乙女ゲーヒロインに転生しましたが、これってもしかして……。
「ねえ、何を見てるの?」
「俺達だけ、見て?」
美形双子から左右サンドイッチにされ、甘いボイスが両耳を支配する。
な、なんという耳福!
いやマテ。
あれこのシチュエーション、もしかして……。
「いい匂い」
「肌綺麗。 柔らかい」
クスクスと、ひそやかな笑い声。
「大丈夫、優しくするから」
「楽にしてて。 楽しませてあげる」
つい、と顎が持ち上げられて。
唇が塞がれ、右耳が湿る。
茫然としてる間に、唇の隙間からはディープな感じにぬるぬると。
耳の方はペロペロしつつも時折かるーく歯が立てられたりして。
そして二人の手はブラウスをはだけ、下着の上から私のムネ。
「!!??」
か、かかか間一髪!
茫然とした状態から復帰した私は即座に立ち上がり、教室の出入口目指して駆け出した。
「無理無理無理いいい~~~!」
あああああ!
処女が双子と3Pなんて、難易度高すぎぃ!
「え?」
「あれ?」
誰もいない放課後の廊下を、疾走する事しばし。
姿見の前で、私は足を止めた。
亜麻色のセミロングヘアは、今はポニーテール。
くりっとした目にふっくらした唇、つんとした鼻。
そこに映るのは、間違いなく美少女。
けれど学園の制服……白いブラウスとチェックのスカートは先程の双子に掻き乱され、一言で言うなら『あられもない格好』になってしまっている。
……。
…………。
………………。
「あああああ……」
やっぱり、やっぱりだよ……。
これ、遊んでた乙女ゲーのヒロインだよ……。
しかも十八禁のヤツ。
いましがたのヤヴァいシチュエーション以前の記憶が全くないからどうしようもないけど、これは『私』の体じゃないよぅ……。
「お~い?」
「いきなりかくれんぼなんて、なんのつもり?」
「俺達を焦らして楽しむなんて、いけない子だなぁ」
「ふふ、お仕置きしてあげないと」
うっわぁあ!
ヤ、ヤヤヤヤンデレ!?
双子でヤンデレ!?
私はこいつら攻略してないんだようううぅ!
とりあえず、逃げなきゃ捕まってヤられる!
ひえええええ!
で、でもでもでも!
ガラガラの教室に隠れても意味ないし、ただ廊下を走るならあっちの方が身体能力が高いんだからすぐに捕まってしまう。
じゃあ、隠れてやりすごす!
えーと、えーと!
それならば!
あぁ!
近くに図書室があった!
まずは、あそこに逃げ込めー!
ガラリと音を立てて、図書室の扉が開く。
「うーん」
「ここかなぁ?」
ぎっくうううぅ。
見つかりませんように、見つかりませんように!
「とりあえず、そっちからイくか」
「じゃ、俺はこっちから」
人気がほぼない図書室の中に響く、パタパタという足音。
うずくまって震える事しか、私にはできない。
「イイ事しかしないから、出ておいでー?」
「怖がらなくていいよー? 俺達で、たくさん愛してあげる」
怖いわああああっ!!
さして広くもない図書室を左右から巡回した双子が、足を止める。
「うーん、ここじゃないかぁ」
「女の子がそうそう逃げられるわけないし、どこ行っちゃったんだか」
私の目の前で、双子が相談している。
「ねえねえ」
「こんな女の子、見かけなかった?」
双子の口から語られる、私。
「さぁ?」
彼は……庇って、くれた。
「ところで、ここは図書室なんだ。 本を借りる気がないなら、退出してくれないか」
たとえ僕達以外に人気がなくてもね。
そう続けて、眼鏡の弦をくいっと上げる。
「ああ、ごめん」
「見かけたら、メールちょうだい」
「了解」
……図書委員の彼もたしか、攻略対象だったっけ。
このヤヴぁい双子と、親交あったんだ。
ガチャガチャパタンと音がして、双子が出ていく気配。
図書カレはスマホを取り出し、ポチポチ打ち始めた。
「……戻ってこないみたいだね」
少しして、図書カレがそんな事を言う。
「いいよ。 出てきて」
「あ、ありがとう……」
私が隠れていたのは図書カレの足下、貸し出しカウンターの中だ。
そこから這い出して、ふぅと息をつく。
「隠してくれて、助かったわ」
「どういたしまして」
クスリと笑った図書カレが、立ち上がる。
「人もこないし、今日はもう閉めるよ」
図書カレが閉室の準備を始めたので、私も手伝う。
もう少ししてから図書室を出た方が、安心だと思うしね。
ドアに閉館の札をかけ、サササササと準備が終わる頃。
「手伝い、ありがとう。 お礼をしなきゃね」
「え、いいよそんなの」
匿ってもらった恩返し恩返し。
「いや、受け取って欲しいな」
……アレ?
え、え?
なんで、私が、押し倒され。
気がついた時には、両手は頭上で拘束されていた。
ほらアレ、本を縛って持ち運ぶブックバンドってヤツで縛られ。
「え? な、何する気……?」
「鈍いなぁ」
クスリ、と笑うカレ。
「ちゃんと僕を選ぶまではフェアに、と思ったけれど。 抜け駆けされたら仕方ないよね」
「抜け駆けじゃないだろー?」
「味見だよ味見。 双子の良さを、分かって欲しいからね」
この、声、は。
図書室のドアを開け、双子再臨なう。
「大丈夫、三人で愛してあげるよ」
図書カレの囁き声に、全身の肌が粟立つ。
さ……さっきのスマホかぁ私の位置をリークしてくれたの!
「だからさ」
「早く、選んで?」
結局私は、三人に食われました。
そういえばあのゲーム、逃げれば逃げるほど難易度が上がる仕様だったなぁ……。