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INT 転生前はエンジニアをば営んでおりました  作者: 猫野美胃
2章 ナカツクニ連邦編
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ファミマートへの初依頼

 僕たちの商会が南の街シャンピンで始動してから約4ヶ月、ここ首都セントレーヌで拠点を構えてから約1ヶ月がたった。ファミマーの皆もここでの生活に慣れてきて、日々を忙しく暮らしている。業務分担はざっと次のような割り当てになっているが、今後人手が増えればもっと楽になるだろう、人手が増えれば。テスラは代表代理として現在抱えている案件、シャンピンギルドへの製品の卸しと上がりの徴収をギギギと一緒に賄ってくれている。ギギギは僕と一緒にガスマスクのフィルターだ、エアドローンの電子部品や基盤やらを組み立ててくれている。現状他頼めるのはギギギだけなので、2人でずーっと生産工場で籠りっきりになっているのだけど、最近のギギギの流行りはオリジナルソング作りだ。オリジナルソングといっても“はんだ〜付〜けなら〜この道20年〜”とか、“バーンっ! ごはーんっ! はパーン”とかヘンテコソングばかりだが本人が楽しそうなのでBGM代わりに垂れ流しにしている。ミヨシさんは生産工場とは反対エリアの倉庫で次々に運ばれてくる機械部品や材料を受けいれ完璧に管理をしてくれている。シャンピンからの鉱石も少しづつ届き始め、心配していた資源問題も先行きが明るい。同じくミンメイさんは、ロビーに新たにしつらえた受付カウンターで受付と帳簿整理をしてくれている。受付といってもお客は誰もこない、なので正しく言えばカウンターいっぱいに書類とおやつを広げてのびのび帳簿付けをしてくれているだけだ。僕は工場での作業の休憩がてら、ロビーのミンメイさんのところに来ている。このファミマー商会へと受けいれてからちょくちょくおしゃべりしてきて、最近ようやく打ち解けてきたところだ。


「ミンメイさん、こんにちは。相談があるんですけど、お邪魔していいですか?」


「代表、こんにちは。そんなに急いでいる仕事もないのでいいですよ? あ、悪口じゃないですよ?」


「実はそのことなんですよ、今ある仕事がシャンピンへの納入分だけなんですよ。今ある製品を一挙に宣伝しまくろうにも現在の生産ラインは2人ですから、人手が足りないわけで難しく。そこで考えたんですよ、いい感じの仕事を取りに行こうと。なにせ僕の前世は生産技術コンサルタントでしたから、科学技術、電子製品でお手伝いができるわけです。でも、ここでまたドン・チャンには頼りたくないし、軍部の仕事も違う感じなのでどうしようかと迷ってるわけでして、何かいいアイデアないですか? というかそのおやつなんですか?」


「お、そこに気づきますか代表? これはですね、最近流行りの肉のハヤブサの揚げ肉饅頭です。今、セントレーヌで超人気で、朝5時起きて並んで買ってきたんですから。饅頭の生地が本当にモチモチしていて、外側パリッとのギャップが超衝撃なんです、一口あげましょうか?」


 ミンメイさんが食べかけの揚げ肉饅頭をこちらへ差し出してくる。前から思っていたが、女子の割にそういうのあんまり気にしない人なんだよな。渡された包を受け取り、一口かじると確かにパリッとしてモチっとしている。時間が経っているだろうに、肉汁がかみしめるごとにあふれてきて生地と絡まってめちゃくちゃうまかった。


「ミンメイさん、これめちゃくちゃうまいっすね。貴重な一口ありがとうございました。これだけ美味しいならさぞ売れるんでしょうね、そうだこのお店の人超忙しいとか、猫の手も借りたいとか言ってませんでした?」


「うーん、残念ながらそういうことは言ってませんでしたね。片手間で作ってるって、あくまで精肉の端材の再利用ですからって言ってましたね、こんなに美味しいのに」


「そうかー、それだとなんかお手伝いできることはなさそうだなー」


「そうですかー。やっぱり軍に代表とかが使ってるビューんて感じの武器を売るとかどうなんですか? あれだったら幾らでも売れそうなのに」


「それはウチの方針と違うんだよねー。あ、電卓とか腕時計とかってどう? 今は手元にないけどボタンを押すと自動で四足演算をしてくれる機械と、毎日の手巻きや魔力補充の必要がないのに正確に時間を刻む腕輪型の時計なんだけど?」


「お、なんかそれはいい感じじゃないですか? この国の一般人レベルだと複雑な四足演算がままならない人も割合多く見ますからね」


「へーそうなんだ、この国の教育ってどうなってるの?」


「村や街ごとに方針が決まってる感じですかね、余裕があるとこはやるし、余裕がないとこはそれどころじゃないって感じかと。私が育ったシャンピンなんかは最低レベルまでは教えてくれましたよ」


「ふーん、僕のいた国とにてるんだなぁ。教科書とかってあるの?」


「なんか刷り本が先生のところにきて、それを元に教えてくれる感じです」


「プリンターはまだ作れないしなー、かといっても活版印刷所にテコ入れしてもそんなに効果でなさそうだしな。いいや、細々とご近所の設計屋さんとかに電卓と時計でも売っていくことにするよ。これも広い意味で生産技術コンサルだしね」


「だれに向かって喋ってるんですか?」


「……なんでもない」




 電卓の件は、持ち込んだ先でその出来を見せればだいたい驚愕してくれ、すぐに予約の話まで持ち込めた。これで当面の仕事にあぶれることがなくなり、ファミマー商会も少し安泰と言えるだろう。その反面、人手探しをやらなければならなくなってきた矢先、ドン・チャン伝手でセントレーヌのギルドから指名依頼がやってきた。もちろん安全なコンサル業務ではなく、モンスターの討伐依頼だった。


 セントレーヌギルドから届いた仰々しい封書の中身、ギルド指名依頼の内容を伝えるため、ファミリーズマート食堂には商会メンバー全員が揃っていた。ギルド指名依頼とは、ギルド側から登録ハンター非公表に依頼されるものであり、指名依頼が来れば世間ではようやく一流になったと喜ばれるものなのだけど、既に超一流のクレアおじさんやテスラを抱えるこの商会を指名したとなれば依頼内容が超一流になる。僕は春先に舞い込んだこの迷惑な封書を恨めしく思いながら、全員へと内容を伝える。


「えー、セントレーヌのギルドから来た依頼内容は西部の農村近くに住み着いたとされる凶暴なモンスターの討伐依頼です。何故そんな依頼がこのファミリーズマート宛て名指しで来たかと言えば、問題の村が首吊るしで有名なあの"首村"だからです。そうです、邪神信仰がめちゃくちゃ濃くてナカツクニ連邦国内でもほぼ独立しちゃってる、あの曰くしかない村です。おそらくですが、この依頼にはドン・チャンの根回しが働いているでしょう、せっかく首都に来たんだし、スポンサーをしているんだから働けよということでしょう。そういうわけで、この依頼はモンスターの討伐だけでなく、これまでやってきたように邪教徒が巣食う首村の調査も兼ねます。」


「ケー、質問をいいか? このファミリーズマートはどうするんだ? ホイホイ依頼を受けて襲撃されましたじゃ、笑えないぞ?」


「テスラさん良い質問です! 僕達もこうして城を持ったわけですから、しっかりと防衛もしないといけません。そこで今回は分かれて作戦を実行します。首村には僕とギギギとミヨシさんが、残りはこの出来立てほやほやのファミリーズマートを守ってください。本格的な生産だって、事業だって殆どやってないですから、速く終わらせて僕らの商会を盛り上げましょう。」


「わっちはそれでいいが、クレア伯と居残りはなんか心配だなー。ミンメイも大丈夫か?」


「私は大丈夫です。避難訓練はしてますので、いざとなれば一目散に逃げられます、安心してください」


「テスラ女史よ、いや正しくはテスラ代表代理か。某と一緒でも不安に思うことはありませんぞ、クロン君と愛蛇マーラとともに一所懸命に守りますゆえ!」


「いや、わっちにはその張り切りこそが不安なんだが。で、ケー達はいつ出立するんだ? すぐ行くのか?」


 居残り組になるテスラさん、クレアおじさんとペットでモンスターのクロン君、マーラさん、一般人のミンメイさんは早くも団結してワイワイとやりながらこちらへと視線を向けてくる。その瞳には不安の色が浮かんでいるが、そんなに心配しないでほしい、なぜなら出発はもう少しだけ先に延ばす予定だからだ。


「出発はですね7日後くらいを予定しています、それまでにシャンピンギルドへ納める製品とご近所に約束していた電卓、そして新兵器を作り上げてから行く予定です。こうして製造設備が充実した今なら全力で新製品開発できますよー。というわけでテスラとギギギは僕とともに1日20時間体制で製品組み立て作業をしてもらいます。ああ忙しいぜ」


「……ケイ、ソレハ飽キル! 労働環境正常化ヲ要求スル!」


「わっちもケーの作業ペースについていけなんだ、というか前から思っていたがケーはいつ寝てるんだ? 夜中とか四六時中機械をいじってるじゃないか?」


「そこは慣れですよテスラさん、リズムができてくれば多少寝ないでもいけるもんです。人間ってすごいですねー、さあ締まっていきましょー! あ、ミヨシさんは材料をジャンジャン製造エリアに流してください。クレアおじさんはご飯の準備を、ミンメイさんは後でちょっとお使いをお願いします」


 全員が困惑をありありと顔に浮かべていたけど、とくにテスラさんとギギギの視線が遠くの宙を見ていたけど、構わず2人の腕を拉致して僕は製造工場へと向かった。





 製造エリアのゲートを通り、中の更衣室で綺麗なつなぎへと着替え、エアシャワーをしっかり浴びて、綺麗な空気が澄みわたる大理石でできた工場へと僕たち3人は足を踏み入れた。この製造工場は精密な電子部品、電子基板を生み出すため、前世の工場にはおよばないものの空気中の微細なゴミを取り除いたクリーンルーム仕様となっている。そのクリーンなルームのあちこちには、僕が幼い頃より前世の記憶を元に心血を注ぎ作りあげてきた製造設備達がずらっと立ち並び、どれもピカピカと存在を示すように輝きを放っている。金属を加工する旋盤やボール盤、幼馴染みだったイブと一緒に作りあげたアーク炉、ろう付け装置、メッキ装置、エッチングマシン、恒温槽、電流計をはじめとした計測機器関係、およそ電子機器を製造するのに必要となるほとんどの製造設備がこの製造工場に用意してある。なぜ隣国セボンの王立魔術学園に置いてきた製造設備がこのナカツクニ連邦に集まっているかといえば、その事情は僕がナカツクニ連邦でギギギに再会した時にまで溯る。なぜ人間社会の事情に疎いギギギが、行く先を告げずに消えた僕をナカツクニ連邦首都付近で見つけることができたかといえば、すべては王立魔術学園学園長のファミマの差し金であった。隣国サボンで一番の魔術の使い手と言われる筋肉モリモリのメガネ魔術師ファミマは僕の出奔をいち早く察知すると、密偵とギギギを捜索に向かわせたのだった。ナカツクニ連邦での足取りを捕まれ、首都付近であえなく見つかったわけだが、その後王立魔術学園に置いてきた製造機設備を密輸したり、商会を立ち上げるのに出資してくれたり、手厚いサポート体制を敷いてくれるようになった。何度か本人と手紙でやりとりをしているが、ファミマ曰く“あくまで君は我が学園の特待生の一人のままだし、何より君の扱う特異な技術は今後世界を変える可能性を秘めている。そんな時代の原石をみすみす手放すほどこの学園は節穴ではないし、これからも仲良くしようじゃないか”ということらしい。期せずしてこの商会はナカツクニ連邦とサボン王国の中枢がバックにつくことになっているのだ。だがそれが嫌なわけではなく、ちゃんと本音で向き合ってくれるファミマにドン・チャンと同じくらい信頼を抱いているし、なにより学園にいた時に僕自身と大事な友達を救ってもらっているからこそ、感謝の念を込めてこの商会の名前はファミマからもらっている。

 

 だから思い出が詰まった製造設備が立ち並ぶこの生産工場は、いつ入ってもしみじみとした気持ちになってしまうのだが、そんなことをとなりの二人に感付かれては何だか恥ずかしいので気丈に声を貼り、ギギギとテスラさんへとこの工場でのやるべきオーダーを伝える。


「これから3人で20時間×5日間の計100時間耐久はんだ付け大会をここに開催いたします。必要部品の抵抗、コンデンサ、ダイオード、IC、基盤は過去一ヶ月で十分量を生産してきましたので、あとはこれをひたすら図面通りに組み上げるだけです。僕は今度のギルド指名依頼で必要になりそうな新製品を作ろうと思います。優勝者は何か願い事を一つ叶えましょう。じゃあ、それぞれ作業台について、ヨーイドンです」





  今回僕が作りだすのは今まで作ってきたものと一線を画す代物になる。前世ではコンピューターと呼ばれ、人間の生活の隅々に染み渡っていた文明の利器だ。しかしいきなり記憶にあるような高度なモノを再現出来るわけもないので、学園にいた時に作りあげた関数電卓を元にしたトランジスタ型コンピューターを作ろうと思っている。王立魔術学園を出奔してから一年半、あれから時間を見つけては何度も何度も図面を引きなおし、試作を繰り返してきた。そのおかげで現在、まな板大のノートブック型のコンピューターのエンジニアリングモデルが完成している。ただ、やはりまだまだ欠陥が残っているし設計の甘い部分があるため、この度365回目の図面修正を行って正式モデルの完成を目指しているところであり、何故依頼前のこの忙しい時に完成を急ぐのかといえば潜入工作用に移動型デジタル短波通信基地局を実現するためだ。短波は電離層で反射するため、条件が良ければほぼ全世界のどこでも通信ができるようになる。過去に作ったトランシーバーの弱点は、通信端末同士に遮蔽物や距離があるとまともに使用することができなかった点であったが、短波を用いることでこの問題を解決することができるようになる。ただポータブルタイプの通信端末では受信、送信の能力が低いため、強力な電波を出し、微弱な電波を増幅して受信することができるスーパーな基地局を設置する必要があるのだ。そして、そのためにデジタル通信方式の採用と演算処理装置の開発が必須となり、コンピューターが必要になったわけである。この生産工場にこもって3人で製品の組み立てを始めてから5日が経ったころ、ちょうど僕の作業台の上には黒色金属の箱、この世界で初となるコンピューターが出来上がっていた。ギギギとテスラさんも予定していた数量の製品組み立てをなんとか終え、今は茫然自失な表情で何もない作業台の上で見えない何かを見えない道具で組み立てしているようだ。正直やりすぎたかもしれない。


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