First Is End
勢いよく部屋の扉が開く、と同時に彼女は悟る。ああ、良い人生だった、今までごめんなさい、と。しかし、彼女の人生はここで終了ではなかった。勢いよく手を引かれ体勢を崩しながらも立ち上がる。予想外のことで彼女の思考回路は混乱していたが、手を引く彼を視界に入れると何故か張りつめていた糸が切れたように涙が出てきてしまう。
「どうして?」
彼は周りを警戒しているのか言葉が耳に入っていないのだろう。ただ、どこかへ彼女を連れて行こうとしている。彼女は解せなかった。どうして彼が自分をこうして助けようとしているのか。そもそも、助けようとしているということは彼には彼女の身の危険があると知っていたということだろうか?徐々に落ち着き始めた思考回路が動き始めてくる。最初は死を覚悟し死神を待っていた、が来たのは死神ではなく伊瀬であった。それも、いつもの知っている表情ではなく強張った固い顔でなにかに脅えているような雰囲気も感じる。しばらく手を引かれ伊瀬の研究室へと入る。移動が決まったせいかいつもは整理整頓が出来ていた部屋も段ボールが置かれ御世辞でも綺麗な部屋だとは言えない状態であった。しかし、それが少し彼女には安心できる状況でもあった。なんと言うか人間らしく微笑ましくあった。彼は部屋に入るなりすぐさま内側からロックをかける、と同時に深く重いため息を吐き出し腰が砕けるように地面へと座り彼女を見てくる。
「はぁ・・・急になにも言わずにつれてきちゃってごめんね!あーしんどかった」
先ほどとは違い彼女が知っているいつも通りの伊瀬であり安心したのか彼女もまた強張っていた肩の力を抜き近くにあるソファーへと座り、口を開く。
「一体全体どうしたんですか?廊下歩いている時凄い顔をしていましたよ?」
「いや。ちょっとソレを見て大和さんの意見を聞きたくて・・・」
そう言いながら彼はパソコンの方へ指を指す。視線を向けると彼女と同様の形のUSBがささっていた。彼女も驚きを隠せぬまま立ち上がり画面に映し出されていた文字を読み始める。
「これって・・・」
「そう。良く分からないけれど誰かが僕たちに訴えようとしているんだと思う。それも、以前この施設に居た人間。」
「でも、この文章からして・・・」
「そうなんだ。研究者側ではなく患者側の・・・」
「でも!オカシイですよこれ!!!」
信じてはいけない、いや、信じたくないと言う気持ちが高揚してしまい彼女は声を荒げてしまう。これじゃあ、今まで自分がしてきたことは救済だと思っていた。しかしこれじゃあただの殺害にしかなっていなかった。彼女は頭を抱え地面に座り込んでしまう。これじゃあ、自分は殺されてしまっても文句は言えない。
「でも、今知れて良かった・・・まだ間に合う可能性だってあるんだ」
「でも・・・私が作っていた薬品が・・・あぁぁ・・・」
言葉にならない。彼女は震え涙を流し崩れ落ちてしまう。彼は彼女を気づかう様に近づき段ボールから取りだした毛布をかけソファーへと誘導し予備に買ってあった缶紅茶を机に置きパソコンの前にある椅子に座り真面目な表情で彼女を見つめる。
「冷静になった?現実は受け入れがたいけれど、これが現実だったんだ。僕たちは人殺し。それも、罪のない人間を殺していた。それは事実なんだから、そこから目をそらしたらダメだ」
いつもと違い彼の言葉には怒気がこもっているようにも感じ、その怒りはどこに向けられているのかまでは彼女には分からなかった。しかし、正しいことだと思っていたことが本当はただの人体実験をしていたなんて知らされてすぐに切り替えられるわけもない、と彼は分かっていた、がお互いに時間が無いのも確かな事だった。そのため彼女とはしっかりと情報交換をしておかなければならなかった。




