクモクとたち上り、店先からは商売文句や親方の激が飛び交う。五年前でと十分に活気があったが、いまはそれを遥かに超えて賑わっていた。国内、いや世界中の商人達が競うように買いつけに来ていているのは、電子部品だった。

 抵抗、コンデンサ、ダイオード、トランジスタを始め様々な電子部品が多くの店先に並び、金銀玉鋼程の価値を持つ電子部品が飛ぶように売れていく。道を歩けば右にも左にもお宝が溢れるれるこの街を、商人達は“黄金都市”と呼ぶほどだった。


 ケイ達の商会が起こした産業革命から5年経ち、人々の暮らしの中に旧世代の科学が浸透し始めていた。生活レベル的には、魔術に頼っていた部分が科学に置き換わっただけで、あまり変わっていないとも言えたが、確かなことは科学技術は驚く程の速度で世界に浸透したとということだ。家電製品の成長なんかは大変に目覚ましい、街中や家にある魔術灯は電灯に、竃だって電子式オーブンに、ソロバンなんかは電卓に置き換わりつつある。値段はまだ高いものの、簡単かつ便利な家電製品は人々の心をがっちりと捉え、空を飛ぶ大型ドラゴンさえ吹き飛ばす勢いで売れに売れていた。そして数多の商会がー山あてようと製品開発に力を注いでいる。

 というわけで産業革命の爆心地であるセントレーヌは、これまでになく活気

づいていた。




 新緑の香りに染まった春の風の中、街も、人も、馬も、荷車もこの物語の主人公であるケイも力強く前へ前へと駆けていた。


「代表、まだ3分の1なのに死にそうじやないですか。自分で言ったんですよ、”心臓爆殺坂なんか 子供だましだ。あんなの重りつけて走って登れるね”って。はいドンドン駆けちやって下さい!」


「ぜえ、ぜえ、だからって、こんな鉄塊100kg引いてでなんて、ぜえ、聞いてないし。ぜえ、ぜえ、 荷物の配達ならオート2輪使うとか、輸送業者とかあったんじやない?」


「オート2輪はいまメンテ中なんですよ、そもそも100kgなんて引ける馬力ないですし。……シロイヌ運輸には足元見られたので喧嘩しました。」


「ええ……、ミンメイさん喧嘩はだめでしよ。ぜえ、ぜえ、ミヨシさんに、言っとくからね。ぜえ」


「40万ですよ、配送料だけで40万! 赤字になりますよ!」


「なに! ぜえ、それは許せん! あのはげの犬顔商会長め、気を抜くとすぐこれだ!」


「お、ちょっと早くなったっ! その調子ですよ、代表! それとこの後の予定はですね、都市通信公社の会合と、大手電気部品商会2社とのコンサル打合せですね。」


「うーん、行かなきゃだめ? あ、他の人で良くない?」


「……イブさんとテスラさんに言いつけますよ? というか皆出払ってます、代表が仕事サボる穴埋めのために」


「くそう、そうだった。暇なのはクレアおじさんくらいしかいないけど、クレア伯いないと食堂の飯がまずくなるからなー。」


「代表、クレアさんはそもそも営業行為禁止です。前に頼んだとき、モンスターを商談に連れていって訴訟沙汰になったじゃないですか。」


「くそう、そうだった。はっ、僕もモンスターを体に巻きつければいかなくて済むんじゃ・・・」


「(昔は鬼気迫る感じでかっこよかったのに、今や弦の切れてしまった弓ですね)」

「え、なんか言った?」


「言ってません! さあ、きりきり走って下さい! 会合はサボっていいですけど、コンサルの打合せは出てくださいね」


「やった! ミンメイさん話わかるぅ。よし術式も書けたし、ミンメイさんしっかり台車に捉まってくださいね。それ”重力制御”」


「(まじめにやればいいんだけどなー、まあドウルジ教壊滅っていう目的もなくなったし落ち着いたのかなー)」


 ケイはミンメイと鉄塊 100kg を乗せた台車を、魔術で浮かせて軽々と引っ張りながら、傾斜28度の急坂を風のように駆け上がっていった。




—ナカツクニ連邦首都セントレーヌ 工業区5番街 ファミマート食堂


 7年前にケイと4人の仲間達で始めたファミマートは、今や従業員数500人を超える大商会へと成長を遂げていた。その主力サービスは生産技術コンサル及び生産用設備の販売である。かつてはギルド向けにダンジョン用装備や時計や電卓なども取り扱っていたが、いまはもう製品としては取り扱っていない。


 その理由は、ハンターズギルドは技術開発部を立ち上げたし、大中規模の商会が電子機械の開発部署を立ち上げたので、権利として売却してしまったのだ。産業革命から5年経った今はそのおかげもあり、各有力商会が持つ技術力が高まり、日夜めまぐるしい製品開発競争がセントレーヌを中心に繰り広げられている。

 そのおかげか、機能を便利にしたい、もっと軽くしたい、もつと頑丈にしたい、もつと安く、もっと早く作りたいと、ファミマートへと飛び込んでくるお客さんが増えファミマートも盛況を極めていた。多忙を極めるケイ達面々だが、 今も昔から変わらずに続けている習慣があった、“晩御飯の時はみんなで食卓を囲む”というものだ。社員食堂の1卓を仲間で囲み、その日あったことや愚痴を話し、ときにはゲームをして束の間の時間を共有する、それがケイ達の仲間の習慣だった。今日も食堂の端のいつもの卓にはケイをはじめとした面々が集まっている、イブだけでなくエーコ、ロームとダブもいつものように座っていた。


「今日はエーコちゃんとローム君、ダブ君がナカツクニ連邦のセボン国大使館に来てから1年ということで、 お祝いのケーキとプリンを焼いてみました。またケイ君の友達である私達3人を快く受け入れてくれたファミマートのみなさんへの日頃の感謝の気持ちでもあります。楽しんで頂けたら婿しいです。」


 イブが全員にお茶をよそいで回りながら、ペこりぺこりと頭を下げた。




 イブは4年前に、エーコとローム、ダブはちょうど1年前に、ここセントレーヌのファミマートへと来ている。イブは社員として、エーコとロームはセボン国の大使として赴任しているが、いまではすっかりと馴染み切り、公私ともになくてはならない存在となっていた。

 特に、 エーコとローム、ダブは隣国で始まった産業革命を学ぶという名目でセントレーヌへと赴任したが、ケイが“じゃあ、ー緒に仕事したらいいじゃない、出向にしよう。ファミマ学園長に掛け合ってくるわ”と、底なし滑のマドハンドのように取り込んでしまったという経緯で現在に至る。そんな若者4人にテスラが大きく首を振った。


「わっちらは、もうすっかり仲間じゃないか。というか、むしろ感謝しないといけないのはワッチらだ。常識人である4人が来てくれてなかったら内の代表の手綱を握りきれなかっただろう。とくにイブは4年前に単身来てくれて感謝しきれないよ」


 そんなテスラの言葉にミヨシも強くうなづいた。


「そうです、そうです。ケイさんを始め、ギギギさん、クレアさん、ミンメイ、あとマチコさんも常識というものをどこかに放り投げてしまってるんですよ。ここまでやってこれたのはみなさんのおかげです。改めてありがとうございます」


「「「「いえいえ、そんな・・・」」」」


「ぶーーーーー

「ブーーーーー」

「ぶーーーーー」

「ブーーーーー」


 蚊帳の外にされたケイ達からブーイングが上がったが、テスラとミヨシは無視してイブたち3人と硬く悪手を交わした。




 デザートの時間が進むと、ふとケイがマチコをみて、思い出したように尋ねた。


「あ、そうだマチコちゃん、例の設計図出来た?」


 マチコはすすっていたお茶を丁寧にカップにおいてエホンとーつ唆払いした。小さな胸を精ー杯張って自慢げな顔をしてケイを見返した、それだけでケイの質問の答えはみんなへと伝わったのだが、ただ、ケイの質問の意味だけ

が謎だった。そして、こういうパターンは得てして良くないことが起きることをこの数年で皆が気付き始めていた。


 代表代理、NO2であるテスラが遅る遅るケイへ尋ねる。


「ケイ、今度は何をするつもりだ?」


「あれ、言ってませんでしたっけ?」


「ケイ、お主が何か企てる時は何も言わないじゃないか。早く白状しろ」


「フフフ、今度のは驚きますよー。マチコマシーン第13号はですね、なんと、飛行機です!!」


「……なんだ、それは?」


 ガタッ!!!


 押し黙るテスラの代わりに大きな音を立ててロームが立ちあがった。それまでプリンへと注いでいた視線をケイへと向ける、その瞳はゆらゆらと燃えていた。


「・・・とうとう飛行機が実現できるというのか。人間は重力という模から解き放たれ、そらを鳥のように舞うことが出来るようになるのか?」


「ローム君、覚えていましたか? 若かりし時分、一緒に部室で夢のように語りあったあの飛行機を、ついに、ついに実現する時が来たのです!」


 2人の芝居がかったわけのわからない会話に全員がシンと押し黙った。ふー、というエーコが溜息を吐く。


「イブちゃんまた始まってしまったわ。テスラさん、ミヨシ代理、先ほどはああいう風に我々学院組をほめて頂きましたが、実はローム子爵はあっち側の人間なのです。実は・・・」

 エーコが、唖然と口を開けているテスラとミヨシへと申し訳なさそうな顔をして、イケメンの残念ぷりについて説明を始めた。

 学生時代、だいたいの場合においてケイと一緒になって暴走してしまう癖

を、面白おかしく話して聞かせた。


 エーコの思い出話しでさらに立場が悪くなるケイとロームと非常識人チーム、その劣性をひっくり反すべくケイは右手を天井へ向けて振り上げた。


「おい、そこの常識人ども、きっと見返してやるぞー! そして非常識人よ、立ち上がれ、今こそ飛行機を作り見返してやる時だ! というわけで今度の休日は錯び龍の谷に穴掘りに行きます。ミンメイさんを除く非常識人は全員参加です。あと雨天決行です、よろしく」


「へっ・・・・?」

「はっ・・・・?」

「ひっ・・・・?」

「ふっ・・・・?」


 ケーキとプリンをおいしそうにほおばっていたギギギとクレアとロームとマチコの手が止まった。


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