表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/20

ゴースト

うまく伝わるかちょっと不安……でも、君なら大丈夫!

さあ、読解力フルパワーでついてきてくれ!(懇願)

 ボクはフウカたちと別れて、隣駅に降り立った。

 すでに目標の人物『イクノ レイ』の写真とパーソナルな情報は入手済みだ。

 身長百六十二センチ、体重五十八キロ。

 極端に太くも細くもないが少し陰のある瞳と大人っぽく見せる長い黒髪が印象的な女の子。


 時間がなかったのでそれくらいだ。


 クウヤのモバイルは相変わらず電源が切られたままだ。


 地図情報を呼び出して、明論学院と駅、それから『イクノ レイ』の家をチェックして、その三点の近くにある公園を虱潰しにすることにする。

 これでダメなら捜索範囲を広げるしかないと思う。

 幸いというべきか、明論学院は『イクノ レイ』の家からそう遠くない。

 調べるべき公園も大小合わせて六つに絞り込めた。


 ボクはローラーブレードを駆使して一気に加速する。


 ボクがその人物を見つけたのは三つ目に向かった住宅街の隅に申し訳程度の遊具が置かれた公園だ。


「クウヤ!」


「……シーフ先輩?」


ボクは急制動を掛けて、クウヤの近くで止まる。


「イクノ レイは?」

クウヤは残念そうに首を横に振る。


「シーフ先輩はどうしてここに?」


 ボクはスナオちゃんのことや、モバイルの電源を切った文句などを、ぐっと飲み込んで大事なことを聞く。


「……そんなことより、『イクノ レイ』の確保を急ぐ理由は?」


 すると、クウヤの目つきが変わる。

 これは、入ったな……と、ボクは身構える。

 入った、とはもちろんクウヤの変態脳、ファンタジック・ブレインのことだ。


「彼女は可哀相なゴースト(レイ)なんです。

 邪悪なる闇の魔導師によって人間の魂をアンデッド(&wet…)へと導くように改造(たぶん、薬漬け)されたために、自分の意志を奪われ、自らに近しい者をゆっくりと蝕んで(薬を勧めて)しまう……。


 そんな呪い(売人候補?)に掛かっていました。


 時折、我に返っては呪われた自分を嘆き悲しんだそうです。


 僕はウォーロック先輩に謎の魔法薬の話を聞いて、調査を進めている最中、彼女に出会いました。


 そして、彼女はシルフの女王の血縁である僕を知っていて、救いを求めてきました。

 ですが、僕には呪いの浄化魔法は使えませんでした。


 教会(病院?)に連れて行っても自然ならざる身では、霊体ごと消去される(警察に捕まる)可能性があります。


 それでは時を無駄にして、犠牲者が増えるだけです」


「でも、警察に任せるという選択肢はあったはずだろ?」


「いいえ、ウォーロック先輩によれば、自警団(警察)上層部に呪いが浸透している可能性があるので今回は使えないと言われました。

 そこで、彼女を操る邪悪なる闇の魔導師を探そうとしたんですが、奴は尻尾を掴ませない。(相手が分からない?)


 彼女に協力してもらって、定期的に魔法薬を供給する現場を押さえようとしたんですが……僕とホーリー先輩がそこに行った時には、使い魔(取引相手)の姿はなく、いきなり『ゾンビ』が襲いかかってきたのです。

 おそらく、こちらの動きを悟った敵が罠を配置、彼女は消えたのか、消されたのか……」


 クウヤは沈んだ表情を見せる。

 ボクはクウヤの言葉をどうにか解読していく。

 そして推論を口にする。


「だが、君はおそらく『イクノ レイ』は自ら姿を消したと思っているね」


「……はい」


 でなければクウヤが『イクノ レイ』のたまり場を探す理由がない。


「それは何故?」


「彼女の後悔は本物だと感じました。同時に彼女が呪いに抗う力が無いというのも……彼女はずっと怯えていたんです。


 僕との約束で魔法薬の摂取を我慢していましたが、彼女は言ったんです。


 目の前に薬があったら、その薬のために何でもしてしまうだろう自分が怖い、と……だから、彼女にしばらく姿を隠すように言ったんです」


「連絡は取れないの?」


「それが……昨日の夜、最後に会った時に魔導通信具(モバイル)を交換したんですが、魔力遮断(電源が切れている)をしてしまったらしくて……」


 それは昨日の夜から現在進行形でクウヤとレイちゃんのモバイルが入れ替わっているという話で、つまり、ボクがクウヤに連絡を取ろうと電話したのが原因でレイちゃんは電源を切った?

 だが、『慈流不壊』のメンバーならボクを知らないはずがないのだが?


 いや、待てよ……確かクウヤのモバイルだとボクの登録名は『シーフ』となっているはずだ。

 それではレイちゃんが、彼女の知るカイショウ アユムだと分からないのも無理はない。


 知らない人間から掛かってきた電話に出る訳にいかない。

 しかも、自分は逃げ回っている身だ。

 いきなり着信があって驚いてしまったのだとしたら、電源を切るという行為も頷ける。


 なんとも間の悪い……。


 ボクは起こったことを説明する。


 クウヤはそれを聞いて、ただ歯噛みしたような表情になる。


「起きてしまったことは仕方ない。

 お互いの情報を摺り合わせよう」


 ボク達は地図情報を開いてチェックした場所を確認していく。

 クウヤは駅前の本屋やファストフード店、コンビニなどひと通りチェックしてから公園をボクと反対回りにチェックしてきたらしい。

 ボクのチェックした残りを埋めてしまうとめぼしい場所がなくなってしまう。


「捜索範囲を広げるしかないですね……」


 クウヤが呟く。


「そういえば、クウヤのモバイルはレイちゃんのだったよね?」


「魔導通信具ですか。はい、そうですけど……」


 クウヤはまだファンタジック・ブレインにダイヴ中のようだ。

 いい加減、話がしづらいので元に戻すことにする。


 ボクは片手をポケットに突っ込み、もう片方の手でクウヤの肩を抱いて引き寄せる。


「なあ、クウヤ……」


「シ、シーフ先輩!?」


 クウヤの耳元に口を寄せて、囁くように言葉を紡ぐ。


「……そろそろ、いいだろう?」


「な、なな、何がでしょう……」


 ボクは身体を縮こまらせるクウヤをさらに引き寄せて、身体を密着させる。


「バカ……ボクに言わせる気か?恥ずかしい……」


「あ、あの、気持ちは嬉しいんですが、今は、そんな場合じゃないって言うか……あ、でも、なんか僕の胸の辺りにふにゅんふにゅんした……いや……あの……」


「げ・ん・じ・つに……」


ボクは軽くステップして身体を離す。と、同時にポケットの中で握っていた改造スタンガンを前に突き出す。

 まるで引き寄せられるように身体を前に向かわせるクウヤの腹にポイント。

 電圧を少し低めに、ボタンを押し込む。


「帰ってこんかーい!」


 バチンッ!


「あびゃっ!」


 変な声と共に、弾かれたように尻餅をつくクウヤ。


「はーっはっはっはっ!バカめ!いつまでも現実に帰ってこないから、脈絡のない話に乗せられるんだ!」


 クウヤは途端に情けない顔になる。

 それから、片手で顔を隠すように目を覆って、「すいません……」と呟いた。


「モバイル……」


 ボクは上気した頬を風で冷ますように上を見上げながら、片手を差し出してモバイルを寄越せ、とポーズを取る。


「いいですけど、通話とメール以外はロックしてありますよ」


「君はボクを誰だと思ってるんだ。こんなロックくらい……」


 言って、『イクノ レイ』のパーソナルデータから当たりそうな物を入れていく。

 誕生日、住所に使われる数字、名前からの語呂合わせ……ビンゴ!


 まずはアドレス帳をチェックする。

 家族、友人、行きつけの店、それからメール、写真やプリクラ、オンライン上での彼女がチェックや登録をしたサイト……同時にボクのノートPCにデータを無造作にコピーしていく。


「シーフ先輩……彼女のプライバシー……」


 いつの間にか復活したクウヤがボクの手元を覗き込みながら言う。


「別に、必要なくなったら消すし」


「でも、犯罪じゃあ……」


「それを職業犯罪者に言うのか……頭が悪いんだね!」


 適当にクウヤとやりとりしながらもボクの手は止まらない。


「それはそうなんですが……」


「ボクに『シーフ先輩』とか名付けておいて、君は何を言っているのかな?」


「……はい。すいませんでした」


 諦めたらしい。


「よし!と……」


「終わりですか?」


「ああ、レイちゃんのモバイルには部員全員のアドレスを入れておいた。

 キミはコレチカに連絡、人海戦術で行きつけの店や友人、怪しいところを片っ端から調べろ。

 どうせクウヤはここまでの経緯もちゃんと言ってないだろうから、それも説明すること!」


「ウォーロック先輩の大召喚魔法ですね!」


 また変態脳が活性化しそうなので、じとっとした目でクウヤを睨む。


「あ~……はい。それでシーフ先輩は?」


「ボクはボクで調べることがある。

 コレチカのところのコワモテ達じゃ調べようがない部分とかね」


「なるほど!」


 クウヤがついて来たそうなキラキラした目でボクを見つめる。


「連れて行かないよ。

 今回はコレチカにぎゃふんと言わせてやるんだ!

 君はコレチカ側だから、せいぜいコレチカと一緒に頑張るんだな!」


「……」


 クウヤが捨てられた子犬みたいな顔になった。

 猫派のボクには関係ないけど。


 ボクはその場を立ち去ろうとして、大事なことを思い出す。


「そうだ!ねえクウヤ」


「はいっ!」


 何だろう?クウヤの背中に見えないはずの尻尾がチラついたように見える。

 全力で。


 ボクは眼鏡の奥、目蓋をゴシゴシこすって、クウヤを見直す。

 うん、幻覚だな。


「この件が落ち着いたら、大事な話がある。

心しておいてくれよ」


 クウヤならファンタジック・ブレインでスナオちゃんをお姫様として見られるかもしれない。

 ボクはにっこり笑って、これはいい話だよという風にウインクしてやる。

 クウヤにもそれが伝わったようで、一瞬、何の話だか分からないといった感じに固まったが、それから「は、ははは……分かりました……」と笑った。


 うん、納得してくれたようで何よりだ。


 ボクはボクにしか取れない情報を求めて、ある場所へと向かうことにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ