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INT 転生前はエンジニアをば営んでおりました  作者: 猫野美胃
2章 ナカツクニ連邦編
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邪教都 アクロポリス2

僕たちに声をかけてくれたのはダフネさんという先端研究部門であるガーデンで日夜研究に勤しむ新進気鋭の見習い魔術師であった。つまりこの地下都市において栄えある特急魔術師のもとで修行を積んでいるエリートということだ。ダフネさんはガーデンの建物の前でぼーっと立っている僕たちをガーデンズに憧れる学生だと思ったらしく、「私も幼い頃はあなた達の様にただガーデンとガーデンズを見に来たわ、よかったら軽く紹介してあげましょうか?」と願ってもない提案をしてくれた。少し伸びた前髪と知的な丸メガネの奥に隠れる美しい瞳と軽やかな声に導かれて僕とギギギはツイツイ話にひきこまてしまう。同性であるギギギには早くも心を開いているようで、人懐っこい雰囲気で是非自分の研究を見せてあげると、ふんふん鼻を鳴らして僕たちを聖ジョナス学園の最奥“ガーデン”へと招きいれてくれたのだった。




 ガーデン内部は床も天井も全面が大理石で造られており、静謐な空間に僕らの足音がパタパタと響いていく。古びた紙と薬品の匂いが染み付いた空気でみちる廊下を進みダフネの研究室へと辿りつくと、そこはまさしく研究室といった感じに壁面を覆いつくしている膨大な本、試験管やフラスコなどの実験器具が僕たち3人を迎えてくれた。


「ギギギちゃん、ケイ君どうかな? これがガーデンの研究室の雰囲気だよ。地上なんかとは比べられない設備と資料、そしてそれに没頭するための時間が与えられて、私達は求めるままに知識の海溝へと潜っていける。この夢のような環境を目指すのなら、その航路はきっと険しいけれど、望んで努力して、自分を信じ続けてオールを漕ぎ続けられたら、きっと辿りつける場所だと私は思うんだ。」


「ダフネハ優シイナ、頭モイイシ、美人ダシ、コレハ凄クアリダ。ダフネノ御言葉ハ嬉シイガ、ギギギハ掛ケ算カラ苦手ダカラナー。マー、ダフネミタイナ人ガ働イテルナラ、ギギギガイナクトモ安泰ダ。トコロデ、ダフネハ何ヲ研究シテイルンダ? 人工太陽光発生装置カ?」


「私もなんとか拾って貰っただけだし、このチャンスを掴まないと次の適性職につくことになるから、いますごく頑張っているところでまだまだよ? ギギギちゃんやケイ君みたいな探求心のある学生に、ガーデンの雰囲気を味わってもらいたいのは優秀な後輩の勧誘も兼ねてるしね、フフッ。そうそう、私の研究テーマは“遺伝子”の魔術っていうの、地味だけれど凄く面白いのよ?」


「遺伝子、ナンダソレ?」


 僕は側から聞いていたその会話に衝撃を受けた。ダフネは何と言った? そう“遺伝子”だ、しかも前世の世界の言葉で遺伝子と言ってのけたのだ。今まで断片的だった事柄がある一つの線で結ばれていく様な気がして、頭の中で早鐘がガンガンと鳴り始めた。


「遺伝子の魔術っていうのはね、人間の身体の中に刻まれた人体を形作るための核を分析したりするの。例えば骨はこの形に大きくなるとか、心臓はこう動くとか、もの凄く重要な情報が核には入ってるの」


「へー、核ッテドコニアルノカ?」


「目に見えない程小さい細胞の中に、凄ーく凄く小さい螺旋があるの。“電子顕微鏡”を使ったって殆ど見えないんだから!」


「ホントカー? ココ二来テギギギヲ騙シテナイカ?? ギギギハダフネ見タイ二頭良クナイカラッテー。ケイ、本当カナ? ドウ思ウ?」


 まただ、ダフネさんはまた前世の言葉を使用した、“電子顕微鏡”と。この世界の地上の文明には質の悪い光学顕微鏡くらいしか存在しないのに、ここは一体どうなってるんだ。あまりの驚きに足腰が砕け落ちそうになったがなんとか踏みとどまってダフネ達へと笑顔を作った。


「ああ、美人で天才なダフネさんが言うんだから間違いないだろ」


「ソーカー! ケイガ、ソー言ウナラ合ッテルンダロナ。アッハッハッハ!」


「ギギギちゃんてば私の言うことは信じてくれなかったのにー、ムー。そう言えば人口太陽光について知りたくて来たのよね、ちょうど私みたいな若手の知り合いが今居るかもだから、ちょっと見てくるわ。それまで好きに見ててね!」


 そう言うとダフネは軽やかな足取りで研究室のドアを出ていってしまった。もう人工太陽光のランプなんか確かめなくてもドゥルジ教が、なんらかの手段で前世の技術を持ったのは明白だ。ダフネを拉致して更に情報を得るか、もう少し若き研究者に憧れる高等部の学生を演じるか決めないといけない。


「ギギギ、ちょっといいか?」


「ナンジャタウン?」


「……何時でもユーモアを忘れないな、全く。……ダフネを地上まで拉致する相談しようかと思ったけど、今ので気が抜けたわ」


「サッキノ笑顔二殺気ガ滲ンデタカラナ。ケイハ変ナトコデ大胆デ困ルヨ、ヤレヤレ。ダフネヲ担イデ地上ハキツイデショ」


トン、トン、っトン…ガチャ……


「…お邪魔しまーす、って私の研究室だよっ」


 そんな時、ちょうどノリツッコミを決めながらダフネさんが戻ってきた。そして、その後ろには小さな女の子が眠そうな顔を浮かべてついてきていた。


「ケイさん、ギギギさん紹介します。こちらがマチコちゃんです。見た目は幼女っぽく見えるんですけど、年齢は私と同じでギギギちゃん達より少しお姉さんなんですよ。彼女がさっき話した人工太陽光を扱う魔術師なんだよ」


 控えめな胸を張るダフネさんの後ろの見た目幼女は、クリクリとした目を動かしてこちらをジーと見ている。ダフネとのツーショットはまるで姉妹に見えるほどだが、これで年上というのだから人体の神秘である。マチコは僕とギギギのことを一通り見回すとつかつかとこちらまで近づいてきた。うわ、近くで見ると本当に小さいなマチコちゃん、僕のへそくらいしかないんじゃないか。


「私は“電気工学”の魔術師見習いのマチコです。あなた達はなかなか目の付け所がシャープネスだわ、電気工学の魔術は最強なんです。今日は徹夜明けでだけど、気分がいいからなんでも教えるわ、何が知りたいのかしら?」


「初めましてケイといいます、こっちの亜人はギギギです。南方からこのたびこの聖都アクロポリスまできました。人工太陽光農場でみた光るガラスの管がどうして暖かいのか、どうして明るいのか知りたくて、夜も眠れませんでした。」


「!! そこに気がつくとはなかなかやる田舎ものですね! 私の研究室に行きましょう、そこで現物をみた方が早いわ! おいでませ!」


 僕の質問を気に入ってくれたのか、マチコちゃんはクリクリの目を大きく見開いて輝かせ始め、よしいくぞーって感じで右手を上げて部屋をパタパタと出て行った。その様子をダフネさんはしょうがないなーって感じの表情で見送り、こちらへと目配せをしてきた。マチコちゃんを紹介してもらえたのは案外にもチャンスかもしれない、だって電気工学って単語を知ってるんだから。



 マチコちゃんの研究室はダフネの部屋を3つ分くらい繋げたような大きな部屋だった。その部屋には何本もの蛍光灯のようなガラス管が地面に突き刺さって立っていて、蛍光灯の草原に迷い込んだような気持ちになる。その草原の中央には少し開けたスペースに、大きな机と実験道具らしいものがごちゃごちゃと積んであり、マチコちゃんはその前でひっくり返りそうなほど胸を張って“どうだ!”と顔で語っていた。


「ケイさん! ギギギさん! これが人工太陽光の元となる“ランプ”です。このガラスの管の中にはフィラメントと呼ばれる金属の線が通っていて、電気を流すとこうピカッと光って暖かい熱を放つのです。」


 そういったマチコさんは地面に置かれたスタンドからガラス管を一本抜いて、電源装置っぽい道具へとつなぐとランプを光らせて見せた。それはまさしく前世の世界で極当たりまえに生活に浸透していた白熱式の電灯であり、電子がフィラメントの中を高速で動き巡った時に光と言う名前の電磁波を生じさせる白熱電球だった。黒鋼色のフィラメントの材料はタングステンなんかだろうか、前世にあったストーブをアホみたいな規模にしたのが人工太陽光発生装置の真実だとはっきりと理解してしまった。マチコちゃんの言った“電子工学”の魔術はまごうことなき電子工学だったんだ。そして、僕が知りたい真実はもう少し先にある、マチコちゃんよ頼むから教えてくれ。


「マチコちゃ、さん! 素晴らしいです、こんな魔術道具があるなんて全く知りませんでした。マチコさんは一体どこからこの魔術を習得されたのですか? まさか記憶の中に埋め込まれてたなんてことはないです?」


「おお、ランプの素晴らしさをすぐ気付いてくれるとは大変嬉しいですが、……後半は何を言ってるんです? 電子工学の魔術はこのガーデンで代々受け継がれてきた最高位の魔術の一つなんです。まあ、あまり知られていることではないですし、並の知識の及ぶところではないですからね。その昔、ドゥルジ教の開祖達が“王”より授かり、その術を磨きながら伝承してきたわけです。ケイさんとギギギさんはセンスがいいですよ、そこに気づけるなんてセンス有りです!」


「王というのは神様のことですか? あれ、ドゥルジ教には王様がいるのでしょうか? それともこの地下都市の王様ですか?」


「王は王です。どこどこの王様とかじゃなくて、王は全てのモノの上に立つ一人の存在ですからね。もちろんドゥルジ神とも違うし、この世界に今も存在してくださる存在です。まあ、これは知らない人の方が圧倒的に多い事実ですが」


「マチコさん、王様は存在してくれるって言ってたけど、今もいらっしゃるってことでいいの? 見たことあります?」


 謎に近づいたと思ったら今度は謎の王様とか出てきちゃったな。しかも開祖に教えたとか言ってたから、王様が今も生きてるとしたら化け物ってレベルじゃないんだが、どういうことなんだろう。聞かずとも、その疑問は僕の表情と眉間に凝縮されていたんだろう、僕の顔を見てマチコちゃんは可愛い顔を綻ばせながら手をパタパタと横に振った。


「違うです、違うです。“王”は役職みたいなもので、世代交代をしているらしいです。直接見たことはありませんが、人智も及ばない業を行使して、空高くにその城を構えていると聞いたことあります。そんな不安がらなくても、ドゥルジ教の開祖達が信じたように王は信じればいいものです。なぜなら、この地下都市と全体繁栄主義の都市システムを作り上げたのは、王のお力なんですから」


「それはどういうことですかマチコ先生?」


「先生! いい響きです! いいですね、物語形式でわかりやすく教えてあげましょうです。若干ギギギさんが立ち寝しているので、奥の居間に移ってゆっくり話をしましょうか。」


 そういうとマチコちゃんはランプのガラス管を地面に差し戻して、蛍光灯の草原を奥の扉へ向かって歩き出した。話に夢中で忘れていたが、あまりの退屈さに立ち寝を決め込んだギギギは、ダフネが支えてもらってなんとかたっている状態だった。これが罠だったらこの子はどうするつもりだったんだろうか心配だ。




 その後、マチコちゃんの研究室の応接兼居間兼居住スペースで話を聞いたのだが、大まかなところで前世の世界の科学技術をこの世界に持ち込んだのは、“王”と呼ばれるものたちで間違いがないことがわかった。マチコちゃんの電子工学然り、ダフネの遺伝子工学しかり、れっきとした科学技術を何百年以上昔からこの世界にもたらしていたらしい。またドゥルジの教えに賛同を示した王なる存在は、その昔に科学技術を高位魔術と称して適正のある人間に伝導し、更にこの地下都市の都市制度までも整えたらしい。マチコちゃんが言っていた全体繁栄主義とは、この学園に通う学生の運動機能や魔術、性格や職業適正を徹底的に数値で測って、合理的に仕事を割り振る社会システムらしく、ドゥルジ教が過去より異常なまでの力を持って繁栄をつづけてきた理由が理論上はわかった気がした。当然そういった社会制度は人の弱さによって腐敗していくと指摘をしたが、そこでも天高くおわす“王”が常に都市制度の検閲や更新に携わることで内部腐敗のリスクを回避してきたという答えが帰ってきたときには、本当に舌を巻いてしまった。ただ、この“王”というのが食えなくて、ドゥルジ教徒に報酬は求めないらしい。なんでも恭順を示すものには無償の愛を注いでくれ大きな存在らしく、過去からただただ親切な隣人を貫きとおしているということだ。


 そしてマチコちゃんは今、特別にあるものを僕たち3人に見せてくれるために奥の金庫にいってくれている。それはガーデンズの中でも限られた人間にしか配られていない不思議な石版、王から手紙をもらえたり、話したりすることができる石版、俗称“つながりの石”だ。

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