Unconscious abnormalities
しばらくなにも考えることが出来ずにいた。子供たちは何やら楽しそうに会話をして平和な光景が広がっていたのだけれど、その光景を優しい微笑みを浮かべながら見れる余裕なんて無かった。ただ、頭の中で繰り返し再生させられる子供たちの、異常な笑顔、それだけ。腕力だけならばきっと子供たちなんかに大人が負けるはずがない、がここはそうも言ってられない。彼らには、異質な力、が生まれながらにして持っている。それは未だに解析できておらず、どのような遺伝子によって生まれてくるものなのか分かってはいない。実験には必ずと言っていいほどモルモット(どうぐ)が必要になってくる。殆どの場合は誰もが思い浮かべるネズミを使わせてもらい症状などを観察する。しかし、この場合はそうもいかない。恨まれるのも分かる、殺したいと思う気持ちが芽生えるのも分かる、が実験に使われる人間たちは意思を殺すための薬を投与されている。しかし、彼らたちにはその効き目が見えなかった。いや、それは決してない。あの薬を投与されたら最後、のはずだった。
「効いている・・・演技をしていた・・・のか」
ゾクリと背筋が凍るとはこの事だったのかもしれない。しばらくすると福の裾を引っ張られている事に気がつき下に視線を向けると湯ノ原葵が心配そうにこちらを見ていた。
「お兄ちゃん大丈夫?」
「あ、うん?どうした?」
「みんな帰っちゃったから・・・」
改めて部屋を見渡してみると葵以外、誰もいなくなっていた。
「そっか・・・でも、どうして残ってたの?みんなと一緒に戻ればよかったのに」
するとなにか恥ずかしいのかもじもじと自分の服の裾を握り少しだけ顔を赤らめながらこちらに視線を向けてくる。
「私、お兄ちゃんの事が好きだから心配だったの!」
その、素直な言葉が僕自身のなにかを変えた気がした、と言うより吹っ切れた気がした。ポンと彼女の頭に手を置き笑顔を向ける。
「ありがとうね。葵ちゃんに心配してもらって光栄だ」
彼女も照れながらも嬉しそうに笑っている。つられて僕まで笑ってしまう。お互いに笑い安心したのか彼女は近くにあった椅子へと座り机に置かれていたクッキーをポリポリと食べ始める。
「心配しちゃったからお腹すいちゃった!」
「そっか。ゆっくり食べなよ」
「お兄ちゃんも食べなよ」
「・・・そうだね。じゃあ、食べようかな」
彼女がクッキーを一枚差し出してきたのでそれを受け取り食べる、と彼女はぼそりと言葉を呟く。
「おにい・・・先生?」
「ん?」
「先生は死にたいと思った事ある?死んだから楽になれるんだよ?ね?」
ハッと彼女の瞳を見ると先ほどの優しい彼女ではなく冷たく、絶望を抱いている瞳の色をした誰かがそこに居た。




