お嬢様を幸せにして見せます
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どうしてこうなった!?
初めまして。
私はアニレッタ・モーウィと申します。親しい人達にはアニーと呼ばれております。務め先はレクシアン国にある、サステニア公爵家のご令嬢付きの侍女をしております。
父は代々サステニア公爵家に仕える執事で、母は奥様のご実家に仕えていた侍女で奥様とは乳姉妹であり、奥様が公爵家に嫁ぐ時にサステニア公爵家に移ったそうです。
所で、皆様は輪廻転生をどう思いますか? 私は、魂の転生を信じております。いえ、知っております。私自身転生したからです。
そもそも私は、科学の発達した地球の日本と言う国に産まれました。読書やゲームが好きなごくありふれた人間の一人として生きて死にました。
気付いた時には、サステニア公爵家の使用人の子供として産まれておりました。
“サステニア”と言う単語を何処かで聞いた事がある。と思いましたが、何の事か思い出せず9年が過ぎたある日、思い出しました。お嬢様に階段から突き落とされ、死ぬ直前に。
え? 生きているじゃないか? 死にましたよ。ちゃんと。
気付いたら、アニレッタ・モーウィの3歳の誕生日の日に戻っておりました。転生ではなく、魂のみのタイムスリップかもしれませんが。パニックに陥り、過呼吸で倒れかけ騒ぎになりました。お騒がせしました。
思い出した事を纏めて置くと、この世界は日本で発売された乙女ゲーム『レクシアン学園~秘め事は学園で~』のゲームの中か、それに酷似した世界。
地球では、ファンタジーの世界にしか存在しなかった魔法が存在する世界で、魔力は多かれ少なかれ誰でも持っていて、魔力量は血で遺伝しやすい為、魔力の多い者が貴族として君臨し、その中でも特に魔力量が多かった一族が王族となり、国を纏めた為、王族の魔力量はとても多いのです。
しかし、突然変異と言っては悪いですが、貴族の中でも魔力量が少ない者も、時たま現れます。逆に、一般市民でも魔力量が高い者も存在して、レクシアン国では10歳の時に魔力測定が義務付けられています。王族、貴族、豪商等、の子供であればもっと早くに魔力測定をし、魔法の訓練をします。
そして、魔力量が一定以上の子供は12歳~16歳までの4年間、国の名前を冠した全寮制の学園、レクシアン学園で学ぶ事ができます。
ただの一般市民が、高額な入学費や授業料、寮費を支払う事はできないので、入学試験(貴族、王族を除いた)の中で、上位30位に入れば、入学費や授業料、寮費、食費や雑貨費が支給されます。
ゲームでは辺境に住む農家の少女が、魔力測定でかなり魔力がある事が判明し、その地の領主である男爵に引き取られ、様々な勉強をして学園に入学を果たし、入学試験で並みいる貴族や王族を押し退け新入生代表として入学する事で、様々な人に注目され学園での4年間を過ごすというテンプレストーリーです。この学園での4年間がゲームのストーリーという長編ゲームでした。普通1年間位の話じゃないの? とゲーム発売前は某掲示板で話題になり、発売後あまりにも詰め込まれた内容に1年だったら無理ゲーだった、と沈静化いたしました。友情や恋を育てるファンタジー系恋愛シミュレーションゲームと名を打ちながら、モンスターとの戦闘やモンスターの飼育、アイテム造りや料理製作の材料探索、より良い素材を手に入れる為の畑作業、商いをしたりもでき、全スチルコンプリートした者には、尊敬と飽きれを含んだスレを贈られるのが定番となりました。因みに冒険を主体としたMMORPGのサービス開始直前に死んでしい、心残りでなりません。
攻略対象にはライバルが存在し、様々なストーリーが存在します。悪役令嬢は、王子様ルートに特に出てくるサステニア公爵令嬢エレティーラ・サステニアのみ。その他のルートにもお邪魔キャラとして出てきますが、王子様ルートに入ると普通に殺しにかかってきます。殺されそうになったら王子様ルートに入った証拠。と言われる所以です。
食事に毒が入っているのは日常茶飯事、物が飛んで来たり物が落とされたりするのも日常風景、魔法が飛んでくる事も良くあり、果ては暗殺者が送り込まれてくる始末で、ドキドキハラハラする以上に「何でヒロイン死なないの!?」と言う感想しか出てこない。友好度の表示されないこのゲームで、会話でだいたいの数値を予想する他のルートと違い、王子様ルートでは『殺されそうになる状況で友好度の状態が分かる』と言われる始末。
何故こんなに殺人に躊躇いがないかと言うと、王子様ルートとアルニアスルート(エレティーラの弟)で判明する事で、エレティーラは10歳の時に、1歳年下の使用人を階段から突き落として殺してしまい、殺人に対して枷が外れてしまう。突き落とした理由は自分より美しいと思った嫉妬から。
死ぬ直前に思い出すとか、自分の馬鹿さ加減に呆れます。
ゲームで見知っている2次元のエレティーラ・サステニアが初めて出てくるのは、エレティーラが13歳の時。癖の強い金の巻き髪につり目がちの朱金の瞳、林檎色の匂う様な唇に豊満な胸を持つ妖艶な美少女。それがエレティーラ・サステニア公爵令嬢。 突き落とされた時は髪や瞳の色は一緒でも、身体はまだ子供らしく平たく、つり目がちの目も大きく気が強く見える顔も子供らしく可愛らしい。
乙女ゲームの世界に転生する、と言う話はweb小説で読んだ事のある私ですが、ヒロインや悪役令嬢に転生すると言う話しや、時たまモブと呼ばれる役に転生すると言う話しは読んだ事あっても、名前すらない本編前に殺される存在に転生するとは思わなかった。仮に名前が出ても、白黒スチル(白というより灰色)に砂嵐が入り、突き落とされる少女は後ろ姿で、名前も出ない状態では解らない。
嫉妬で殺されるだけあって、シルバースノーと呼ばれる白銀の癖の一切ないサラサラの髪に切れ長の青銀の瞳、桃色の小さめの唇が白磁色の顔に神がよりをかけて創ったかの様な絶妙なバランスの配置され、子供とは言え可愛らしいと言うより綺麗系ね、言われます。初めて鏡を見た時、自分の姿と認識するまでかなり時間がかかりました。しかし、自分で着替えをするようになると慣れてしまうものですね。
さて、ゲームの世界? と解った所で第2のアニレッタになった訳ですが、また殺されるのは御免です。子供が独りで公爵家から出て生きて行ける訳ありません。殺されないために両親に我が儘を言って、奥様付きの母に付き従い、奥様付きメイド見習いになりました。
無事私は10歳になりお嬢様も11歳、来年には学園にお入りに成ります。階段に気を付けての生活も、もういいのでは? と思っています。
そんなある日お嬢様の食事の毒味役をやらされ、毒が入つていたのでしょう、喉や内臓が熱をもった様に熱く、息ができなくなり死んだようです。
第三のアニレッタとして目覚めました。また、3歳の誕生日です。またしてもお嬢様に殺されるのでしょうか……。
離れてみて駄目でした、今度は媚びを売ってみましょう。殺されるよりはマシです。貴女の敵ではありません、味方です! ってやる訳です。
お嬢様が12歳になり、お嬢様に付いて学園に行く事になりました。学園には1生徒に付き、使用人と護衛をそれぞれ2人まで連れて行く事ができます。
そんな訳でお嬢様が13歳、私が12歳の時にヒロインが入学してきました。そしてヒロインが進んだ先は王子様ルートの様です。私はお嬢様にヒロインを殺す様に言われましたが、日本人の教育が一番最初にある為、殺人に拒否反応示しお嬢様をなだめる事にしました。
胸が痛いと思った時には見覚えのある短剣の柄が、深々と刺さっていました。
いい加減別の人生を生きるか、記憶を消して欲しい第四のアニレッタです。ええ、本当にアニレッタ以外に産まれたいです。何度も殺されなければいけない様な罪犯した記憶はとんと御座いません。殺されない人生を歩みたいものです。
考えました。お嬢様が殺人できない性格なら大丈夫じゃないでしょうか? 思い立った吉日です。性格強制してし……いえ、殺人性格にならなければ良いのです。
ちゃんと叱ったり話をすれば、性格は少々キツイですがプライドの高い良い意味での貴族です。
弟のアルニアス様も、ゲームや今までのアニレッタで見てきた姉をゴミの様に見ていた目と違い、どう接して良いのか解らない戸惑いの眼差しです。
今回もお嬢様に着いて学園に入り、翌年ヒロイン達が入学してきました。おかしな事にヒロインが新入生代表ではありません。それどころか特待クラスでもありません。
この学園はバリバリの実力主義です。ですので貴族といえどしっかり勉強をしなければ入れません。ですが、王族や貴族は良い家庭教師に付き、幼少の時代から勉強できます。一般平民が家庭教師に着く等できないので、自然貴族が中心に成ります。
私もお嬢様に着いて学園に行くので、前回のアニレッタから、礼儀作法や勉強、魔法の練習をする様になりました。世界観はファンタジーとは言え中世ヨーロッパなのに、文字が日本国。ご都合主義な様です。文字を見た前回はびっくりしました。
さて魔法ですが、魔力が大小あるとはいえ魔法適正があって始めて使える様になる。魔法適正とは魔法属性適正の略になり、そもそも魔力は誰にでもあるので、どの属性が扱えるか調べるとの事です。属性属性と言った方が解りやすいと思うのですが……。さて、私の魔法適正は、氷、水、風でした。この世界では髪の色や瞳の色で使える魔法の適正が解るのだとか。色に適正が出るか適正が色に出るか、と云う話が良く討論されますが未だ決着は着いておりません。日本で云う所の鶏と卵の関係と似ていて、外見の色から使える魔法適正が変わるのか、魔法適正から外見が変わるのかと言われています。顔立ちは親子で似ていても、髪や瞳の色が違うという事がたまにあるのです。魔法適正もだいたい引き継がれるので、それほど違いは出る事はないのですが。
魔法ですが、発動には呪文か魔法陣が必要です。呪文は日本で言う所の中二病が、顔出すような言葉です。
次に魔法陣ですが、星を描いたりではなく魔方陣と言いますか、数独的な物でした。漢字を外側に書き、9×9マスの中に魔法に合わせた数字を入れていきます。数字の並べ方に覚えがあるなと思い、記憶を掘り出した所思い出しました。何十年ぶりでしょうか、良く思い出したものです。魔法って感覚的な物だと思ったのですが、以外と頭脳労働でした。魔法と言うか魔法陣が、ですね。個人的に呪文より魔法陣の方が面白いです。
お嬢様に恥をかかせないように学びました。知的欲求に基づき夜更かしする事もありましたが、後悔はしておりません。
学園のクラス分けですが、入学試験、学年末試験で別れます。
1~15位の方が特進クラス。その後は25人づつ1クラスに分け、A~Eクラスに別れます。入学試験で140位以内に入れないと入学できない難関な学園です。
ヒロインが入学して来て1年半経ち、ヒロインが転生者じゃないかと思う今日この頃です。逆ハーレムだと思います。ゲーム時代は、逆ハーレムルート存在しませんでしたが。
学年代表(学年1位)になれなかったり、お嬢様に虐められなかったりしてイベント発生せず、イライラしている様に見え、ヒロインを調べる事にしました。
どうやらヒロインも転生者の様です。モブやMMOという言葉を聴いたので間違えありません。
お嬢様が最高学年になり、王子殿下がよそよそしいのがお嬢様の悩みになりました。そんなある日、殿下がお嬢様に婚約破棄を申し出ました。お嬢様の初恋の相手は王子殿下です。プライドの高いお嬢様がショックを受けないはずがありません。
その後のお嬢様は見てられません。国王陛下や高官の方々のご命令で王子妃になった物の脱け殻の様でした。私が男性を学園時代紹介できていれば状況は変わったかもしれませんが、ずっとお嬢様に付いていた私には男性を紹介できるはずがないのです。
弱ったお嬢様が短い人生を終え、私は取り残されました。そして年老いて死ぬまで、色々考えさせられました。独りでやれる事には限度があります。もし、またアニレッタになるなら協力者が必要です。アニレッタに産まれ変わって初めて、またアニレッタに産まれ変わりたいと思いました。もしまたアニレッタになれるなら、お嬢様を幸せにして見せます。
生まれ変わった第五のアニレッタ3歳です。始めてアニレッタに産まれ変わった事を感謝したいと思います。さて、早速行動しましょう。お嬢様とアルニアスお坊っちゃまを仲良くさせます。
やりました! 王子殿下やもう一人の攻略対象のムクラス公爵家の御嫡子シッカス・ムクラス様と幼なじみになられました。ゲームや第三のアニレッタまでと、前回のアニレッタの時のアルニアスお坊っちゃまの性格を考えるに、お嬢様の殺人性格が嫌悪の対象です。あの性格が好きな方は早々いらっしゃらないでしょう。居ましたら全力を持ってお嬢様のまえには立たせません。お嬢様が広い目を養うのに、弟であるアルニアスお坊っちゃまの存在は必要不可欠でしょう。
お嬢様とお坊っちゃまが遊ぶ様になりました。実に仲睦まじい光景を良く見かけ、勉強や魔法の練習も一緒です。公爵様直々に魔法を教えられる事もあり、そこに王子殿下やシッカス様が加わる様になりました。
殿下の名前をルーカス・アラン・クレシアン様と申されます。何故殿下の名前をご紹介するかと言うと、最近アラン様と呼べる栄誉をいただきました。王子殿下や殿下と呼ぶのは他人行儀過ぎるのでルーカスで良い、と比較的始めの方で言われましたが“アラン”と言う部分は、第二の名前と言われ呼ぶ事が許されるのは、王族方や結婚相手、信頼している臣下にしか呼ばせません。第二の名前は王家に産まれた方にしか付けられません。私は貴族でなくしがない一使用人に過ぎません。恐れ多いので断っていたら拗ねてしまわれました。殿下の性格が今までと変わっています。私の会った事のある方全員性格微妙に変わっていますね。5人の時だけ呼ぶ、と言う事で納得していただきました。その時皆様からある要求がなされ、全力で拒否していたら公爵様と奥様が通りかかり、要求を飲む事になりました。公爵様と奥様は笑っておられました。私の気を無視して。
要求と言うのは、お嬢様はエレ様、お坊っちゃまはアル様、ルーカス様は5人の時はアラン様、シッカス様は変わりませんでしたが、私の事も何時の間にかアニレッタからアニーに変わっています。公爵様と奥様が、去り際に「私達も名前で読んで良い」とイタズラっぽく仰られた時は聞かなかったふりをしました。
そんなこんなで、エレ様が学園の寮に入られる日がやって来ました。アル様ですが、ちょっとやっちゃった感のあるシスコンぶりです。まあ、この調子ならヒロインにあっても、味方でいてくれるでしょう。エレ様とアラン様の仲も良好です。涙を浮かべたアル様は可愛らしいですね。ちょっと拗ねたアラン様も今までのアニレッタでは見た事がありません、眼福です。ショタコンではございません、精神年齢が幾つであろうと外見は11歳。立派な子供です。転生して気付いたのですが、精神年齢って意外と外見年齢に影響されます。
1年過ぎまして、アル様アラン様シッカス様が寮に入られました。真っ先にエレ様にお会いに来られ、エレ様も嬉しそうで何よりです。その時皆様だけでなくエレ様着きの侍女が黒い笑みを浮かべた様な気がします。
エレ様ですが入学時から新入生代表務めており、新学年から生徒会に入られます。2年から生徒会入りできるのは本当に優秀な方だけなので、大変鼻が高いです。
そして入学式の日の朝、皆様がエレ様のお部屋にやって来ました。皆様良い笑顔です。とっても黒い笑顔ですね。私、逃げて良いですか?
「アニー、いつまでも現実逃避している時間ないから。姉上の持ってる服に着替えて、この紙の文章覚えて」
アル様に肩を揺さぶられて、現実に戻ります。走馬灯の様に今までの人生が甦り、死ぬ直前の様です。
パンパン
今度は、アラン様が私の顔の前で手を叩きました。
「エレ様の持ってる服はこの学園の制服で、その紙の文章は新入生代表が読む宣誓にしか見えませんが……」
「大丈夫、アニーの見た通りだから」
「いえ、私入学試験受けてませんから!? だいたい学費払えませんよ!」
「あらアニーは入学試験受けたわよ、ちゃんと先生の前でね。今年の入試のできをみたいから、全力で受けてね。って言ったら全教科満点、歴代最高得点よ。わたくし鼻が高いわ! 学費は免除、その他必要経費は我が公爵家が出すわ。ふふふ、貴族は皆知っているわよ、わたくしの顔に泥塗らないわよね」
満面の笑顔でウキウキ話されるお嬢様。それより、あのテスト入試だったんですか!?
「し、試験会場で受けてないですよっ」
不正防止のため、貴族も試験会場で試験を受けなければなりません。例外は王族だけです。
「普通に試験受けさせたらお前絶対手を抜くだろ。父上に相談したら学園長に話しが行って、学園長もアニーを気にしていてあっさり許可が降りた」
アラン様、国王陛下に何相談されているんですか!?
確かに試験受けろと言われても、全力投球しなかったでしょう。だからといって騙し討ちでテストしないで下さい。
「……アニー、呪文破棄は宮廷魔法使いでも使い手が少ない。魔法陣に至っては、知られていない術式があったと、父上が言っていた」
シッカス様、今日は長いですね。
シッカス様のお父上は、公爵家当主でありながら騎士団長を務めているお方です。何故一国の騎士団長様が私の魔法陣を知ってらっしゃるのですか? シッカス様が見せたのですね。
呪文破棄できるのは、日本の知識が邪魔をして呪文を唱えるのが辛いからです。魔法の呪文は中二病患者が喜ぶ様な構成なのですよ。こちらでは普通でも恥ずかしいのです、それに予め書いて置けば、直ぐ発動できる魔法陣と違い呪文詠唱は時間がかかり過ぎる。はっきり言って実践向きじゃない気がします。不意討ちや威力のある魔法を遠くから打つなら別ですが。
「さあ、アニー諦めて制服に着替えましょう。殿方は部屋からお出になってね。お風呂はさっき一緒に入ったから良いとして、髪型変えましょう。わたくしアニーの髪弄りたかったのよ! わたくしと違ってその癖のない髪、何故何時もきっちり結んでいるのかしら、緩く結いましょう。いえ、結わない方が良いかしら……」
ああ、エレ様が暴走しています。
アラン様達が出た扉をエレ様着きのもう一人の侍女が閉めました。こちらに向いた顔が良い笑顔です。
抵抗は無駄ですね。四面楚歌、孤軍奮闘、懐かしい4文字熟語が浮かびました。もう一度言います。
どうしてこうなった!?
----エレの部屋の外----
ルーカス・アラン・クレシアンは、アニレッタを思い浮かべながら呟いた。
「アニーは自分の価値を知るべきだ」
「魔力だって並みの伯爵レベル以上ありますよね」
アルの言葉に俺は頷く。
魔力は血で受け継がれる、この知識に間違いないはない。その為、王族や貴族は血を重んじる。
アニーの両親は、それぞれ主筋に代々仕えて来た。身分は平民だが、何度も爵位の授与の話しがあったそうだ。それを蹴って主に仕えて来た忠誠心は並みではない。その忠誠心はアニーにも受け継がれている。
父親は宰相を最も多く出す公爵家の右腕として仕え、母親も侯爵家に代々仕えて来た。侯爵家の令嬢の乳母に選ばれた女性の子供が、アニーの母親である。そんな両親を持つアニーの魔力が、一般的な魔力量の訳がない。その事を知っていながらアニーの自己評価はそれほど高くない。
「……アニーの魔法の練習相手、俺達や宰相、アニーの両親だけ……」
「「あ!」」
シッカスの言葉に、俺とアルの声が被った。
魔力の量は身分を使ってクラス分けされている。平民レベル、男爵レベル、子爵レベル、伯爵レベル、侯爵レベル、公爵レベル、王族レベルになる。平民が低く、王族が高いのは身分のままだ。魔力の量を測る水晶があり、一般的には平民レベルか貴族レベルかを測れるだけで、詳細の解る水晶はこの国に両手の指を足した程度しかない。
アニーが仕えるのは、公爵家の令嬢として十分魔力のあるエレ。一緒に魔法の練習をしていたのは王族である俺、エレの弟のアル、武芸に秀でているとは言え、公爵家として十二分に魔力のある公爵家の嫡男のシッカス。宰相も時々教えてくれるが、公爵レベルより王族レベルに近い魔力量がある。アニーの両親の魔法持論が、最小限の魔力で最高の威力! という考えだ。
……俺達のせいか‼
目を見ればアルもシッカスも同じ考えらしい。
「1年ぶりに見たアニーは、また綺麗になったな」
始めてアニーに会った時を思い出す。
現アステニア公爵夫人は、侯爵家の令嬢で父上の求婚を蹴って、宰相と結婚した女性だけあり実に美しい方だった。母上の一番の親友で良く手紙のやり取りをしている。母上を見ていると父上と話している時より、宰相夫人の手紙を見ている時の方が嬉しそうだ。
そんな宰相夫人は俺の初恋の相手だ。それを宰相に言ったら、笑顔で課題が山程出された。宰相の心は狭い子供の言葉じゃないか。
宰相夫人が結婚する時、父上が子供同士を結婚させたい。と言う口約束で、俺は産まれた瞬間エレと婚約が決まった。
宰相夫婦に連れられ、たどり着いたサステニア公爵家で会ったのは、俺と同じ年の宰相の息子と1つ年上の婚約者エレティーラ・サステニア公爵令嬢だった。宰相似の金色の巻き毛は王家と同じ金髪、つり目がちの朱金の瞳は宰相夫人と同じ色をしていた。そんな公爵令嬢の側に控えていたのがアニーだった。アニーを見た瞬間、時が止まった気がした。白磁色の顔に配置されたパーツは人間が創れる物ではない。
真っ先に思ったのは何て使用人の服が似合わないのだろう、だった。ついさっき見たエレだって使用人の服は似合わないだろう。エレが着たところで、貴族の令嬢が使用人の服を着ているとしか見えない。持っている雰囲気が違うからだ。
たが、アニーはそんなエレとも違う。無理をして着ている、場違い、そんな感じだ。だったら貴族の令嬢の様なドレスを着せれば良いかというと、それも違う。使用人の服よりも似合いはするだろうが、アニーの魅了が引き出せる服ではない。城に画かれた古代の神々の壁画にある服が最も似合うと思う。もし壁画に画かれた服を着たアニーが氷と雪の世界にいたら、誰が見ても氷神の関係者にしか見れないだろう。
同じ屋敷に暮らすアルが狡いと思ったのも一度や二度ではない。同性であるエレにも嫉妬しそうだ。
「アラン様は姉上がいるので諦めて下さい」
物思いに耽っていると、アルにとんでもない事を言われた。
「ふん。求婚しようと冗談にしか取られないだろうが、エレと結婚すれば侍女としてアニーは着いてくる」
「自分で言っていて悲しくなりませんか? だいたい姉上が離す訳ないじゃないですか。王城行ったって、アニーはアラン様の物になりません」
バチバチと俺とアルの間に火花が散る。何時もならシッカスも加わるはずなのだが、静か過ぎて恐い。シッカスが喋らないのは何か考えている時だ。
「「シッカス?」」
「……アニーが無事卒業できれば良い」
「? アニーなら問題ないだろう。馬鹿な貴族は俺達とエレでどうにでもなる」
「……卒業すればアニーは、貴族になれる。そうしたら求婚する」
「「シッカス抜け駆けするな!」」
宰相の子供であるアルは頭の回転が速い。俺もびっくりする。一方シッカスは口数も少なく喋るまでに時間がかかるが、良く考えている。常にと言って良いほどに。
アニーの学園入学の話を言い出したのはシッカスだった。アルより相手にしたら不味いかもしれない。
立場もそうだ。俺はアニーの主であるエレの婚約者、アルはエレの弟、対象外もいいところだろう。しかしシッカスはどうだ、一番男として見られる可能性が高くはないか? いや! アルやシッカスに負けていられない。俺は忠誠心の塊のアニーの心をどうにかしないと、アニーに振り向いてもらえない。
あれ? 一番のライバルはエレか!?
俺達3人を見ながら、アニーに見れない位置からニヤニヤするエレを思い出す。大抵その後、俺達に見せびらかす様にアニーにお茶を入れてもらったり、菓子などの給仕してもらっている。
「「「最大のライバルはエレ(姉上)だ」」」
~アニーの1日~
俺ことルーカス・アラン・クレシアンは、レクシアン王国の第一王子として生を受けた。
王宮に勤める使用人は、能力があり出生のしっかりした者にしかなれない。いきなり王宮に勤める事はできないので、伯爵以上の爵位の屋敷で認められた者のみがやって来る。中には、王宮での地位を上げたいが為に、かなりの人数を押し付けて来て迷惑だ。その様な家から来る使用人は、まだまだ練度が足りない。
子爵以下の貴族は、子女を女官や侍女として出す事も多い。
王宮で育った俺は、俺が意識する前に必要な物が目の前に置かれている事が当たり前だった。
最近では父上の名代として、色々な貴族のパーティーに行くようになり、王宮の使用人の質が高い事が解って、更に王宮並みに練度の高い使用人を置くサステニア公爵家が気になっている。
アニーは俺と同じ10歳だがとても大人びている。アニーと話しをしていると、俺はマセた子供でしかないと解った。
アニーの1日が知りたくてアルに話したら、宰相夫妻に話しが通り、公爵家使用人を巻き込んだ“アニーの1日”のレポートを作る事になっていった。
【アニレッタ・モーウィの1日レポート】
AM*4:30 起床
5:00 公爵邸の清掃
6:00 使用人達と朝食
6:30 父親の執事長と一部の女性使用人と戦闘訓練
7:30 汗を流したりする
8:00 今日のスケジュール確認と準備
8:30 お茶を準備して、エレのモーニングコール
9:30 エレの朝食の給仕。エレの本日の確認と話し相手
11:00 エレと礼儀作法やマナーの練習(エレに付き合わされている)
PM*12:30 エレの昼食の給仕
13:00 エレを他の使用人に任せて自分の昼食
14:00 エレとアルに合流。週に二回俺とシッカスが公爵家にて『勉強』
16:00 魔法の練習。教師はアニーの両親、時々宰相夫婦が加わる
18:00 エレの着替え
19:00 エレとアルの夕食の給仕(俺達が行った日はその給仕もする)
19:30 給仕を離れて自分の夕食
20:00 俺達の見送り(普段は休憩)
20:30 アニー両親による使用人のあり方講座(他の使用人も混ざる)
22:00 エレの就寝の支度
22:30 自分の部屋で今日の反省、エレの明日の予定や準備(俺達の行く前日はその準備)。魔法陣の制作や研究
24:00 就寝
備考
・アニーは両親が忙しいので個人の部屋を持っている
できあがったレポートを読んで、間違いなく俺は真っ青になったと思う。大の大人も真っ青! どころか倒れかねない。これではアニーが過労死する。
一緒に読んでいた宰相夫人やエレ、アルの顔色も悪い。
宰相夫人は、エレが毎回礼儀作法やマナーの練習に付き合わせるのは感心しないと注意した後、アニーの両親を呼び叱りつけた。その後、アニーは7日に一度の完全休日が言い渡された。
宰相夫人に、アニーに何と言って休日を与えたのか気になり、聞いて見たが、にっこり笑って終わらされた。その笑顔を見た瞬間、世の中には知らない事もあって良いよなと思い、その後その質問はしない事にした。
宰相夫人あの母上の友人で、見たままの優しいだけの女性ではないのだろう。
読んでいただきありがとうございました。
感想等ありましたら、お気軽にお待ちしております。
短いので、ちょっと話し追加しました。
5回目のアニーの1日を纏められたら追加するかもしれません。たいして長くありません。→追加しました。
アニーは、4回目のアニレッタ(成人女性)の感覚で生活しています。
2015.07.17
修正多
修正しました。ご指摘ありがとうございます。
公爵婦人→宰相婦人
公爵婦人で良いとは思ったものの、出てこないとはいえ公爵婦人はそれなりにいるので。
映像としてある程度頭にあるのですが、まだまだ文章に直せていない様です。少しでも楽しめる様になっていますでしょうか。