須藤大和 薬剤師 26歳 所属 鳥羽研究施設
「狂った世界には狂った施設がお似合いだ」
これは施設長の口癖だ。誰だって分かるほどこの世の中は狂い始めている。【狂】それは自分にだって適応されている単語だろう。しかし、狂っている事さえ分からなくなってしまうのがこの施設。ここには人間が沢山収容されている。入居ではなく収容。きっとここは彼らにとっては過ごしやすい環境になっているのだろうけど、それは目先の日常であって結末は皆同じ道を歩んでいく。それが世の中、未来の為だと言い聞かせ私は彼らを実験道具として使っている。
「はぁ・・・私、やっぱりこの施設にあってないなー。実際、薬の開発とか言って彼らに副作用がでるかも分からない薬を渡してる訳だし・・・だからと言って反抗したら折角の施設に配属されたのに地方に飛ばされそうだし・・・あーもう!ちょっとぐらい休暇とってストレス発散したいよー!!」
バンバンと歳に似合わずパソコンのキーボードを強く叩いてしまう。誰もいない空間だからこそそう言った普段職場では見せないキャラを出したのだけど、ぷっと吹き出すような笑い声が後ろから聞こえてくる。すぐさま後ろを振り向くと白衣を着た男性が笑いながら近づいてくる。
「意外だな。大和さんってもうちょっとクールなイメージだったのに」
「ちょ、ちょっと!伊瀬さん!どうしてここに?帰ったんじゃあないんですか?」
彼は笑いながら隣の席へ座りポケットからおしるこを出し机に二つ置いてくる。
「いやー。大和さんが熱心に残業してるのに僕だけ帰るのもどうかと思って戻って来たんだよ。それにしても面白いものが見れたー」
笑いながらおしるこを開け飲み始める。私もとりあえず恥ずかしさを紛らわせるためにおしるこを一気飲みする。
「あまっ!」
「おしるこって一気飲みしないでしょ。普通は・・・」
「それは、伊瀬さんの普通ですよ!私の普通は人とちょっとだけ違うんです!」
彼とは本心で会話ができる数少ない同僚であり友人。気さくな性格で施設の収容者ともとても友好な関係を築いている。ふと目が合い逸らす、とパソコンの方へ視線を持って行く。
「そうそう、大和さんには話しておかなきゃいけないと思ってたんだけどさ・・・僕、例の場所へ転勤が決まったよ」
「え・・・於流施設に?」
「うん。」
「あそこって確か・・・赤羽たちが居るところよね?」
「うん・・・あ!でも僕は植山さんの所に配属されるから大丈夫だよ」
「あ、そう。だったらいいのだけど。でも、あの施設って相当ヤバい事をしているって噂だよ?」
すると先ほどとはうって変わり彼は妙に真剣な表情で液晶を見つめ直す。横顔は相変わらず格好よく少しだけ見蕩れてしまいそうになる。
「ん?」
「き、急にこっち向かないでよ!」
「ははっ。ごめん、ごめん!でもやっと掴んだチャンスだからね」
「チャンス?」
「あ、いや。なんでもないよ!とりあえず大和さんには話しておこうと思って。と言ってもまだ配属日は決まっていないからそれまではよろしくね!・・・と言う訳で僕はお先に帰らせて貰います!また明日!」
そう言うと彼は部屋を出ていき、視線をパソコンへと戻すと机の上に見なれないUSBがこっそりと置かれていた。