The dead do not revive.
誰もいない真っ白な廊下を無言で歩いている女性が一人。彼女は左右にあるドアノブを握りなにかを確認しての繰り返し作業をしていた。ドアの上部についている鉄柵から見えるのはぐったりとし、生きる目的を失っている表情をした研体者たち。彼らたちの表情を見るたびに精神が裂けそうになっていた頃が懐かしい。彼女は昔の自分を思いだしつい笑ってしまう。
「いつからだっけ。私が人間を止めたのって・・・ふっ」
彼女は相変わらず同じ動作をしながら真っ白な廊下を歩いていく。カツ、カツとハイヒールが地面を叩きつける音以外なにも聞こえない。それが日常だった、のだが今日に限っては違ったのだ。カツ、カツと言う地面を叩く音以外になにやらもう一つ異音が彼女の耳に入りこんできていた。
「足音?・・・ってそんな訳ないわよね?だって・・・」
ただ、足音が1つばかり多い事は彼女にとって非日常的な出来事であった。すぐさま彼女はポケットから小型連絡機で異常事態だと言うことを仲間に告げようとしたのだけれど、その行動はすぐさまもう一つの足音を立てていた人物によって阻止されてしまう。
「ごぼっ・・・」
吐血。美しい白衣を着ていた女性の口から大量の鮮血が吹き出される。純白だった白衣、廊下が鮮血色へとじわじわと変わっていく。意識が朦朧としている彼女の視線に入ってきたのは、先ほど鉄柵の奥に横たわり生きる気力を失っていた表情をしていた一人の子供だった。子供と視線が合ったかと思えば、そこで彼女の意識がなくなる。
「まだ生きていたのかよ」
有無を言わせることなく彼女に致命傷を与えたであろう子供の片手には女性の首らしきものをブラブラと持っていた。無理やり引きちぎったのか顔の皮膚は半分以上首が残っている胴体へ未だくっついている状態であった。ドサッと音をたて体は地面へと倒れこむ。未だに心臓が動いているのか一定の間隔で血が吹き出ている。徐々に鉄のにおいが廊下一面に漂い始める。それでもなおこの状況にした犯人でもある彼はその場を動かずにジッと立っていた。
ここまでするつもりはなかったから?まさかここまで酷い事をしてしまった自分に反省をしているからか?そうじゃあない。彼は待っていた。
「もう少しすれば・・・」
見周りに帰ってくるのが遅い、と心配し迎えに来る研究員を待っているのだ。自分から出向いてしまうとそれはそれでいいのかもしれないのだろう、けど今の彼にはそこまで面倒くさい事をする必要はないと思ったのだろう。
「どうせ、ここの奴ら全員、消すんだし・・・ふふっ」
両手に付着した血をひと舐めすると、彼は研究員がいつも入ってくる扉へ視線を向けた。




