Unconscious abnormalities
「自分から死に向かうなんて絶対にダメに決まっている。生きていれば絶対にいいことだってある。死んでしまえばそのいい事にも出会うことが出来ないんだよ!」
固着観念たちはまるで自分たちが正しいかのごとく言い放ってくる。冷静な表情をしていた彼女も彼の言葉にギロリ、と睨みつけてくる。
「そんなの誰だって分かっている。けれど、一番、彼女が楽になれる場所が死しかないの。そう思うことしか出来ない社会しか知らないの。可哀想に。こんな幼い子供が縋ろうとしているのが、死、なんて・・・儚いわ・・・まあ、私がそんな事をさせないんだけれど・・・子供たちに、そう思わさせてしまう社会を作ったのは誰?誰でもないあなた達でしょ?こんな施設に監禁して四六時中監視され人間として扱われる事もなく、ただ、ただ、病気を治すため、抗体ができれば世界の為になる、なんて言われ続け実験動物かの如く験体にされる日々。それのどこに希望をいだけと言うの?」
なにかを追悼するかのように彼女は天井を見つめる。彼はなにも言い返す言葉が見つからなかった。彼が言っている事はもっともだ。死んでしまえばなにも起こることがない。生きていさえいればいい事がある、しかし、本当にその言葉は正しいのだろうか?まだ、幼く心が完成していない子供にその言葉を言ったところでそれは救済になるのだろうか?むしろそれは、残酷な言葉であり、決して救済になる言葉にならないのかもしれない。
「分かったような事を言うのね・・・でも、いいわ。もう少しで彼女を救ってあげれるのだから・・・」
両腕を天井に向けての隙間から洩れる光をうっとりとした表情で見つめている。ふと、彼女はなにかを思いだしたかのようにこちらに顔を向けてくる。
「あなたを殺すつもりは本当にないけれど、分かっていてほしいの。彼たちは貴方を信用して計画を漏らしたみたいだけれどそれを外部に漏らしてしまったらあなたも殺すから。ただ、殺せない、んじゃあなくて、殺すつもりはない、だけだからね?それだけは覚えておいて」
「・・・確かに僕たちは君たちに殺意を向けられるような事をしている事は確かだ。殺されてしまっても仕方がないのかもしれない。けれど、必死に君たちが秘めているSTYを治療しようと頑張っている人だっているんだ。人を殺したいと思う気持ちを持つな、なんて言えない、言うつもりもない。感情、思考は生きる者の特権だ。けれど、それを自制心でとどめるのも人間なんだ。本能で動いてしまうとそれこそ人間じゃあなくなってしまう。君たちが一番大切にしている人間性を、だ」
柄にもなく、それも小さな子供に向かって怒声を浴びせてしまう。年相応の子供だったのならば大人がここまで声を張り上げると、驚き、たじろいでしまうだろう、が彼女はなんら表情を変えずこちらを見ているだけだった。すると、彼女は静かに立ち上がり出口でもある扉のノブに手をかけ、もう一度振り向いてくる。
「人間性はなから捨ててるわよ」
そう言うと彼女は部屋から出ていく。取り残された彼は未だどう対処すればよかったのか見いだせていなかった。もしかしたら最初で最後の交渉だったのかもしれない。しばらくすればこの施設内で無差別殺人が起こってしまう。
「くそっ!!」
彼は1つのフロッピーをポケットにしまい部屋から駆け出る。




