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INT 転生前はエンジニアをば営んでおりました  作者: 猫野美胃
2章 ナカツクニ連邦編
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邪教都 アクロポリス3

マチコは困惑していた。


なぜなら、本日研究室見学に来た学生のケイとギギギは実は話題沸騰中の異端者で、なんやかんやで二人とともに自分の故郷で命からがらの逃走劇を繰り広げる羽目になったからです。ケイは私が作成した高度な魔術器の価値を正しく理解してくれたし、それにちょっとだけカッコイイかなと思っていたのに、何が何やらです。


マチコは混乱していた。


なぜなら、この世界はずっと昔に高度な技術文明を築いていたという歴史を持っていたからです。ドゥルジ教の開祖が編み出したとされていた秘術は、実は過去の人類の叡智だったなんて、ちょっとまだ信じられない事実です。きっとオツハ様を始めとした幹部しか知らないことなんでしょう。


マチコは倒錯していた。


なぜなら、ケイが旧世代の膨大な叡智を持っているというからです。本人は前世の記憶なんて言ってましたけど、本当に意味わからないです。ただ、さっきから追手を悉く返り討ちにしているレールガンとやらは、間違いなく高度な電子工学が使用されていますです。その構造は複雑かつ信頼性が高く、悔しいけど私より電子工学に詳しいことは明らかです。


そしてマチコは達観していた。


私は電子工学を修めていますが、あくまでオツハ様みたいな人類学者になりたいのです。研究者たるものフィールドワークが肝心です、もう研究室に押し込められているのにも飽き飽きしていたところなのです。この機会に世界と、人と、自分自身を知ろうと思うのです。これはオツハ様のスパルタ式の課外授業、つまり大きなステップアップの機会と思えば願ってもないチャンスです。それにケイもギギギも、根はやさしそうだしきっと大丈夫なのです。






 戦う人類学者“乙葉”との激闘の後、ケイとギギギはマチコをかばいながら追手の猛追撃をかわしながら地上を目指していた。ケイは使えなくなったボロボロの右腕とマチコをかばいながら慣れない左手で魔術を繰り出し、 ギギギはそんな2人を守るように行く手を防ぐドウルジ教の屈強な兵隊達の壁を両手に構えるレールガンで吹き飛ばしていた。ケイ達が載ったガーデンの奥にあるエレベータは、地上近くの非常出口近くまで3人を運んでくれたのだが、残念なことに非常口を張っていた警備隊にみごと見つかってしまったのだった。ケイは周囲を囲むドゥルジの兵隊達から視線を外すことなく、背後にいるマチコに文句を言っていた。


「なんで人質の効果がないんですか、マチコ先生! さっき人質だぞって刃物突きつけたのに、あいつ等返す言葉とともに一斉攻撃してきましたよ?! 人質甲斐なさすぎじゃないですか?」


「私がー番悲しいんですけどっ! 全体主義なのはわかるけど、味方から撃たれるとか思想疑っちゃうんですけどっ! これまで、結構この地下都市に尽くしてたのになあ……。 あ、守ってくれてありがとうございます……」


「いやむしろ巻き込んでごめんなさいと、が、あのおばさん絶対こうなることわかってただろ。マチコちゃんを人質にすれば大丈夫みたいに言ってたけど嘘じゃんね」


「ケーーイ、次デ最後ノカートリッジ、一気ニ抜ケヨウト思ウガ付イテコレルカ?」


 その間も守備隊からは横殴りの雨のような魔術攻撃が出口を目指すケイ達3人に降り注いだ。ギギギは飛んできた火炎球を蹴りで揺き消し、レールガンの弾丸を四方八方にばらまきながら前進を続ける。ケイも魔術で生み出した鉄柱を壁にして、猛攻を何とかしのいでいた。



「マチコ先生、この先の出口は地上でいいの? その後の先導は頼めますか?」


「そうあと少しです。でも、あの数のガードをどうするのです? まだわんさかいますよ?」


「マチコ先生ちょーっとだけ目と耳を覆わせてね。ギギギ、スタングレネード、3、2、」


「了解、フラッシャウ!」


 ギギギはレールガンの弾丸をフルオートで撃ち切ると、腰のスタングレネードを有るだけ周囲の中空へ放り投げた。スタングレネードの閃光は真っ黒な洞窟をー瞬だけ真っ白に染め上げ、暗転の後に屈強な警備兵たちを諸共地面へとひれ伏せさせる。あちこちで上がる呻き声の中を、サングラスをかけたギギギとケイはすり抜け出口へとひた走る。洞窟の中でサングラスをするなんて思わなかったなと思いながら、ケイはマチコの手をひきながらとうとう地上への出口をくぐるのだった。




 洞窟の暗闇を抜けると、そこは常闇の森林だった。あたりは湿った空気と腐った枝葉の匂いが満ちる大森林で、高く伸びる木々の隙間からさしこむ月光だけが唯一の灯りだ。雑木に隠れた出口を抜けた3人は、ギギギを先頭に大森林の闇に溶けこむように小走りで進み始める。ケイは懐から通信用のヘッドセットを取り出しミヨシへと無線連絡を取った。


「ミヨシさん、ミヨシさん! 聞こえますか?」


「...やっとつながった、ー体どこいたんですか?! 報告がありますが、とりあえず状況を」


「該当の村の地下に巨大な空間と都市があって、たったいまそこから脱出してきました。いまはドゥルジ教の協力者に森林を抜けるガイドをしてもらっています。ミヨシさんは無事ですか?」


「少し問題ありです、合流地点から離れました。つい先刻、巨大なトカゲが大森林に出現したのを高台から確認しました。その全長は木々の高さを優に超えています。」


「へ?」


「高台から確認できたのが3匹、馬車くらいの大きさの巨大な眼が特徴的ですが、出現してすぐに森の暗闇に溶けていきました。高い擬態能力を有していると考えられます。かなり分がが悪そうです、できるだけ急いで大森林から脱出して下さい。こちらはもうすぐ第4集合地点の森林入口につきます」


「ミヨシさん情報ありがとうございます、第4集合地点で落合いましょう!」


 ケイは通信を終えると、ギギギとマチコへとその内容を軽く伝える。


「というわけで、超巨大トカゲがいるようです。まだ心の整理ついてないでしようが、今は運命共同体のマチコ先生は何かご存知ないでしようか。」


「ごめん、巨大なトカゲはよく知らないです。多分インプリントモンスターだと思うですけど、軍事機密なのでよく知らないのです」


「そうですか、ありがとう。ギギギ残りの武装は?」


「スタングレネード1個とハンドチェーンソーダケ」


「そうか、僕ももう手榴弾くらいしかないや。とりあえず逃げるしかなさそうだな。ギギギにマチコ先生を頼めるか?」


「任サレタ、マチコチャン位4人ハイケソウ」


「ありがとう、もうそろっと右手が限界で。ペースは少し控えめでお願いします」


「オーケー、オーケー! マチコハサアノッテ」


 ギギギはマチコちゃんを背負うと軽やかに木々の間を走り始めた。木々の根から根へ飛び石でもわたるように跳ねていくその速さは、僕が全快だとしても遠く及ばないものだった。それから幾らの時間か大森林をマチコちゃんのガイドに従って通り過ぎた。進む間に、ギギギとの距離が結構空いてしまっていたが何とか頑張ってついていく。




 そんな折、ふと後方の暗闇が動いた気がした。

 慌てて後ろを振り向くが何もない、真っ暗な闇が広がっている。ただ、そこにあるはずの木々の幹さえも暗闇に取り込まれてしまったように何もなかった。不気味な暗闇を前に嫌な汗が、額と首筋を流れ落ちる。


〜ギュルン


 突然目の前の暗闇に二つの巨大な眼が浮かび、舌舐め釣りするように瞬きをした。巨大な二つの眼はそれぞれ別の方向へ、せわしないレーダーのように向いている。その中央で蠢く縦割れの瞳は、獲物を見つけて婿しいのかさっきから狂ったようにぐるぐると動き続けている。暗闇に浮かぶこの巨大で薄白い眼は、見れば見るほど不安な気持ちが揺きたてられたが、だがー歩でも動こうものなら未だ見えない牙と爪で一瞬で殺されてしまいそうな気がして、たじろくことすらできなかった。


 張り詰める緊張が時間の流れを停めてしまったかのように、数瞬の間がものすごく長く感じる。

 そしてとうとう、二つの目玉はもうこらえきれないといった様子で、目にも留まらぬ速さでこちらへと音もなく近づいてくる。ニつのギョロメは暗闇を音もなく一瞬でつめより、僕の体を悠々と覆ってしまう程の真っ黒な巨体をあらわにした。近くでみるとわかるのだが、黒々とした口は既に大きく開かれており、僕の体を丸のみにせんと覆いかぶさろうとしている。疲労と緊張からか殆ど脳も体も機能していなかった、ぼんやりと意識の中で終わりがそこまで近づいていることだけがなんとなく分かった。


 皮膚の一枚したをどくどくと流れる血潮のうねりがいやに耳に響く。

 抵抗する力も気力も、底の空いたビンのように体から溶け出していた。最後に走馬灯が流れないことだけ、少し不満に思った。





「”大裂界”」


 僕の目の前には、いつの間にかよくみた背中があった。そして、ちぎれたと思った僕の首はまだつながっていた。背中の主であるドンチャンは、大量の血しぶきを上げるトカゲの首と銅を背景にこちらへとゆっくりと振り返る。


「え、なんで?」


「同士ケー、なんだそのボロボロの格好は。右腕とか骨飛び出てるじゃないか。顔だって死人みたいな色をしているし、私はそういう戦いは好かんな」


「……」


「すごい何でって顔してるな、お前の仲間から要請がきたんだ。何でもするから助けを出してくれとな。そして私がこうしてここにいる、もう大丈夫だ。君の相棒と小さな女の子も仲間が保護した、もう大丈夫だから帰ろう」


 その言葉といつものドンチャンの笑顔をみた瞬間、僕の中に張り詰めていた最後の糸が切れたのか、意識がぷっつりと途絶えた。


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