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INT 転生前はエンジニアをば営んでおりました  作者: 猫野美胃
2章 ナカツクニ連邦編
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クレア・レッドカード

ーザッザッザザザザー


 ロンジダンジョンの奥から時折強く吹く風は、まるでダンジョンの吐息の様に引いては寄せる。そして未だ誰も見たことがないその吐息の源泉を、ダンジョンの肺と心臓を見るべく僕達4人は昨日ぶりにロンジダンジョン第一層に降り立った。僕とギギギとテスラと、自称"シャンピン最強の剣豪"のクレア・レッドカードさん40歳男性だ。すごく可愛い名前だが、間違うことなきおじさんだ。背丈はそれほど高くはないが、その鍛え抜かれた身体はその場にいるだけで圧迫感を感じる程に力が満ち満ちている。本人は頑なに赤髪と言い張る長めの茶髪を後頭部で1つに縛り上げ、精悍な顔つきと研ぎ澄まされた身体が相まってまるで大太刀の様な印象を与える人だ。出で立ちもゆったりとした道着を着こなし、前世の記憶に出てくる義の武人“侍”とそっくりだと思う。


「でも魔術師なんだよなぁ。剣技はめちゃくちゃ普通で、魔術にパラメーター極振りで強いんだよなぁ。レッドカード家の育成方針どうなってたんだろう」


「ハッハッハっ、剣技とは魔術なり、また逆も然りである。それよりおぬし等が二時間も遅れたせいで、ダンジョンが活性化し始める夕刻になってしもうたではないか、急ぐぞ」


 さっきから沈痛な面持ちで黙っていたテスラが意を決した様に話しかけてくる。


「……おいケー、本当にこの"赤札"魔術士を連れてくのか? わっちも何度かこやつが起こした禄でもないトラブルに巻き込まれたが、本当にこやつ禄でもないぞ?」


 僕達が寝坊で遅れ、ギルド長との面会に手間取り、ロンジダンジョン前の砦に着いた時は既に日が沈み始めていた。そして今回のダンジョンアタックに向けて同行を依頼していたもう一人、クレア・レッドカードは集合場所の砦の広場中央で、全裸で、巨大な蛇を身体に巻きつけて、十人位の荒くれ者と乱闘を繰り広げて待っていた。遅れた事に関して非常に申し訳なかったが、テスラが不安に思う気持ちも分かる、非常に分かる。テスラはクレアおじさんと合流してから、ずっと顔をしかめたままだ。


「だけど能力だけ見れば、シャンピン辺りでは最強の魔術士だと思うし、何より僕達とチームを組んだ実績が一番多いし……。ほら見ろ、ギギギなんかまださっきの蛇芸で笑ってるじゃないか、クレアおじさんが入れば面白いぞ、多分?」


「蛇芸も何も、さっきのあれは最低の下ネタじゃねーかっ! 大蛇の口にあれを突っ込んで、何が“ハイっ!チン隠しっ“だっ! その後の蛇組体操なんて、頭がどうかしてるとしか思えんぞ!」


「なんだテスラの嬢ちゃん、そんな蛇組体操がお気に入りであるか?! 局部を起点とした某と蛇の芸術的なポージングラインナップはまだまだあるぞっ、今後をお楽しみにな!」


「アッハッハッハ、ヒィーーー、オ腹痛イ。人間ノ可能性ハホント凄イ。ゥッププッ、駄目ダ、クレアヲ見テルダケデ笑エルッ」


 クレアおじさんは、美女二人に見つめられて格好良くポーズを取りながら道着の胸元を少しはだけさせていた。その後なんとか嫌がるテスラを説得して、僕達4人の急造チームはダンジョンを漸く進み始める。

 僕らの陣形は先頭をギギギ、次いでクレアおじさんとテスラ、最後尾を僕の縦列だ。今回は持って行く荷物の量が量だけに馬車の荷台部分だけを切り離し、クレアおじさんが手押ししてくれており、それを守る様な陣形だ。騎乗でのダンジョンアタックもできないわけではないが、如何せん制約がでてくるため今回は人力にしている。クレアおじさんはその屈強な足腰で早歩きほどの速度で荷車を引き、広大なダンジョンの空洞を照らす光の玉を適度に空中へと打ち出してくれる。昨日とはまるっきり別の場所の様に感じるほど明るい空洞を、いいくつかのグループとすれ違いながら進む。


「ケー殿! 今日はどこまで行く予定かな、某はまだ一ヶ月篭ることしか聞いてなくてな、目的も決まっているなら教えて欲しいでござる。」


「説明不足もその闇深い懐で受け入れてくれてありがとうございます。昨日の今日で、一ヶ月のダンジョンアタックを頼めるのはやはり剣豪クレアおじさんを置いていませんでした、感謝しております。で、今日はとりあえず10層まで進行したいと思います。そして目標はロンジダンジョンの最終層到達と、我々の商会が今度売り出す予定の商品の耐久テストです。華々しい商会設立としたい腹つもりです。」


「あいわかった、若人が抱く大志を助けるのが大人の役目でござる。最終層だろうが、火龍だろうが請け負ってみせようぞ。」


 クレアおじさんはそう言うと、筋肉をヒクヒクとたぎらせて荷車を一層力強く引っ張ってくれた。




 それから第10層までは、特に何ごともなく、いつも通りギギギの安全なガイドに従って進行した。だが、昨日の様にスピード重視で全力疾走しているわけではないので、手元の時計で約半日が過ぎようとしている。時間の感覚がなくなるのもダンジョンの恐ろしいところで、僕とギギギだけだったら行けそうと進み失敗するのがいつものパターンだ。だが、今日は熟練のハンターが二人もいるので安心だ。


「某、なんだか今日はたぎっているので、もう10層程でも大丈夫でござるよ?」


「前言撤回です、クレアおじさんはだたの熟年ハンターでした。判断は熟練ハンターのテスラさんに伺うので、口出しなんかせずにお静かにして体力を温存しておいてください」




〜・〜・〜・〜




 ケイ達4人は急造チーム唯一の良心テスラの指示のもとテキパキと第十層で簡易テントを設営し、4分の1日ほどの休憩を取った。クレア伯がローテーションでの見張り中にモンスターを見つけるや突然走っていなくなったり、クレア伯が起きてるかのごとく流暢に寝言を言ったり、クレア伯の謎食材スープが衝撃的に旨かったり、クレア伯以外は余り休むことはできなかったが新たな仲間が加わったことで、休憩の後ケイ達一行は良い雰囲気でダンジョンの暗闇を再び進み始めた。

 新たな仲間とはクレア伯の隣を強靭な6本足で荷車を引きながら進む黒火蜥蜴のクロン君だ。クロン君の主人であり、その隣を歩く実力派魔術士クレアは胸を大仰に張っていた。


「いやー黒火蜥蜴を見つけられるなんてすごくラッキーですぞ、ケー殿。しかもこのクロン君は5m越え、黒い表皮も非常に硬質で某がこれまで見かけた中でも最高クラスの黒火蜥蜴ですぞ。このダンジョンアタックは祝福されているかもしれませんな。あっはっはっ」


「ジィィイィィィィィイ!」


 野武士の様なクレア伯の笑いに漆黒の大蜥蜴にうれしそうに独特の鳴き声をあげる。一行を先導しているギギギとテスラがその声に振り返った。クレア伯が適度に空中に打ち上げる光玉の照明のおかげで、テスラの未だに納得いかなそうな顔がありありとクレア伯とクロン君に向けられた。


「まさか、あの赤札魔術士がモンスターテイミングもできるなんて知らなかった。わっち、なんかすげー負けた気がする。ギギギは知ってたか?」


「クレアハ魔術士兼モンスターテイマー兼変態伯爵ナンダッテ。決シテ剣豪デハ無イッテ話ダケド。前森行ッタ時ハ、葉っパダケニナッタクレアガ手懐ケタタイガーニ乗セテモラッテ、皆デ風ニナッタナ」


「そうかありがとう、あまり知るべきことでも無い気がしてきた。まあ何にせよ進行が楽になったのはありがたいことだし、戦力が増えるのは安全度が上がっていいことだ。」


「テスラ女史、もしかしてクロン君に乗りたいのですかな? 乗りたいのですな、そういう時間帯ということですな、全くしょうがないですな。クロン君と熱いベーゼを交わせたら多分いいでござるよ。」


 そういうとクレアはクロン君の大きくて凶悪な口元を指差した。鋭く尖った大きな牙の間からは、時折フシューと音をたてて小さな火柱が漏れていた。


「いや無理だろっ! 一瞬で黒焦げの骨せんべいになるわっ! わっちには頼むから絡まないでくれ。」


「嫌よ嫌よも好きのうちというやつですね。某は博愛主義でしてな、ケー殿、ギギギちゃんと同じくテスラ女史のことも大事にするのでござるよ。かねてより助けてもらった恩も溜まっておりますしな」


 ギャーギャーと騒ぐテスラとクレア伯の周りでは、ダンジョンの壁面から次々と飛びかかってくるクロン君よりも小さな赤い火蜥蜴の群れをギギギとケイが黙々と返り討ちにしていた。ギギギは街の鍛冶屋で買っておいた大きな鋼製の剣を乱暴に振り回し、ケイは古びた魔術抄本を開いて雷の魔術をあたり一面に浴びせている。いつも使用しているケイお手製の武器はクロン君の引く荷台にケースごと積んだままだ。これは弾薬や装備の消費を極限まで抑えてダンジョンを進行しようというテスラの案である。当の本人はダンジョンのモンスターよりも変態伯爵の相手に困窮しながら、昨日よりも早いペースで危うげなくダンジョンの入り組んだ道をどんどんと進んでいく。


 10層から20層までは熱々の溶岩がそこら中を小川のように流れる地下火山帯エリアだ。火蜥蜴、火熊から始まり、めっぽう熱に強い高温のモンスター達が跋扈し、背中から火柱をタテガミのようにいくつもあげる巨大馬や溶岩を甲羅のくぼみに貯めている大亀なんてのもウロウロしている。ダンジョン内の温度も、周囲の熱源からの熱輻射も厳しい過酷な極限環境だったが、耐熱用に用意された熱遮断マントを羽織ってケイ達は一気に駆け抜けた。

 20層から30層までは、赤や緑の宝石の巨大結晶がニョキニョキ、びっしり生えている金属鉱石エリアだ。ダンジョンの道幅もグンと小さくなり、直径50mはあった巨大な道幅も半分程度になる。地下火山エリアを抜けたケイ達は重厚なマントを脱ぎ、汗を拭いながら同じペースで進んでいく。そんな一行を襲うモンスターも大きく様変わりし、超巨大なコウモリ、石食い巨大ワーム、ワームを食う巨大蜘蛛等、見た目的な要素で一気に難易度が上がる。ケイとテスラは一気に動きが悪くなったが、見た目なんかには拘らないギギギとクレア伯は飛び散る返り粘液も何のそのといった様子でモンスターを蹂躙していった。20層に入ってからモンスターの生息域が5回変わった26層に到着するころ一行の一番後ろを進むケイが前方へと声をかけた。


「テスラさーーん、そろそろ18時間です。休息にしませんかー?」


 その声に振り向いた先頭のテスラは、残念そうな顔で後ろを振り返った。


「20層代を抜けたかったが、しょうがないか。今日はこの層で宿泊しよう。ギギギ、ここらへんに危なそうなやつがいないか警戒してきてくれないか? ケイはわっちと一緒にテントの設営と荷車の点検だ。クレア伯とクロン君は見張りを頼む。」


「分カッタ、パット見イナイケド、チョットイッテクル。」

「了解」

「あい分かった、某に任されよ!」


 それぞれが動きだして1時間後、ダンジョンの道端に出来たキャンプ地には淡く暖かな光と、美味しいスープの匂いが立ち込め始めた。ケイ達のキャンプから見上げたダンジョンは、壁面に生える鉱石に光がキラキラと反射して、満点の星空のような綺麗な光景が広がっていた。


クレアおじさん「蛇芸の他にも蜘蛛芸、蛸芸、色々あるぞい?」

ギギギ「幅ノ広サ二10ポイントッ!」

テスラ「毒針刺されて無事に死ね!」

ギギギ「ウィットガ足リナイ罵倒、-5ポイントッ!」

ケー「何の点数?」

ギギギ「ダンジョンアタック評価点、一位ハナントアレガ貰エル」

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